2018.01/02(Tue)

My Destiny ~前編~


新年、明けましておめでとうございます。
皆様にとって、幸多き一年になりますように。
そして、今年も当ブログに足を運んでいただけたら幸いです。
(その前に更新してよ!っていうのは聞こえないフリ…)


やってきました、平成30年!
だからってな~んも変わりません!
元旦?何それ、おいしいの?
こっちは仕事だっつーのっ!

そしてそして。
昨夜は『スーパームーン』でしたね!
去年はシャイムーンイヤー…だと思っていたのですが。
実は、12月4日がスーパームーンだったみたい?
過ぎてから気付いて、あらま!ってなりました(笑)

新年早々のスーパームーン。
そして、この1月はブルームーンらしいです。
ひと月に2回満月が拝めちゃいます!
それに2回目の満月は、何と司の誕生日である1月31日!
いろいろめでたいなっ!(笑)


正月早々、変なテンションで書き始めましたが。
今年もよろしく、ってことで。
年明け一発目は、気紛れで書いた『My Destiny』。
これは『Moonlight Rhapsody』の続編です。
狼男・類くんと、その運命の相手・つくしちゃんの純愛?ストーリー。
以前、コメントで続編を!との要望もあり、1年ぶりのスーパームーンにあやかって書いてみました。

…連載の続きはちょっと待ってくださいね(^_^;)


ということで、よかったら読んでやってください。


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


運命の出会いがあるとしたら。
間違いなく、この二人は運命に導かれて出会った。

新月の願い。
満月の誘い。

月夜に動き出した運命の歯車はしっかりと噛み合い、滑らかに動き続ける。
その動きを止めることは、すなわち運命に逆らうということ。

長い呪縛を解くこの出会いに、愛の女神の加護を。


***


類とつくしが出会って1年。
花沢物産専務執務室から女性の嬌声が消えて、1年。
あの悪評もすっかり消え失せ、その変わり様に周囲は目を細める。
何があったか、までは知らない。
だが、それは紛れもなく『牧野つくし』の存在がそうさせた。

交際を開始して半年を過ぎた頃、類の両親と会った。
花沢の因縁を知ってもなお、揺るがないつくしの想いに、両親は笑顔でつくしを受け入れてくれた。
懸念材料であったつくしの出自も一笑に伏される。
近く、つくしの両親にも挨拶に行って正式に婚約を、とまで言ってくれた。

花沢社長夫妻がその関係を認めたとあれば、邪魔するものは何もない。
結婚は秒読みだろう。
そんな二人を、周囲は温かく見守っていた。


怖すぎるほどに、順風満帆だった。
つくし自身、類と歩む未来に1ミリも不安はない。
もし、この先に大きな障害が待っているとしても、類となら乗り越えられる。
つくしは、そう思っていた。


しかし、突然、その歯車に楔が打たれることになる。


***


休日のある日。
つくしはとある場所へと向かっていた。
郊外の、鄙びた小さな病院。
慣れた足取りでフロアを抜け、つくしはその病室の扉を勢いよく開けた。

「元気にしてた?
 なかなか来れなくてごめんね…進。」

その部屋で眠ったように横たわっているのはつくしの弟。
数年前、交通事故に遭った。
何とか一命は取り留めたものの、高度の意識障害が残った。
目を開けることも、言葉を発することもない。
ただ穏やかな顔で眠る進に、つくしは笑顔を向けた。
「今日はいいお天気よ。風も気持ちいいし。
 小さい頃、パパとママと4人でピクニックに行ったあの日みたい。」
温かなその手を撫でながら、元気だった頃を思い出す。
つくしと進は2つ違いで、とても仲のいい姉弟だった。
お転婆なつくしと、しっかり者の進。
両親が共働きだったため、二人で過ごした時間は多かった。
事故に遭って暫くはその現実を受け入れられなかったが、今となってはどんな状態でも生き続けていてほしいと思えるようになった。
「そうそう!あのね、あたし恋人ができたの!
 すっごいかっこいい人なんだよ!
 今度、進にも会わせてあげるね!」
類に進のことは話していない。
けれど、きっと類は進にも笑顔で語りかけてくれるはずだ。
―よかったね、姉ちゃん。
声は無くとも、穏やかな表情がそう言っているように見えて。
「うん、進もきっと気に入るよ。
 すごく素敵な人だから。」
幸せそうに微笑むつくしに、進も無言の祝福を送る。
静かに流れる時間を楽しむように、その後もつくしは進にいろいろと語りかけて過ごした。

程無くして、つくしの母親が病室を訪れた。
「あら、来てたの?今日は休み?」
洗濯物やら身の回りの物を詰めた鞄を傍らに置き、母も進に声を掛ける。
「珍しい人が来て、驚いたんじゃない?」
「そんなことないでしょ!月に一度は来てるし!」
拗ねた風にプイッと顔を逸らしたつくしに、母はクスッと笑う。
が、次の瞬間、その目を瞠った。
「つくし…あんた、彼氏できたの?」
「へ?何で…?」
まだ言ってなかったはずなのに…と不思議に思い、母を見ると。
その視線はつくしの首元を見つめていた。
「あ…これ?」
気恥ずかし気に首元を押さえ、つくしは僅かに頬を染めた。

露わになった首筋に残る、薄紅色の痕。
それは、紛れもなく類と愛し合った証。
その存在に気付いて怒るつくしに、類はクスッと笑って『虫除け、だよ。』と言った。

うっかり失念していたとはいえ、それを母に指摘されるとは。
しかし、母の表情は硬く、いつもの暢気な笑顔は消えていた。
「あんた…その人と結婚とか、考えてるの?」
まるで賛成しかねるとでも言いたげな母を、つくしは不思議そうに見つめた。
「まぁ、あたしもいい歳だしね。
 この前、向こうのご両親には会ったよ。
 すごく喜んでくれたし、ママだって会えばきっと気に入…」
「そういう問題じゃないの。
 とにかく、一度会って話しましょ。
 断られるなら、早いうちがいいわ。」
つくしの言葉を遮る母の口調は穏やかではない。
断られるはずなんてない。
そうは思っても、母の徒ならぬ様子に、つくしの心に不安が過った。




それから数日。
つくしはあの母の言葉を類に伝えられずにいた。
早く両親に会わせて、このモヤモヤを振り払いたいのに。
もし、母の言う通り、花沢の両親に結婚を断られたら…と思うと二の足を踏んでしまう。

そんなつくしに、類の態度は何一つ変わることはなかった。
それはあの日の出来事を全て知っていたから。

『知り合いに会いに行く』と言って出かけたつくしに、こっそりとSPを付けた。
最初は警備目的だったが、それ以上に誰に会うのか知りたかった。
つくしの行動に不審なことはなかった。
会いに行ったのは弟の元であることもわかった。
面会が終われば、笑顔で帰ってくるはずだ。
そう思っていた類に、SPから不穏な報告が告げられる。

『母親が結婚に難色を示している。』

薄く開いた扉から、漏れ聞こえた会話。
「断られるなら、早いうちがいいわ。」
その意味を理解するには情報が足りない。
そもそも、花沢の因縁を知った牧野の両親が逃げ腰になることの方が可能性としては高いはずだ。
花沢がつくしを受け入れない理由など、現段階では思いつかない。

