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夢見月~Primavera~

THAT NIGHT【Cap.01】

~ Rui ~雪の中を宛もなく歩く。店を出た時に感じた寒さも、今はそれほど気にならない。それ以上に冷え切った、心。このまま凍え死んでもかまわない。どうせ生きていたって意味がないんだから…。店を出て、そう時間も経たないうちにかかってきた電話。その相手の苛立ちを伝えるかのように、着信音が低く響く。― もっと愉快なメロディにしとけばよかったかな…いつまで経っても鳴り止まないその音に、溜息が漏れる。ー これくらい...

THAT NIGHT【Cap.02】

彼女に声を掛けたのはほんの気紛れ。頭を撫でたのは、昔の彼女がそうすると泣き止んだから。けど、彼女の場合は違ったらしい。ー そうか…今度はそうしてみようかな…なんて、朧げに考えながら、ふと自分の現状を顧みる。ー 今度?今度なんて、俺にあるのか?全てのバックグラウンドを捨てた俺に、何の価値がある?今までの女は俺の見た目と将来に惚れてただけ。見た目は別としても、将来の保証を失った今、『今度』なんてあるとは...

THAT NIGHT【Cap.03】

「あんた、お酒強い?」「んー、そんなに強くはないかな…」「そう…それ、ちょっと度数高いから、気を付けて」「わかった…いろいろありがと」カクテルグラスを持ち上げると、彼女のグラスにそっと合わせる。「あんたがあんたらしくいられるように…乾杯」「え?」「そのカクテルに使われてるヒースって花の花言葉。 今のあんたにはぴったりだね」クスッと微笑み、カクテルに口を付ける。同じように、カクテルを口に含んだ彼女は、一...

THAT NIGHT【Cap.04】

それから、俺たちは他愛もない話で盛り上がった。彼女は時々声を上げて笑い、時々寂しそうに目を潤ませる。こんなにクルクルと表情の変わる女は初めて見た。どれくらいそうしていたか、わからない。気付けば、周りに客はいなかった。マスターに閉店を告げられたのは深夜1時を回った頃だった。会計をするために取り出した財布を見て、ふっと現実に引き戻される。ー そうか…俺、明日から無職なんだきっとあの親父のことだ。俺の口...

THAT NIGHT【Cap.05】

あの人にさよならを言われたばっかりなのに。数時間前、バーで知り合ったこの人と手を繋いで歩いている。雪が降るほど、空気は寒いのに。繋がった手だけは、何だか温かい。好きかどうかなんて、今はまだわからない。それこそ、この人がどこの誰かも知らない。これが正しいのかも。ただ、この人と一緒にいたい。この人の傍にいてあげたい…そう思った。だから、あたしからは聞かない…何も。いつもなら電車で帰る道を、名前も知らない...

THAT NIGHT【Cap.06】

カーテンの隙間から射し込む日射しで目覚めた。時間を確認しようと身動ぎした瞬間、繋がれた手の存在に気付く。「え…?」そこにはおとぎ話にでも出てきそうな、綺麗な寝顔の男。顔立ちは王子様みたいなのに、着ているのがスウェットっていうのが何か可笑しい。繋がれた手は、まるであたしを守るかのように、優しく包み込んでいる。ー ずっと手繋いでてくれたんだ…男性らしい大きな手と繊細さを感じさせる指を見つめながら、その違...

THAT NIGHT【Cap.07】

『イナザワ・ハル』アナグラムが導き出した、新しい俺の名前。これからはこの名前で生きていく。そこに何の躊躇いもない。目の前の女は『牧野つくし』と名乗った。たぶん、これは本当の名前。そんな器用に嘘を吐けるような女じゃないと思う。自分の気持ちに正直で、隠し事が苦手。喜怒哀楽がはっきりしていて、情が深い。ある意味、俺とは真逆。だからか、見ていて全然飽きない。そして、彼女といると、なぜか自然に笑えた。今まで...

THAT NIGHT【Cap.08】

ハル君と出会ってから1カ月が過ぎた。あたしたちの関係は何の変化もないまま、穏やかに時間は流れている。一緒にご飯を食べ、一緒にTVを見て。くだらないことで笑い合ったり、何も話さずぼんやりしたり。男と女、っていうより、気の合う友達って感じ。ハル君はあんまり自分のことは話したがらないんだけど、あたしはそれでいいと思ってる。いつか、彼の心の傷が癒えた時、きっと話してくれると思うから。**バレンタインが近付い...

THAT NIGHT【Cap.09】

牧野と出会ってから一ヶ月が経った。少しずつ落ち着きを取り戻したのか、彼女はよく笑うようになった。そんな彼女を見ていると、なぜかこっちまで幸せな気分になる。彼女の笑顔に、俺がどれだけ救われたか。出会ってまだ大した時間も経っていないのに、彼女がいない未来など考えられないほど大切な存在になっていた。ー これが『好き』ってことなのかな…そうと自覚した途端、胸の中でその想いが膨れ上がっていった。そんなある日...

THAT NIGHT【Cap.10】

後半で微R入ります~苦手な方はご注意ください。読まなくても全然問題ありませんので。☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆ハル君と初めてキスをした。その瞬間、彼が『気の合う友達』以上の存在だったことに気付く。一緒にいたいと思い、そばで寄り添えることが嬉しい。これが『好き』という感情なのかな?でもこれだけははっきりと解る…ハル君を失うことが怖い。優しく重ねられた唇から、ハル君の想いが流れ込んでくる。それはと...