2018.03/01(Thu)

Lesson - The 5th unit - sec.1


類とフランス語の個人レッスンを始めて3ヶ月。
簡単な日常会話はできるようになった。
最近はイタリア語もちょこっとずつ教えてもらってる。

夏休みになったら、類と一緒にフランスに行く予定。
花沢のおじ様とおば様にも会いたいし。
本場であたしのフランス語がどこまで通じるのかも知りたいし。
パパは相変わらずの心配性でなかなか許可してくれなかったけど。
ママの『何事も経験よ!行ってきなさい!』って一言で決まった。
パパはちょっと寂しそうだったけど、このまま帰ってこないわけじゃないし、ね。

夏休み。
滋さんは道明寺さんのいるNYに行くって言ってた。
桜子はバカンス、優紀は母方の実家に帰省するみたい。

そういえば、優紀は西門さんとどうなんだろう?
正直、西門さんって優紀には合わないと思う。
超遊び人で、彼女は何人もいるみたいだし。
いくら家元夫人に気に入られたからって、無理に付き合うことないんじゃない?
優紀にはもっと誠実な、優紀だけを大切にしてくれるような人がいい。

そう言ったあたしに、優紀は困った風に笑った。
「んー、確かに若宗匠のそういうところは、理解できないんだけど。
 本当は純粋で誠実な人なんだよ?
 自分の立場もちゃんと弁えてるし。
 『一期一会』の遊びも、彼なりの社会勉強なんだと思う。
 若いうちにいろんな人と会って、話をするのは無駄じゃないんじゃない、かな。」
「けどさ、優紀はいいの?好きなんでしょ?西門さんのこと。」
「…うん。でもね、もし彼が家のために私を選ぶなら、私は断るつもりなんだ。
 西門流を継ぐだけなら、私じゃなくてもいいしね。
 私は、私だけを見ててほしいから。
 若宗匠がそう思ってくれるのが一番だけど、それを強制することはしたくないの。」
「…そんな恋、楽しい?」
「今は家元夫人のお傍でいろいろ学びたいし、この時間は無駄じゃないから。
 それに、恋って楽しいことばっかりじゃないよ?
 辛かったり苦しかったりしても、それでも一緒にいたいって思えなきゃ、本当に好きとはいえないんじゃないかな。」

優紀のその言葉が、あたしの頭の中でグルグル回ってる。
類のことは、本当に好き。
けど、類とのことで辛い思いも苦しい思いも、まだしてない。
ていうか、辛いとか苦しいとかって、どういうこと?
類に限って浮気とか、考えられない。
あたしも、類以外の人と、なんて想像もつかない。
類は優しいから、あたしが嫌がることはしないだろうし。
あたしだって、類が嫌だって思うことはしない。

「あたしにはよくわかんない。」
そう呟くと、優紀はふんわりと笑った。
「いいんじゃない?それで。
 そんな思いもなく、お互いを想い合えるのは幸せなことだよ。
 けど、いつかそういう気持ちになった時、本当に好きならちゃんと信じてあげなよ。
 花沢さんのことも、自分の気持ちも、ね。」
「…うん。わかった。」

優紀が西門さんを想い続けられるのは、自分の『本当の好き』を信じてるから。
伝え聞いた噂に振り回されることなく、自分の見たもの、感じたことだけを記憶に留めて。
彼が築いた、本心を隠すための高い城壁すらも乗り越え、その心にそっと寄り添ってる。

いつか、そんな優紀の深い愛情に、西門さんが気付いてくれたらいいな。
家とか周りとか関係なく、二人が二人の幸せのために手を取り合ってくれたら。
その時、きっとあたしは泣いちゃうんじゃないかな、って思う。



週末、いつものように花沢のお邸で類と過ごした。
シェフに手伝ってもらいながら、ランチの支度をしていると。

『あらあら!お久しぶりでございますね!』

玄関の方から、何か楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「誰か来たのかな?」
「今日は来客の予定はなかったはずですが。
 こちらは大丈夫ですので、行ってらしてはいかがですか?」
「んー、でも…」
「お客様を出迎えるのも、奥様のお務め、ですよ?」
冗談めかしてウインクをされ、思わず笑ってしまう。
「まだ、奥様じゃないけど?」
「ですが、我々としては、類様の奥様はつくし様しか考えられません。
 こうして一緒にキッチンに立つなど、本来であればあり得ないことなんですよ?」
「そうねぇ…あたしも、牧野の家じゃ、お台所には入れてもらえないわね。」
「そうでしょう?
 つくし様にお怪我でもさせたら、私が旦那様に叱られてしまいます。」
「大袈裟すぎよ。
 でも、そうね…前、お掃除であかぎれ作った時なんて、類、先輩のこと超睨んでたし。」
「類様は本当につくし様が大切でいらっしゃるのですから、それも当然でしょう。
 ささ、こちらは私がやりますので、つくし様は類様のお傍へ行って差し上げてください。」
「…わかった。それじゃ、後はお願いしますね。」
着けていたエプロンを外し、笑い声の響くリビングへと向かった。