ならば、早々に会うほかないと決め、両親にも連絡を入れた。
来週末に帰国する約束を取り付け、つくしにもそれを伝える。
「次の週末に両親が帰国するんだ。
 その時につくしの両親にも会いたいって。
 予定を空けてもらうように頼める?」
数瞬の間、つくしの表情が硬直する。
けれど、そんなつくしに類は優しく微笑みかけた。
「つくし。大丈夫だよ。
 つくしがいない未来なんて、俺にはあり得ない。
 もし反対されたとしても、ちゃんと話してわかってもらおう?
 どんなに時間がかかっても、俺は絶対に諦めないから。」
「類…。」
「寧ろ、俺の方が不安だよ…こんな男に娘はやれないって言われてもしかたないし。
 親父もね、母さんと結婚する時、猛反対されたんだって。
 そりゃそうだよね…こんな血、気味悪がられて当然だよ。」
自嘲を浮かべる類に、つくしは少し俯きながらフルフルと首を横に振った。
「…この前、ママと会った時、結婚したい人がいるって言ったの。
 けど、ママはすごく怖い顔をしてて…全然喜んでくれなかった。」
「俺のこと、話したの?」
再び、つくしは首を横に振る。
「話してない。
 ママって普段はほんと暢気な人だけど、人を色眼鏡で見ることは絶対しないの。
 だから、類のことを知っても、それだけで反対したりはしない。
 何か問題があるとすればあたしに…。」
が、つくしの言葉は類の唇に遮られる。
そっと触れるだけの、優しいキス。
一瞬の甘い感触につくしの意識は攫われ、それ以上の言葉は空に消えた。
呆気に取られたつくしの身体を、類の腕がフワリと包み込む。
「もし本当につくしに何かあったとしても、そんなの俺は気にしない。
 つくしのことを誰よりも愛してるし、結婚もつくし以外となんて考えられない。
 ママさんが何を心配してるのか知らないけど、俺につくしを諦めさせるのは無理だから。
 けど、つくしが気になるならちゃんと聞いてみよ?
 でもこれだけは覚えてて。
 どんなことがあっても、俺はつくしを手離さない。」
薄茶色の瞳に宿る強い意思を受け入れるように、つくしは類の背中をギュッと掴んだ。
「うん…あたしも、類以外考えられない。
 ママがどんなに反対しても、類と結婚、するんだから…。」
未来を誓い合うように、寄せた唇をしっかりと重ねた。

お互いの吐息を感じ、劣情が身も心も支配していく。
ゆっくりと横たえたつくしの華奢な躯体は類の熱に浸食され、自制を失う。
蕩けた瞳が、甘い嬌声が、類を煽り、溺れさせ、つくしを求める獣へと貶める。
「悪い女。けど、愛してる。」
最奥への侵入を果たしピタリと肌を合わせれば、もう誰も入り込める隙はない。
呼吸を整えるように深く息を吐くと、類は何かを思い出したようにポツリと呟いた。
「知ってた?今日はコールドムーンなんだ。」
「な、に…?」
「12月の満月のこと。
 それと、今夜の月はスーパームーン並みに地球に近い。」
「え?けど、今年は…。」
2017年はシャイムーンイヤー。
月の最接近は、ない。
「そ。けど、スーパームーン自体、きちんとした定義がないんだ。
 今夜の月をスーパームーンとするかどうかは学者それぞれの見解で変わる。
 けど、俺にとってはもう関係ない…つくしを愛することを知ったからね。」
間近で見つめる瞳が艶やかに煌めく。
ドキンと胸が高鳴り、類を包む熱がそれを愛でるようにキュウと収縮する。
堪らず軽く腰を揺すれば、つくしの顔が快感で歪んだ。
「愛する者を得て、姿を変えることを止めた血が、次に求めるのは何だと思う?」
不意の質問に、つくしの思考が追い付かない。
クスッと笑った類は、その正解を告げる。
「それは『血を継ぐ者』。」
「…え、それって…。」
僅かな苦笑を見せる類に見える、戸惑い。
繋がりを解くことも、それ以上の快感を求めることもできない、理由。
「言わない、っていう選択肢もあったんだけどさ。
 俺のエゴだけで決めていいことじゃない。
 子供がデキれば結婚は認めてもらえるかもしれない。
 けど、俺はこの血を…。」
今度はつくしの唇が類の言葉を切る。
「言ったよね、あたし。」

初めて、その身体を繋いだ日。
躊躇う類に告げた、その想い。

―あたしはその子を愛して、護るよ…

類の両親も、そのまた両親も、そうしてきたように。
どんな運命が待っていようと、愛し、護ると決めた。

「覚えてるよ、ちゃんと。
 つくしと出会えて、あの言葉をもらって、俺、救われたんだ。
 忘れるわけない。
 でもさ、先にやらないといけないことがあるでしょ?」
この状況で何を、とつくしは訝しむ。
「ママさんのこと、忘れてない?」
「あ…そうだった。」
頭の隅に追いやられていた問題を引き戻し、再び向き合う。
「大丈夫。俺が絶対守るから。
 つくしを幸せにできるのは俺だけだよ。」
「うん。類も、でしょ?
 あたしとじゃなきゃ、幸せになれないもんね?」
「当たり前。」
クスリと微笑み合って、キスを交わす。
二人の境が解らなくなるほど触れ合い、溶けていく。

昇りつめた先に待つのは、幸せな時間。


運命の女神・モイライの定め。
クロトの紡いだ糸によって導かれた、ラケシスの描く未来。
それはアトロポスの鋏が断ち切るまで続く。
その糸の太さも長さも、わからない。

ならば、その日まで。
迷うことなく、共にある幸運を喜び合おう。
邪魔者は、いない。
それが『運命』なのだから。


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


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2018.01/09(Tue)

My Destiny ~中編-①~


お待たせしましたっ!『My Destiny』の続きです!
…え?誰も待ってないって?(笑)

サクサクッと更新する予定だったんですがね。
PCの自動再起動でファイルがぶっ飛び、年始のドタバタに巻き込まれ、更には仕事。
空いた時間でちょこちょこ書いてはいたのですが、途中で話の辻褄が合わなくなって書き直し。
冬休み中のガキどもにも邪魔をされ、全然進まなかった(ノω・、)ウゥ

で、まぁ、何とか更新できそうなところまで書けたんだけど。
サブタイトルを見た通り、話が長くなりすぎまして(笑)
前・中・後では収まりきらなくなった(^_^;)
けど、たぶん5話くらいで終わるはず。

よかったらお付き合いくださいね♪


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


その週末、つくしの母親が花沢邸に招かれた。
花沢の両親が出向く意向を申し出てくれたが、つくしの母がそれを頑なに断ったからだ。

迎えのリムが車寄せに停まり、そのドアを使用人が開ける。
降りてきた母・千恵子はつくしとよく似た小柄な女性だった。
「…パパは?」
訝しむつくしに、千恵子は苦笑を浮かべる。
「今日はどうしても都合がつかなくてね。」
「あら、言ってくださればそちらの都合に合わせましたのに。」
類の母・優美は困惑気味に夫・孝に同意を求めた。
「ああ、そうだね。
 何だか無理を言ってしまったようで申し訳ない。」
「いえいえ!お忙しいことは娘から伺ってますから。
 主人も、お会いできなくて残念だと言ってました。それに…。」
千恵子の顔が一瞬強張る。
「私から、きちんとお話しなければならないこともあって…。」
その表情に、つくしはあの日の母の言葉を思い出す。
『断られるなら、早いうちがいいわ。』
拭うことのできない不安が胸を締め付け、つくしはグッと唇を噛んだ。
と、そんなつくしの手を、類の大きな手がフワリと包む。
―大丈夫。
つくしにだけ聞こえるように、囁かれた声。
弾かれたように見上げれば、そこには優しい笑みを浮かべた類の横顔があった。
『大丈夫。俺が絶対守るから。』
あの日言われた言葉を思い出し、つくしもその手を握り返す。
―うん、そうだね。
類と歩む未来しかないのなら、今、母と向き合わなければいけない。
何を言われようと、この気持ちは揺るがないことを伝えなければ。
そう思い直し、つくしは類の両親と共に邸へと消えていくその背中を見つめた。


重厚な日本家屋の廊下を静々と進む。
前を歩く千恵子の背中を見ながら、一緒に暮らしていた頃のことを思い出す。

牧野家はごくごく一般的なサラリーマン家庭だ。
陽気な父と暢気な母、元気でしっかり者の弟。
家は狭かったが、4人で肩を寄せ合い、楽しく暮らしていた。
大河原への就職を機につくしは独り暮らしを始めたが、離れて暮らしてもその仲の良さは変わらなかった。
ケンカもしたけど、いつだって笑顔の絶えない家族だった。
進の事故があって、その関係が多少ぎくしゃくしたこともあったが、根本は変わらない。
だからか、母の頑なな姿勢に違和感を感じる。
類のことは何も話していない。
人柄も経済力も申し分のない相手を選んだ娘の結婚を、なぜ喜んでくれないのか。
父の不在も気になる。
子供の頃の授業参観に、仕事を休んでまでも参加したがった父だ。
そんな人が、娘の結婚相手の両親に会うという日に欠席するとは思い難い。

きっと、母にとっても、自分にとっても、重大な何かがあるに違いない。

つくしがその背中を半ば睨むように見つめた、その時。

むにっ。

頬に感じた柔らかい痛みに意識が引き戻される。
頬を摘むその手の持ち主に視線を遣る、と。
「思い詰めすぎ。」
クスッと微笑みながら、つくしの顔を覗き込んだ。
「顔、怖いよ?ま、そんな顔も可愛いんだけど。
 でも、やっぱり笑ってる顔の方が俺は好き。」
チュッと掠めるようなキスを落とし、ポンポンと頭を撫でられる。
類の向こうには、気付いているのに態と振り向かない両親たちの背中が見える。
その気遣いに、つくしは小さく笑うと目の前の双眸を見つめた。
「ごめん。」
「大丈夫?」
「うん。」
しっかりと頷いたつくしの頭を、大きな手がもう一度撫でる。
「ん。いい子。
 終わったら、いっぱいキスしよ?」
「っ…でもっ!」
頭を過るのは、望まない結果。
そうなってしまえば、もう二度とそれは叶わない。
「悪い結果なんてあり得ないから。
 この前言ったこと、もう忘れたの?」
過った不安を振り切るように、つくしはブンブンと首を横に振る。
「ごめん。忘れたわけじゃないけど、見失いかけてた。
 でももうほんとに大丈夫!」
その瞳に力が戻ったのを感じ、類は目元を和らげた。
「OK。じゃ、行こ。」
二人はしっかりと手を取り、足を踏み出した。



12月の柔かな陽射しが射し込むリビングに、微妙な空気が漂う。
類の両親の穏やかな表情に反して、つくしの母の面持ちは硬い。
類と並んで座るつくしには、その表情が丸見えだ。
「そんなに固くならないで?
 もっと気楽にお話しましょう?」
優美の柔かな声が空気を和ませる。
「いえ、あの…その…」
何から話していいのかと言い淀む千恵子に、類がフワリと微笑んだ。
「つくしのママさん、はじめまして。
 俺は花沢類、こっちは父の孝と母の優美です。
 俺とつくしは1年ちょっと前に知り合って、付き合い始めて1年が経ちます。
 これまでご挨拶に伺わなかったことは申し訳ないと思っています。
 ですが、つくしとのことは真剣に考えています。
 俺の人生を賭けて、絶対に幸せにすると誓います。ですから…。」
類は小さく息を吐くと、その口元を引き締める。
そして、向かいに座る千恵子へと頭を下げた。

「つくしを、俺にくださいっ!」

つくしはその姿に一瞬見惚れ、慌てて一緒に頭を下げた。
「ママ、あたし、類と一緒にいたいの。
 あたしも、類のこと、幸せにしたい。
 類とじゃなきゃ、幸せになれない!
 だから、お願い…っ!」

二人の真剣な様に、類の両親は口元を綻ばせる。
誰かに頭を下げるなど、これまでの類なら考えられなかった。
つくしと出会って、愛すること、愛されることの喜びを知った。
忌々しい運命も苦々しい過去も受け入れてくれた彼女には、感謝してもしきれない。
「ねぇ、牧野さん…」
「…二人とも、頭を上げてちょうだい。」
千恵子の淡々とした声が静かな部屋に響く。
その声は決して穏やかではない。
頭を上げた類とつくし、そして類の両親もまた、千恵子を見つめた。

「類さん…あなたが、あなたの家が、もっと普通だったらまだよかったのに。」

ポツリと呟いた千恵子の声が、泣いているように聞こえた。



千恵子がこのことに気付いたのは、本当に偶然だった。
きっかけは、進の事故。
事故自体は単なる接触事故で、転倒時に頭を打ったが目立った外傷はなかった。
が、その数日後、進の容体が変化した。
診断は『脳挫傷による外傷性脳出血』。
すぐに緊急手術が行われ、一命は取り留めたが意識が戻ることはなかった。


数か月後。
一人の女性が進の見舞いに訪れた。
彼女は進の姿を見るなり、苦笑を浮かべる。
「久しぶりに会ったけど…亡くなった兄さんにそっくりになってきたわね。」
「…そうね。」
千恵子の脳裡に浮かぶのは、在りし日の元夫の姿。
つくしと進の父親は今の夫ではない。
そのことはつくしも進も知っていて、それでも親子関係は良好だった。
「亡くなってからわかったらしいんだけど。
 あの人、『血友病』だったんだって。」
「…え?」
耳慣れない病名に、千恵子は首を傾げた。
朧げな知識で、血が止まりにくい病気だということは知っている。
男の子に遺伝しやすい、ということも。
ならば、進はこの病気を持っていたのだろうか。

千恵子の疑問に、進の主治医はそれをあっさりと否定した。
「その病気は『伴性劣性遺伝』といって、男の子に遺伝することが多いのは確かですが、進君はそうではありません。
 なぜなら、お母さんであるあなたが遺伝因子を持っていないから。
 父親が血友病だったからといって、子供が発症することは滅多にありません。」
その言葉に、千恵子はホッと胸を撫で下ろした。
「ですが、何もないかといえばそうでもなくて。
 実のお父さんが血友病ということであれば、娘さんは『確定保因者』になります。
 つまり、娘さんが今後お子さんを産んだ時、その子供にこの病気が遺伝するかもしれません。
 子供に発症する確率は、単純に考えれば1/4、男の子であれば1/2、女の子でも1/2の確率で保因者になる。
 それは遺伝子検査をしなければ確定はできませんが、リスクがあることは忘れない方がいいでしょう。」
つくしがその因子を受け継いでいることは理解したものの、今一つ現実味のない話だった。
いずれつくしも恋人ができ、結婚を考える相手に巡り合うだろう。
その時になったら伝えればいい。
千恵子はそう結論付けて、その事実をつくしには伝えなかった。

その後、つくしと何度も顔を合わせたが、恋人の存在を感じることはなかった。
元々男っ気のない娘だし、結婚話が出るのはもっと先になるだろう、と思っていた矢先。
ふと目に付いた、首筋に残る鬱血痕。
それが何なのか、理解できない千恵子ではなかった。
言わなければ。
事実を知らないつくしは、相手の両親にも会い、結婚の許しをもらっていると言う。
けれど、つくしが持つ病気のリスクを知れば、相手方から断られる可能性もある。
その時に傷付くのはつくしだ。
ならば、結婚の話が進む前に、先方にこのことを伝えておかないと。



千恵子の話を、つくしは信じられない思いで聞いていた。
誰と結婚しても、そのリスクは回避できない。
自分が男の子を産めば、その子供に辛い思いをさせることになる。
類とは結婚したいし、子供も産みたいとは思う。
けれど、そんな重荷を類にも、子供にも背負わせたくはない。