そして、あたしはその光景に目を奪われた。
まるでおとぎ話の挿絵みたいに、王子様とお姫様が微笑み合っていたから。

「あ、つくし。静が来てるよ。」
「あら、つくしちゃん。お久しぶりね。」

「あ、うん…お久しぶりです、静さん。」

あたし、ちゃんと上手く笑えてる、よね?


静さんは大手銀行頭取の娘さんで、類とは幼馴染。
あたしもたまには遊んでもらったけど、道明寺さん達と静さんの5人はいつも一緒にいた。

まるでお姫様を守るナイトのように。

美人だし、頭はいいし、それでいてとても気さくな、素敵なお姉さん。
2年前、家の名を捨て、貧しい人を助ける弁護士になると言って、単身フランスへと旅立った。
あの時、類はちょっと寂しそうだった。
類は静さんのことが好きなんだな、って何となく思った。

だから、かな。
こうして微笑み合ってる姿はとても自然に見える。
何年離れてても、やっぱり類にとって、静さんは特別な存在なんだ。
あたしの入る余地なんて、ない。

「つくしもこっちおいで。」
「お土産買ってきたのよ。一緒にいただきましょ?」

嬉しそうに笑う類の顔が見たくなくて。
そっと類に触れる、静さんの傍に寄りたくなくて。

「あ、あたしっ…ランチの支度の途中、だから…っ」
「あら?つくしちゃんはいつから花沢のお邸仕えになったの?」
「違うよ。つくしは俺と…」
「…も、もう少しでできますからっ!
 よ、よかったら、静さんも食べてってくださいっ!」

ペコリと頭を下げ、あたしは逃げた。
キッチン…ではなく、自分の家に。


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2018.03/02(Fri)

Lesson - The 5th unit - sec.2


部屋のドアを手荒に締め、鍵を掛けた。
誰にも会いたくなかったから。
幸い、パパとママは仕事で留守だったし、進も友達と遊びに出ていた。
突然帰ってきたあたしに、お仕えの人達は吃驚してたけど、かまわない。
そのままベッドに潜り、頭まで布団を被った。

何も見たくない。
何も聞きたくない。
何も、考えたく、ない。

なのに。
瞼の裏に、あの二人の微笑み合う姿が映る。
耳の奥で、あの二人が笑う声が聞こえる。
美男美女の、お似合いのカップル。
あたしは…お邪魔虫。

その後に湧いてきたのは、怒り。
あたしのこと、好きだって言ったくせに!
いくら静さんが美人だからって、あんな鼻の下伸ばしちゃってさ!
類だって、西門さんと一緒じゃん!
男の人なんて、みんな一緒じゃない!

「類のバカっ!だいっきらい!!」

そんなに静さんが好きなら、静さんと結婚すればいいじゃない!
あたしは静さんの代わりじゃないんだからね!
どうせ今頃、お邪魔なあたしがいなくなって清々してるんでしょ!
『いつから花沢のお邸仕えに』、ですって?
あたしはお邸仕えのために行ってたわけじゃないわよ!
類に…類に、会いたかっただけ、なのに…。

「もう!二度と、類には会わないんだからっ!」

ベッドの中で、膝を抱えて、体を丸めて。
あたしは『あたし』を守るように、体を縮こめた。


と。


ギュッ。


「俺は、つくしだけが好き。
 俺は、つくしに会いたい。
 俺は、つくしと結婚したい。」

布団越しに聞こえた声が、悲しそうに、寂しそうに、響く。

「つくしはお邸仕えなんかじゃない。
 俺のたった一人の、愛する奥さん、だ。」

「な、に言って…まだ『奥さん』じゃないわよ!」

「じゃ、今すぐ、奥さんにする。
 つくしを『牧野つくし』じゃなくて、『花沢つくし』にする。」

「そんなこと、できるわけ、ない…」

「できるよ。婚姻届もらってきたし。
 言っとくけど、俺、本気だからね?」

「な、んでよ…ていうか!
 何で、勝手に入ってきたのよ!
 誰が、鍵開けたのよ!」

「鍵?俺の、だけど?
 前、つくしが俺にくれたじゃん。
 俺にとっては『宝箱』の鍵。
 つくしっていう宝物の、大切な鍵。」

「何なのよ!類なんて、さっさと静さんのとこに帰ればいいじゃない!
 あたしは静さんの代わりなんて…」

「代わりだなんて、思ってない。
 つくしはつくし。
 俺にとって、つくしの代わりはない。」

どれだけあたしが悪態を吐いても。
類はそれを尽く否定して、何度も何度も『好きだ』って言ってくる。
あたしが『だいっきらい!』って言っても、『俺はつくしが大好きだよ』って。