つくしは心を落ち着かせるように、目を瞑った。

決めるなら早いうちがいい。
が、すぐには決められない。
少し、少しでいいから、時間が欲しい。

暫しの後、つくしはゆっくりと大きく息を吐き、目の前の母を見つめる。
「ママ。教えてくれてありがとう。
 突然言われて、今はどうしたらいいのかわかんない。
 だから、ちょっと考えさ…」


「俺は、そんなの、気にしない。」


つくしの言葉を、類の強い口調が遮った。



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2018.01/09(Tue)

Tranquilizer 46


『Tranquilizer』も更新しちゃうぞぉ~♪
いつになったらクリスマスが終わるんだ?(笑)

ま、もうちょっとお付き合いくださいませ(*^-^*)


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


子供たちのはしゃぐ声をBGMに、和やかな時が過ぎる。
しかし、それは突然現れた幼い女の子の声によって流れを変えた。

「いくく~~~んっ!」

まるでタックルをするかのように、小さな身体が郁へと走り寄る。
「うわっ!びっくりした~!」
「こらっ!樹!ちゃんとご挨拶しないとっ!」
「してるもんっ!いつき、いくくんにあいたかったんだもんっ!」
郁にしがみついたまま、恨めし気にその母親を睨みつける。

と、その時。

「郁っ!てめぇ、うちの娘に手ぇ出すんじゃねぇ!」

突然の怒号に、驚いたのは郁だ。
暫し茫然とした後、その瞳からポロポロと涙が零れる。
「ヒ、ック…ウワ~ンッ!」
郁が泣き出すと、釣られたように周りの子供たちも声を上げて泣き始める。
先ほどまでの笑い声が一転、リビングに子供の泣き声が響き渡った。

「「「司っ!」」」

一斉に向けられた非難の声に、その男―道明寺司―は憮然と顔を顰める。
「は?何で俺が責められんだよ!
 元はといえば、郁が樹に…」
「パパっ!いくくんのことわるくいうなんて、ひどい!」
樹が更に声を上げて泣くと、妻である滋ですら司の言動を詰った。
「司、今のは司が悪い。いくら娘が可愛いっていっても限度があるわ。」
それぞれの母親が子供を宥める中、類はひょいと郁を抱き上げる。
「郁がいつ、司んちの子に手出した?
 ちゃんと見もしないで勝手なこと言わないで。
 そっちが勝手に抱き付いてきただけで、そんな扱い?」
冷やかな類の言葉に、総二郎とあきらも呆れ顔で頷く。
「何だよっ!全部俺が悪ぃって…っ」
再び司が声を荒げた、瞬間。


パッ。


リビングの照明が落ち、常夜灯のオレンジの灯りが部屋を照らす。
と、その入り口に立つ人影が陽気な声を上げた。

『Merry Christmas~!!』

恰幅のいい体躯に、顎にはフサフサの白髭。
赤と白の服を身に付け、肩には大きな袋を担いでいる。

「サ、ンタ…さん?」
子供たちは驚きのあまり泣くのを止め、その人影に目を凝らす。

『今日はクリスマスだ。
 泣いてる子にはプレゼントはあげないよ?』

背恰好や声音に覚えはない。
「…誰だ、あれ。」
総二郎の呟きに、背後からクスッと笑う声が聞こえた。
「本物のサンタクロースさ。」
「本物って…フィンランドからわざわざ?」
「もちろん。私では幸太郎にバレてしまうだろう?
 なら、いっそ本物を呼ぼうと思ってね。」

涙を引っ込め、満面の笑みを浮かべた子供たちは一斉にサンタクロースの元へと駆け寄る。
そして、1つ1つ丁寧に手渡されたプレゼントに嬉しそうな声を上げた。

『みんながいい子に仲良く遊べたら、また来年も来るよ。できるかい?』

「「「「「「うんっ!」」」」」」

『では、また来年会おう。Merry Christmas!』

「「「「「「めりーくりすま~す!」」」」」」

笑顔で手を振りサンタクロースを見送ると、手にしたプレゼントを大切そうに抱えて親の元へと戻る。
それを開けた途端、無邪気な笑顔が零れた。


郁は手にしたおもちゃをじっと見つめている。
その表情は喜んでいるようにも、そうでないようにも見えた。
「郁?どうしたの?」
類もその様子が気になり、二人して郁の前に膝を付くと。
「ママ。これ、あげる。」
差し出してきたのはテディベアのぬいぐるみ。
「え?でもこれは郁がもらった物でしょ?」
しかし、郁はそれをつくしに差し出したまま、ニコリと笑った。
「僕はもうパパとママから欲しい物をもらったからいい。
 これはママのお腹の中にいる赤ちゃんにあげるんだ。」
「「…え?」」
「僕ね、ずっとサンタさんにお願いしてたんだ。
 パパとママと僕に、赤ちゃんをくださいって。」
きょとんとするつくしにテディベアを押し付けるように渡し、郁はクルリと向きを変え、おもちゃのある方へと駆け出した。
「こーくん、ゆーま、こっちであそぼ!」
そこに樹と美麗、美綺も交ざり、再び子供たちの笑い声が響く。
「…何なの、いったい。」
苦笑を浮かべ、手元のテディベアを見つめるつくしの瞳が僅かに揺れる。

郁が生まれて5年。
二人目を望む類とつくしの元に、その音沙汰はなかった。
つくしもそろそろいい歳だ。
欲しい気持ちと諦めの気持ちは言葉を交わさずとも感じていた。
そんな二人に郁の言葉は重い。
どうしていいのかわからず見上げると、それは類も同じだったようで、二人は目を合わせ苦笑いを浮かべた。

「子供の言うことって、案外当たってるかもよ?」

ポンッと肩に乗った手に振り返ると。
「私は郁君の言うことを信じる、かな。」
「優紀…」
「俺も同感。類、身に覚えがないわけじゃないんだろ?」
「総二郎。その言い方、やめて。」
「夫婦なんだから別にいいじゃん。」
揶揄うような言葉の裏に感じる親友の気遣いに、類はハァと溜息を吐いた。

「ねぇ、つくし。今度は私の番だね。」
「え?」
「今、妊娠してない、って確かめさせて。
 もし検査しないって言うんなら、フランスに帰してあげないから!」
数年前、優紀に向けて言った言葉をそのまま返されて、つくしは困惑する。
可能性がないわけではない。
が、それを否定された時の胸の痛みを思い出し、二の足を踏んでしまう。
何より、郁ががっかりするのは見たくない。
「む、むこうに戻ったら…」
「ダ~メ!もし何かあってからじゃ遅いんだから…って、自分で言ったんじゃない。」
「う~…」
優紀の言うことはもっともだ。
そもそも、元はといえば自分がそう言ったからだし、あの時優紀はちゃんと応えてくれた。
「わかった。けど、今は手元にないから…」
最後の手段で誤魔化そうとするつくしに、優紀はクスッと笑うと。
「はい、これ。使って。」
スッと差し出された小さな紙袋は、おそらく何処かのドラッグストアの物。
「は?何でそんなの持ってるの?」
「ん~、何となく?
 あの時はつくしからもらっちゃったし。
 もらった分を返すだけだから、気にしないで使って。」
逃げ道を封じられ、どうしたものかと類を見る。
「ま、しょうがないよね。
 調べないと帰してもらえないんなら、調べるしかないでしょ?」
グイっと肩を寄せられ、類に促されるようにリビングを後にする。
肩に触れた類の手が僅かに震えているのを感じ、つくしは祈る思いでその箱を開けた。


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


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2018.01/10(Wed)

My Destiny ~中編-②~


『My Destiny』中編その②を更新します。

読む前に言っておきますが、これはあくまでも私の妄想です。
都合よすぎっ!とか、そう思っても、そのままスルーしてください。
自分の都合で話を展開させている自覚はあるので(笑)

中編は3話に分けるつもりでしたが、何とか2話でまとまりました。
ということで、この次は予定通り後編で完結です。
『Tranquilizer』のように迷走しないうちに終わらせます(笑)


では、続きをどうぞ♪


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


驚いて類を見上げると、その表情は意外にも柔らかいものだった。
「…類?」
「ごめん。俺、ちょっとホッとしてる。」
「へ?何で?」
「つくしがさ、俺のこと、受け入れてくれたのは嬉しかったんだけど、やっぱり心苦しかった。
 つくしにも、子供にも、辛い思いさせるのわかってるし。
 つくしの幸せを考えたら諦めるべきなんだろうけど、諦められなかった。
 俺がつくしに負わせるものを、あんたは気にしないって言ってくれた。
 だから、俺もそんなのは気にしないよ。」
穏やかに微笑む類に、戸惑いの色はない。
「けど…っ!」
「血友病は確かに治らない病気だけど、治療方法はある。
 日常生活で気を付けないといけないことも多いけど、普通に生活することもできる。
 だから、それだけだったら何の問題もないじゃん。」
あっけらかんと話す類に、つくしも千恵子も茫然とする。
と、その時。

「HemophiliaのDefinitive carrier、か。」

ポツリと呟いた孝に、視線が集まる。

「牧野さん。話しづらいことなのに、話してくれてありがとう。
 ご存知ないかもしれないが、その病気は以前は『王家の病』と言われていてね。
 ヴィクトリア女王の家系やハプスブルグ家などのヨーロッパ王族に多く見られていたんだ。
 だが、その血族は今も健在だ。
 類も言ったように、完治させることはできなくても治療法は確立されている。
 それに、公的な補助も受けられるから、莫大な治療費がかかることもない。
 牧野さんがきちんと話してくれたおかげで、こちらも心積もりができた。
 私たちとしてはつくしさんを迎え入れる気持ちに変わりはない。」
きっぱりとそのリスクを受け入れる姿勢を見せた孝を、千恵子は信じられない思いで見つめた。
「つくしさんとは数えるほどしかお会いしていないが、類にはもったいないくらいのお嬢さんだ。
 親の私たちですら手を焼くこの愚息を心から愛し、寄り添ってくれている。
 うちに嫁ぐより、もっと幸せになれる道もあるだろうに…。」
「正直、私たちは類君の結婚は諦めてたの。
 類君には申し訳ないけど、ここでこの血を絶えさせてしまった方がいいとさえ思っていたわ。」
切なげに微笑む優美の肩を、孝はそっと抱き寄せる。
二人の表情から、その思いに至るまで、幾度となく胸を痛めてきたことが解る。
「つくしのことをそこまで思ってもらえて、親としては喜ぶべきなんでしょうが。
 ただ、やっぱり引け目を感じてしまうというか。
 花沢さんのお家柄に見合った方をお迎えする方がいいのではないかと…。
 うちは極々一般的なサラリーマン家庭ですし。」
千恵子は申し訳なさそうに肩を竦めるが、孝は
「そんなことは取るに足りない問題ですよ。
 そもそも、うちだって…」
言い淀み、言葉を切った孝は、苦悩に満ちた視線を類へと向ける。
その意図を理解した類は小さく頷き、その手をグッと握りしめた。


孝は意を決し、上着の内ポケットから1枚の写真を取り出すと、千恵子の前に置いた。
そこに写っていたのは凛とした面持ちで佇む、一頭の狼。
窓から射し込む月光が躯体を覆う銀糸に反射して、神々しささえ感じる。
「…これは?」
その写真に写る姿を、千恵子は綺麗だと思った。
口元から覗く鋭い牙に獰猛さも感じるが、それ以上に物悲しさが胸を締め付ける。
孝は暫し瞑目すると切なげに口元を歪め、その重い口を開いた。

「これは…類です。」


孝が語ったのは、花沢の嫡男に課せられた『因縁』。
愛する者を得て、自身の変化は止まっても、その子供たちに脈々と受け継がれてきた『血』。
それは類も例外ではないという事実。
そのことを訥々と話す孝を、千恵子は信じ難い気持ちで見つめていた。

つくしも、類のその姿に目を奪われる。
話には聞いていたが、実際にその姿を見たわけではない。
だが、これは紛れもなく類なのだと感じる。
だからなのか、1ミリの嫌悪感も抱くことはなく、寧ろ微笑みさえ浮かんだ。
「あたし、狼になった類も好き。」
ニコリと笑ったつくしの目に映るのは、人の形をした類の姿。
が、その瞳の奥に、銀色の面影を偲ぶ。
「見てみたかったな…。」
ポツリと呟き、眩しそうに目を細める、と。
「つくし…あんた、知ってたの…?」
やっとの思いで吐き出した千恵子の声が僅かに震えている。
それを、つくしは何てことないといった風に、クスッと笑った。
「知ってたよ。
 知ってて、それでも一緒にいたいと思ってる。
 正直、さっきの話を聞いて、諦めようとも思ったけど。
 こんな類のかっこいい姿見たら、その気持ちも吹っ飛んじゃった。」
アハハッと笑うつくしに、不安の欠片さえ感じない。
「最初聞いた時はさすがにビックリした。
 でもね、それ以上に、類のこと好きになってた。
 これが好きな人の運命なら、受け入れるしかないじゃない?
 この先、大変なことが待ってるって解ってても離れたくなかった、それだけだよ。」
今更離れるなんてあり得ない。
つくしの大きな瞳が、そう母に語りかける。
「けど、もし男の子が生まれたら…。」
2つの因縁を抱えた子供の行く末を案じ、千恵子は思わず顔を両手で覆った。
「それが、そうでもないかもしれません。」
孝の声に、再び視線が集まった。