もう言葉も尽きて、感情のメーターが振り切ってしまって。
あたしは泣くことしか、できない。
それでも、類はずっと、あたしを抱きしめてくれてた。

…『愛してる』と囁いて。



仲直りのキスは、涙の味がした。

「こんなキスは、つくしとしか、したくない」

そう言って、類の舌が、あたしの唇を割って入ってきた。

いつかのラウンジの恋人みたいに。
いつかの動画のカップルみたいに。

何度も何度も。
離れては吸い付き、呼吸すら奪われて。
いつもは涼し気な類の、どこにこれほどの熱が隠されていたのか。
荒波に呑まれる小舟のように。
あたしは類の熱に翻弄された。


どれくらいそうしていたのか。
息も絶え絶えのあたしを、類の腕がしっかりと抱きしめる。
「俺の気持ち、ちゃんと伝わった?」
「ん…」
「つくしは?本当に俺のこと、好き?」
「…好き。本当に、好き…」

腕を伸ばして、類を思いっきり抱きしめる。
本当に好き。
類のこと、信じきれなかった自分が情けない。
優紀にも言われてたのにな。
「ごめんね…だいっきらい、なんて言って…」
「今は?」
悪戯っ子みたいに、クスッて笑った顔がきれいで、悔しくて。
「…もう、さんざん言ったからいいでしょ…」
照れ隠しだって、バレバレだけど、さ。
「さんざん、なんて聞いてない。
 言わないなら、言うまでキスするよ?」
きれいな顔がスッと寄せられる。
あたしはゆっくりと目を閉じて。

「じゃ、もう二度と言わない…」

だいっきらい、なんて。
大好き、だから。


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2018.03/03(Sat)

Lesson - The 6th unit - sec.1


仲直りのキスの後も、類はずっとあたしを抱きしめてくれてた。

「俺にとって、静は司たちと同じ、ただの幼馴染だよ。
 つくしと静じゃ、『好き』の意味が全然違う。
 さっきみたいなキスは、つくしとしかしない…したくない。」

類の『好き』が伝わってきて、さっきまでの不安がウソみたいに消えていく。


思えば、何であんなに不安になったんだろう。
類も、静さんも、ごく自然に微笑み合っていただけ。
それは、二人にとっては『いつものこと』で。
何一つ、特別なことはしてない。
なのに、あの瞬間、言いようのない疎外感を覚えた。

静さんがあんまり綺麗に笑うから。

あたしなんかより、頭はいいし聡明だし、おしゃれだし。
大人っぽくて、落ち着いてて、絵に描いたようなお嬢様。
類の隣には静さんの方が似合う、って思っちゃったんだ。

「…何で、あたしを選んだの?」

あたしと静さんだったら、誰だって静さんを選ぶはず。
それなのに、何で類はあたしなんだろう。

「それ、さっき静に逆の質問をされたよ。」
「え?」
「『何で、私を選ばなかったのか』って。」
「…何で?」
「んー…静は、俺がいなくても生きていけるから。
 俺も、静がいなくても生きていけるから。」
「……へ?」
「つくしも、俺がいなくても生きていけるかもしれないけど。
 俺は、つくしがいなかったら生きていけない、から。」
「そんなの…わかんないじゃん。」

何、その屁理屈みたいな理由。
けど、類が適当に誤魔化したわけじゃないのは瞳を見ればわかる。

「何年か前にさ、俺、父さんたちとフランスに行ったの、覚えてる?」
「あー…うん。しばらく戻ってこれないから、って言ってて…」
「うん。けど、一ヶ月もしないで俺だけ戻ってきたじゃん?
 あれ、つくしのせいなんだよ。」
「ほぇ?何であたし?」
「ほんとはさ、行きたくなかったんだ…つくしと離れたくなくて。
 けど、どうしても、って言われて渋々行ったんだよね。
 で、むこう行って1週間くらい経った頃にさ、俺、夜中にフラフラ歩き回ってたんだって。
 俺は全然覚えてないんだけどさ。」
「…何、してたの?」
「母さん曰く、俺、つくしを探してたんだって。」
「なっ…」
「その当時、静もフランスにいて、同じ学校に転入したんだ。
 一緒に学校行ったり、買い物行ったりして、ほぼずっと一緒にいた。
 けど、無意識の俺はつくしを探してた。」
「類…」
「どんなに一緒にいても、静はつくしの代わりになれないんだ。」