「過去に一人だけ、この因縁を受け継がない男の子供が生まれたことがありました。
 その当時はここまで医療も発展していなかったし、なぜそうなったのかもわからなかった。
 けど、母方の系譜から、一つの可能性を導き出した。
 それが『HemophiliaのDefinitive carrier』だった。」
「それって…」
類の声が震える。
「花沢の血は遺伝子レベルでは何ら異常は見当たらない。
 が、確実に受け継がれるそれとHemophiliaの染色体異常がどう作用するのかもわかっていない。
 私は優美と出会う前、何度かマッチングさせられたことがある。
 だが、誰ともうまくはいかず、父も諦めた。
 花沢の親戚連中は、類にもその因子を持つ女性との見合いを勧めてきたんだがね、全て断ったよ。」
「花沢さん…なぜ…?」
千恵子の疑問に、孝はクスッと口元に笑みが浮かべた。
そして、優美を見つめながらその思いを呟く。
「類にも、幸せな結婚をしてほしかった。
 私が優美と出会えたように、類にもきっと想い合える女性が現れると信じていたんだ。」
愛する人と寄り添える幸せを知っているからこそ、優先すべきは息子の想い。
だから、つくしとのことを認めた。
「類、これはあくまでも可能性があるというだけの話だ。
 確証は何一つない。
 授かった子供が、2つのリスクを背負っていることを忘れるんじゃないぞ。」
「わかってる。
 それでも気持ちは変わらない。
 つくしは?聞きたいことがあれば今聞いておきなよ。」
類の言葉に、つくしは首を横に振る。
「何もないよ。
 ただ、あたしは類と結婚することをママにもパパにも進にも喜んでもらいたい。
 ママは心配だろうけど、あたしには類と生きる未来しか見えないの。だから…」
言いたいこと、伝えたいことは山ほどある。
しかし、それを遮ったのは誰でもない、千恵子の涙だった。
「ママ…」
「あら…ごめんなさい。嬉しくて、つい…」
バッグからハンカチを取出し、そっと目元を押さえる。
その口元には笑みが浮かび、それまでの頑なな気配も失せていた。
「つくし。
 パパもママも進も…亡くなったあの人も、あなたの幸せだけを望んでいるわ。
 類さんと生きていくと決めたのなら、それなりの覚悟ができているのよね?
 子供のことだけじゃなくて、家柄の違いに後ろ指を指されるかもしれない。
 その時になって泣いても遅いのよ?」
「わかってる。あたしが類には釣り合ってないのは本当だから。
 そういうのは今までもあったし、これからだってあるとは思う。
 けど、そんなことくらいで、類のこと、諦められない。」
つくしの真っ直ぐな想いに、千恵子は苦笑を漏らす。
「あんたってほんと昔っからそういうとこ、変わんないわね。
 しっかりしてるかと思えばそそっかしくて、見てるこっちがヒヤヒヤしどうしだったのよ?
 けど、言い出したら曲げないのも知ってる。
 いいわ…つくしの思う通りにやってみなさい。
 それで、もしダメなら…」
「ダメになることはないですから。」
それまで、つくしと千恵子のやりとりを静観していた類が、きっぱりと言い切る。
「俺もつくしも、そんな生半可な気持ちで将来を誓ってない。
 必ず幸せにします。
 ママさんが危惧するような状況には絶対になりません。」
類の強い意思を感じた千恵子は、一瞬目を瞠り、そして相好を崩した。
「そう…なら、つくしのことはお任せします。
 花沢さん、こんな娘ですが、どうぞよろしくお願い致します。」
類、そして孝と優美に深々と頭を下げる千恵子に、孝と優美も安堵の笑みを漏らす。
「牧野さん、どうか頭を上げてください。
 こんな愚息に大事なお嬢さんを託してくださって、本当に感謝します。
 これからは共に、二人のことを見守っていきましょう。」
「つくしさん、類君のこと、お願いね。
 類君も、ちゃんとつくしさんのこと、護ってあげるのよ?」
双方の親から快諾を得、つくしの瞳からポロリと涙が零れる。
「ママ…ありがとう。
 お義父さん、お義母さん、これからよろしくお願いします。」
つくしもまた、千恵子と同じ様に深々と頭を下げる。
そんなつくしの肩を、類の大きな手がそっと抱き寄せた。


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


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2018.01/12(Fri)

My Destiny ~完結の一歩手前~


安定?の不定期更新です。
いつ更新される(できる)かわからないので、たまには覗いてみてください(笑)

そして。
は?っていうサブタイトルでごめんなさい。
予想通り、というか、やっぱり後編も1話では終わりそうもありません。
ということで、諦めて最後までお付き合いいただけると嬉しいです(*^-^*)


余談ですが。
見ての通り、サイトのテンプレ変えました。
前のシンプルなのも好きだったんですけどね。
たまには気分転換もいいでしょ?
昔は手打ちでホムペ作ってたこともあったんだけどねぇ…(遠い目
もうそんな気力も知識もありません(^_^;)


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


帰宅する千恵子を見送り、4人は改めてリビングで向き合った。
「何とか認めてもらえてよかったな。」
安堵したのは皆同じで、目を見合わせて小さく笑った。
「父さん、さっきの話は本当?初めて聞いたんだけど?」
「ああ。だが、さっきも言った通り、確証はないんだ。
 HemophiliaのDefinitive carrierなら誰でもいいというわけではない。
 件の母親と息子は詳細はわからないが、行方知れず。
 おそらく、それを受け継いでいないことで嫡男とは認められなかったんだろう。
 この可能性に気付いたのは私の父の代になってからだったし、それまではこれが花沢の嫡男の宿命だと思われていた。
 けど、父も私も、そんなものは不要だと思っている。
 つくしさんのお母さんが言っていたように、親は子供の幸せを願っている。
 もし、つくしさんがDefinitive carrierでなかったとしても、私たちは歓迎したし、見守るつもりでいたよ。」
その思いに同意するように、優美も静かに頷く。
それが、さも当然かのように。
「けど、偶然とはいえ、凄い確率で出会ったんだね、俺たち。」
「そうだな。
 実は、お前が闇雲に関係を持った女性たちの中にもDefinitive carrierはいたんだ。
 まぁ、それは後から知ったことだったけども。
 だが、その女性とはうまくいかなかった。
 だから、私は思うんだ…君たちの出会いは必然だったんだろう、とね。」

偶然ではなく、必然。
それがもし本当であれば、何かが変わるかもしれない。
未来のことはわからない。
けれど、不安はない。

「俺たちが出会ったのは新月の夜だった。
 姿の見えない月に、つくしは出会いを、俺は再会を祈った。
 皮肉だけど、それが必然だとしたら抗うことはできないね。」
「うん。もしこの先何があっても、類はあたしの『運命の人』だからね?」
「ん。絶対離さないから、覚悟してて。」

見つめ合う視線に熱が篭る。
だが、今はまだ両親がいる。
類は早くつくしと二人きりになりたくて、その手を引いた。
「もう下がっていいよね。」
「る、類…っ!」
その余裕の無さに、孝は口元を綻ばせた。
「構わんよ。けど、あんまりつくしさんに無理はさせないようにな。」
言葉の意味を正しく理解したのは類だけで、つくしはきょとんと小首を傾げた。
「…わかってる。行こう、つくし。」
「え?あっ、ちょっ…!」
引く手の力強さに強引さを感じても、抗うことはできない。
つくしは去り際にペコリと類の両親へ頭を下げ、その手をしっかりと握りしめた。
「ふふ…類君、嬉しそう。
 つくしさん、大丈夫かしら?」
「さぁね。
 まぁでも、孫を抱く日も近いだろう。
 何せ、1ヶ月も待たずに『あの日』が来るしな。」

遠ざかる足音は、近付く未来からの福音。
笑みを深くした孝に、優美も微笑みを浮かべ、その音に耳を澄ました。



つくしの手を引き、自室へと急ぐ。
歩き慣れているはずなのに、今日はやけに長く感じるのは気持ちが昂っている証拠だ。

早く…早く…。

誰に許してもらえなくても、この手を離すつもりは毛頭なかった。
が、その不安が払拭された今、つくしへの想いを止めることができない。

思いっきり、抱きしめたい。
いっぱい、キスがしたい。
深く深く、繋がりたい。

以前の自分にはなかった衝動。
つくしと出会い、愛することで様々な感情を知った。
時には愉悦に浸り、時には嫉妬に狂う。
モノクロだった世界に色鮮やかな光が射し込み、その景色を一変させた。


自室の扉を乱暴に開け放ち、つくしを引き入れると後ろ手に鍵を掛ける。
つくしと出会うまで、類にとってこの部屋は『檻』のようなものだった。
人目を避け、その瞬間を遣り過ごすための冷たい牢獄。
それが今はつくしとの愛を育むための『巣』となった。
「やっと…捕まえた。」
思い切り抱きしめれば折れてしまいそうな、華奢な躯体を想いのままに抱きしめる。
仄かに香るつくしの匂いが類の鼻孔を刺激し、心臓がドクリと鳴る。
「やっと、って、ずっと手繋いでたじゃない。」
クスッと笑ったつくしはその硬い胸板に頬を寄せ、愛しい鼓動に耳を傾ける。
ドクン、ドクンと打つ拍動は、いつもより早い。
「類…」
その声に、抱きしめる腕が緩み、二人の視線が絡む。
吸い寄せられるように近付く唇に、つくしは目を閉じた…が。
「あ…っ」
触れる僅か手前で声を漏らしたつくしは、こともあろうか、類をグイっと押しやり、その腕をすり抜けた。
「…つくし?」
「ちょっ、ごめ…っ!」
慌てて駆け出した方向にあるのは。
「…トイレ?」
パタン、と閉まった扉を見つめ、暫し茫然とする。
つくしの不在に冷静さを取り戻した頭に過ったのは…。
「…あー、そういうこと?」
女性特有の『ブルーデー』。
定期的に訪れるそれが、今やってきたということか。
「チェッ…」
漏れた溜息とは裏腹に、類の口元には笑みが浮かんでいた。

申し訳なさそうに戻ってきたつくしを、再び抱きしめる。
「あ、あの…類…っ」
「いいよ、わかってるから。
 今日はキスだけで我慢、でしょ?」
「ごめん…。」
「何で謝るの?毎月のことなんだから、気にしないの。
 それに、それは子供を産むためには必要なものでしょ。」
「そうだけど…。」
「いいよ。そのかわり、いっぱいキスして?」
「…ん。」
つくしの小さな手が類の頬に触れる。
爪先立ちで唇を寄せるつくしに合わせ、類が身を屈めると。
チュッ。
柔かい感触とともに、啄むようなバードキス。
「クスッ…つくしってほんと可愛い。
 …愛してるよ、ずっと。」
「あたし、も…」
至福に満ちた空間に、甘く響く愛の言葉。
再び動き始めた歯車は、二度と止まることはない。
滑らかに、ゆっくりと、その想いの続く限り。

永遠に続く刹那を共にと誓い、何度も何度も唇を重ねた。



12月28日。
この日、両家両親を交えて食事をすることになった。
その席で正式に結納、婚約を取り交わし、式の日取りなどを決める予定なのだ、が。
つくしはその前にどうしても類と一緒に行きたいところがあった。


「ここ?」
鄙びた建物に一瞬目を丸くした類に、つくしは苦笑を漏らす。
「うん。長期で受け入れてくれるところってなかなかないのよ。
 ここもいつまで置いてもらえるかわかんないみたい。
 でも重症心身障害者の施設に空きができれば入れるから、それまで何とかお願いしてるんだけどね。」
つくしの案内でフロアを抜け、その部屋の前に立つ。
入り口脇の壁に表示された名前を確認すると、類は小さく深呼吸をした。
「そんな緊張しなくても大丈夫だよ。」
「つくしの大事な家族に会うんだから緊張もするさ。」
「そう?でもほんとに大丈夫だよ。
 進も類のこと、きっと気に入って…。」
類に話しかけながらその扉を開けた、瞬間。

「…えっ?」

絶句したつくしを、満面の笑みを湛えた晴男と千恵子、そして孝と優美が出迎えた。
「その様子だと、ちゃんとバレずに連れて来れたみたいだな。」
「当たり前。それより準備はできたの?」
「当然だろう。きちんと病院にも許可をもらったし、何の問題もない。」
部屋の一角に設えたテーブルには花沢側からの結納の品々が並び、その脇には祝いの席も準備されている。
「な…に、これ…どういう…」
驚きの表情のまま呟くつくしに、千恵子は笑みを崩さず嬉しそうに種明かしをした。
「花沢さんがね、進も一緒にって言ってくれたのよ。
 でもこんな状態だし、ってお断りしたんだけど…。」
「こういうことは家族全員が揃わないダメでしょ。
 それに、つくしの弟にもちゃんと挨拶したかったから。
 こういう事情で来られないんなら、こっちが出向くのは当然だよ。」
「類…。」
「つくしの弟なら、俺にとっても弟になるわけだし。
 進のこれからのことは、俺たちもできるだけ協力する。
 ていうか、いっそ施設作っちゃった方が早くない?
 病院の関連施設としてなら、可能でしょ?」
「「「えっ!?」」」
そこはさすがの牧野の両親も驚き、目を丸くした。
「名案だな。社員の中でも、家族の介護の問題で頭を痛めている者もいる。
 民間企業も多く参入している分野だし、これを機会に考えてみてもいいかもしれんな。
 この件に関しては類、お前に任せる。」
孝の勅命に類は諾と首を縦に振る。
「け、けど、花沢は総合商社で…。」
つくしは話の展開の早さについていけず、困惑気味に孝と類を見る。
が、二人は然して気にした風もなくクスッと笑った。
「そんなの、気にすることじゃないでしょ。
 うちだって民間企業の1つなんだし、事業の幅を広げるだけだよ。」
ポンポンとつくしの頭を優しく撫でると。
「で?いつになったら俺のこと紹介してくれんの?」
チラッと進を見遣り、態と不満気に表情を曇らせた。
「あ、そうだった!」
つくしは類の手を引き、進のベッドサイドで身を屈める。
「進、この前話した、あたしの恋人だよ。
 花沢類っていうの。
 あたし、この人と結婚するから…。」
動かない温かな手をそっと握り、その瞳に話しかける。
その2つの手を包むように類の手が重なり、類も進と目線を合わせる。
「はじめまして。
 つくしのことは俺がちゃんと幸せにするから。
 お前もがんばって、早くよくなりなよ。」
類の言葉に返事はない。
けれど、その表情は『姉ちゃんのこと、よろしく』と言っているようにも見える。
「ふふ…進も嬉しそう。
 ね?言ったでしょ、進も類のこと気に入るって。」
「ん。俺も、弟ができて嬉しい。
 これから、よろしくね。」
動くことのない双眸を見つめ、二人が微笑み合う…と。
「「あ…っ!」」
それはほんの一瞬の出来事だった。
僅かに、少しだけ動いた瞳。
それは確実に進の意思を窺わせるものだった。
「認めてもらえた?」
「うん…絶対そうだよ。」
つくしの小さく震える肩をそっと抱き寄せ、進の温かな手をグッと握る。
「もっとよくなるから。諦めたらダメだよ。」
二人に向けた言葉。
つくしはそれにうんうんと頷き、進は何も返せない。
けど、いつか、この手を握り返してくれる。
そんな希望を感じさせる力を、その瞳は持っていた。


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


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2018.01/27(Sat)

Tranquilizer 47


つくしの頭をふと過ったのは6年前のこと。

アンティーブに移り住んで少し経った頃。
定期的に来ていた『それ』が来ない。
身に覚えはある。
けど、きっと環境が変わったせいだ。
抱いた疑念を打ち消したいのに。
いつもなら美味しいはずの食事に感じた、微妙な違和感。
微熱、倦怠感、軽い嘔気。
体調に比例するかのように不安定になる、心。
そのどれもが、その事実を、裏付けていく。

疑念が確信へと変わったあの日、今日と同じように、その箱を開けた。

あの時は独りだった。
独りで、その『結果』を見つめた。
零れる涙を拭ってくれる大きな手も、つくしの細い体をすっぽりと包む逞しい腕もなかった。
ただただ、独りで、涙した。

だが、今は違う。
この扉を開けた先には、共に喜んでくれる類がいる。
もし望む結果が得られなかったとしても、落胆することはない。
『コウノトリのご機嫌が悪かったんだね』と笑えばいい。
郁はがっかりするだろうけど、そしたら抱きしめてあげよう。


つくしは心を鎮めるように息を吐き、それを手にする。
結果を表示する小窓を指で塞ぎ、処置を済ませるとそのまま扉を開けた。
「どうだった?」
類の不安げな声に、つくしは苦笑を浮かべる。
「んー、まだ見てない。
 類と一緒に見ようと思って。」
「そっか。」
そのままフワリと抱きしめられ、耳元に類の呟きが響く。
「何かドキドキする。
 ガキみたい、って笑ってもいいよ。」
「笑うわけないじゃん。
 あたしだってドキドキしてるんだから。」
フフっと笑い合い、軽く唇を合わせた。


ソファに二人で並んで座り、つくしの手の中にある検査薬を見つめる。
つくしの肩を抱き寄せる手から、類の緊張が伝わってくる。
「…いい?」
「ん。」
ゆっくりと開かれた掌を見つめた、その瞬間。

「「あ…っ!」」

その小窓に浮き上がった一本の線。
その意味を説明するべくもなく、類もそれを正しく理解した。
「…郁の言う通り、だったね。」
クスッと微笑み、つくしが類を見上げる、と。

ギュッ。

力強い腕がつくしの身体を抱きしめる。
それは今までで一番強く、けれど決して息苦しさを伴うものではない。
「…類?」
「ん…よかった…。」
くぐもった声が、喜びで震える。
それは、この5年の間、待ち続けた瞬間だった。

どのくらい、そうしていたのかもわからない。
早くリビングに戻って、郁や皆にこのことを報告しないといけないのに。
そう思いながらも、つくしにはこの腕を振り解くことができなかった。
「ヤバい…どうしよう…」
「類?」
「総二郎みたいに叫びたいのに…嬉しすぎて、声が出ない…。」
耳に響く類の声は、まだ僅かに震えている。
「うん…あたしも、同じ。
 郁の時はいろいろありすぎて、戸惑いもあったけど。
 嬉しいって思うのは同じ、かな。
 でもそれ以上に、類とこうして一緒に喜べてよかった。」
類の瞳から零れる涙を、つくしの細い指が拭う。
そんなつくしの瞳からも、ポロポロと涙が溢れた。
「類が泣くなんて、珍しいね。」
「あんたは相変わらず泣き虫だよね。」
つくしの目尻に唇を寄せ、零れる涙をチュッと掬い取る。
頬を伝う涙をも追いかけるように、チュッチュッと音を立てて唇が滑る。
そして、その唇が口角に触れると。

「ありがと、つくし…ずっと、愛してる…」

その想いと共に、つくしの唇が塞がれた。


視界の端に感じる視線に、類はフッと笑みを零す。
「いいよ、入ってきて。」
その声に、扉が静かに開き、小さな体が滑るようにして入ってくる。
「おいで、郁。」
つくしがその手を差し伸べると、嬉しそうな笑顔で郁は駆け寄った。
「あのねっ、ゆーまのパパとママも…」
「ん。わかった。でも、まずは郁にね。」
類は郁を抱き上げると、つくしに向く恰好で自分の腿の上に座らせる。
「郁の言った通り、ママのお腹には赤ちゃんがいるんだ。
 これからママは赤ちゃんを大事に育てていかないといけないから、郁だけ、ってわけにはいかなくなる。
 郁は赤ちゃんのお兄ちゃんになるんだから、ちゃんといい子にできるよね?」
「うんっ!」
「ごめんね、郁。でも我慢はしなくていいからね?
 パパとママにとっては、郁も赤ちゃんも同じくらい大事なんだからね。」
「わかった。
 ねぇ、パパ。僕も、ママにおめでとうのチューしてもいい?」
「ん。いいよ。」
「ふふっ…何か、照れちゃう。」
類の腿から立ち上がり、膝立ちの姿勢でつくしにその手を伸ばした。
類そっくりの、薄茶色の瞳が徐々に近付く。
郁の小さな手がつくしの頬に触れ、柔らかな感触がつくしの唇を塞いだ。
「…えっ?ちょっ、郁?」
類の焦る声を無視して、数度、その唇に吸い付く。
つくしは、といえば、小さな類からの優しいキスに頬を染めている。
「郁っ!何してんのっ!
 つくしも、顔赤くなってるし!」
焦ってその体を引き剥がした類に、郁はケロッとした顔で眼前の父を見る。
「何で?パパがやってる通りにしただけだよ?
 でも、ママのお口、気持ちいいね。またやっても…」
「ダメッ!ママのお口はパパのものだからっ!」
「ずるい!ママはパパだけのものじゃない!
 僕だって、ママのこと、大好きだもん!」
大きな類と小さな郁の、つくしを巡る小競り合い。
それを暫し茫然と見つめていたつくしが、突如クスクスと笑い出す。
「つくし!笑いごとじゃ…!」
「おいで、郁。」
つくしに抱えられるようにして、郁はその顔を見上げた。
「郁はほんと、パパそっくりね。
 ママも、郁のこと、大好きよ。
 でもね、郁はこれからきっと、ママよりももっと大好きな人に出会うわ。
 パパとママが出会ったように、ね。」
つくしの言葉に、一瞬、郁の目が潤む。
「ママは…パパの方が好き?僕より…?」
その問いに、つくしは小さく首を横に振る。
「パパも、郁も、お腹の赤ちゃんも、あたしにとっては一番、よ。
 パパと郁が仲良くしてくれなかったら、ママは悲しいな。」
少し悲し気につくしが俯くと、郁はゴシゴシと目元を擦り、つくしの腕をすり抜ける。
そして、類の方に向き直ると。
「パパは、ママのこと、どれくらい好き?」
「んー、宇宙で一番好き。」
「う、ちゅう?」
「そ。けど、それは郁も一緒。
 郁は俺の大事な大事な宝物だからね。」
「一番?」
「んー、一番って、無理に決めることないと思うんだよね。
 じゃあ聞くけど、郁はパパとママと赤ちゃん、誰が一番好き?」
類の問いかけに、郁は『う~ん…』と唸り、ブツブツと何か呟いている。
「郁。急いで答えを出すことないよ。ゆっくり考えな。
 けど、せっかくみんながいるのに遊ばなくていいの?
 今度はいつ会えるかわかんないんだから、みんなと遊んでおいで。」
「ママは?大丈夫?」
「大丈夫よ。少し休んだら行くから、先に戻ってて。」
「わかった!じゃあ、僕、先に行ってるね!」
ニコッと笑い、タッタッと走り出す。
部屋を出る直前でクルッと振り向き、『早く来てね!』と言い残し、その扉を閉めた。

静かに閉まった扉を見つめながら、クスクスとつくしが笑う。
「郁、喜んでたね。いいお兄ちゃんになりそう。」
「うん。けど、ほんと、中身はつくしそっくりだよね。」
クスッと笑った類に、つくしは困り顔だ。
「困ったねぇ…」
「そう?元気があっていいじゃない。」
「けど、あのクセは直させないとね。
 あ、あたしも、だけど…。」
「つくしは無理じゃない?
 今までずっと直せなかったんだから、今更でしょ?」
「ちょっ!それ、ひどくない?」
「でも事実じゃん?」
「類の意地悪っ!」
腹立ち紛れに立ち上がり、類に背を向け、歩き出そうとした時。

コロン。

何かが落ちた気配に床を見ると、そこにはさっきまで握りしめていた検査薬があった。
「あ…」
身を屈め、それに手を伸ばす。
その小窓から覗く、くっきりと浮かんだ線は、紛れもなく二人が愛し合った証。
「つくし、ごめんね。」
フワリと類の温もりに包まれ、目の奥がジンジンと痛い。
「あんまりムキになるから、つい調子に乗りすぎた。
 けどね、つくしのそのクセ、俺好きだよ?
 郁にはそのうち直させるけど、つくしは直さなくていい。」
「でも…っ!」
「いいんだよ。
 それもひっくるめて、宇宙一愛してるんだから。」
「類…」
「ほら、機嫌直して、キスしよ?」
恥ずかしそうに俯いたつくしの顎を取り、上向かせる。
下唇を軽く引き、薄く開いたその隙間からそっと舌先を滑り込ませる。
一瞬怯んだ舌を絡め取り、吸い付き、甘く歯を立てれば、つくしの瞳が艶やかに蕩けた。


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