類の中のあたしの存在が、そんなに大きなものだとは思ってなかった。

「さっき、つくしが俺から逃げるみたいに出てったじゃん。
 あの瞬間、静のことなんて忘れてた。
 頭で考えるより先に、体が動いてたよ…つくしを追わなきゃ、って。
 それを静に止められて、で、さっきの質問された。」
あたしを抱きしめる、類の腕に力が篭る。
「つくしを失いたくない一心でさ、必死だったよ。
 そんな俺に静は言ったんだ…ちゃんと捕まえておくのよ、って。
 言われなくてもそうするつもりだったけど、どうしたらいいのかって超考えた。
 つくしを俺だけのものにするなら結婚するしかないって思って、ここに来る途中で婚姻届もらってきたんだ。
 冷静に考えたら、こんな紙切れだけでつくしを縛れるわけないのにね。」

類の綺麗な顔が、苦笑いで歪む。
こんな顔、類には似合わない。
でも、そうさせてるのはあたしなんだ。

「類、さっきはほんとごめんね。
 二人が微笑み合ってるのがあんまりにも自然で、見ていたくなくて。
 類は静さんの方が好きなんじゃないかって…。
 あたしは邪魔者なんだって思って…それで…」
「そっか。けど、俺が好きなのはつくしだけだよ。」
「うん…あたしも、類だけが好き。
 この気持ちは誰にも負けない。
 だから、あたしだけを好きでいて?
 あたしだけに微笑んで…あたしだけの類でいてほしい。」

初めて感じた、独占欲。
好きだけじゃない、類のすべてが欲しい。
こんな感情…あたしにもあったんだ。

「俺は、つくししか見てない。
 つくしが望むんなら、ずっとここにいてもいい。」

類も同じ、なのかな?
あたしが類を独占したいと思うみたいに、類もあたしのことを…。

「俺、かなり独占欲強いし、嫉妬深いと思う。
 それこそ『籠の鳥』にしたいくらい。
 俺の腕の中に閉じ込めて、俺しか見られないようにして。
 身も心も、全部、俺のものにしたい。」

類の瞳に熱が宿る。
その波に呑まれたあたしは、無意識に類へと手を伸ばした。
首筋に唇を寄せ、押し付けるみたいにキスをする。

「そのまま強く吸ってみて…痕が付くくらい、強く。」

言われるがまま、思い切り吸い付いて、唇を離す。
うっすらと灯った朱が、類の白い肌に艶かしく映える。

「これで、俺はつくしの、だよ。」

この程度の印で縛れるわけはないのに。
それでも、この印が残っている間だけは、類はあたしのものだ、って思える。

「ねぇ…類も…」
「ん…けど、1つじゃ我慢できない、かも…」

肌に触れる類の唇の熱さに、ゾクッと痺れが走る。
チリッと軽い痛みを首筋に感じ、この瞬間、あたしは類のものになれた気がした。



類の熱に浮かされ、あたしは必死で類にしがみついた。
大きな手があたしの肌を撫で、撫でられた処にまた痛みを残していく。
その行為の1つ1つに類の愛を感じ、雁字搦めにされていくのが嬉しくもあった。

もっと、もっと、類を愛したい。
もっと、もっと、類に愛されたい。

頭ではなく、心がそう感じていた。

だから、怖いなんて、全然思わなかった。





目を開けた時、そこに類の姿はなかった。
温もりも匂いも残ってるのに、実体はなくて。
途端に不安で胸が締め付けられる。

「る、い…類…っ!」

ベッドから降りようと体を起こしたと同時に、部屋のドアが開いた。

「あ、起きた?
 ごめん、トイレ行ってた。」

いつも通りの、涼し気な笑顔を見た瞬間、あたしの目からポロポロと涙が零れた。

「どうしたの?」
「だ、って…類が…」
「俺がいなくて、寂しかった?」
その声がちょっと嬉しそうだったけど、突っ込む気にもなれなくて。
コクリと頷いたあたしの頭を、類の大きな手が優しく撫でた。
「ごめんね。トイレ行ったついでに水もらってきた。
 あ、おじさんとおばさん、帰ってきてるよ。
 後で一緒にご飯食べようって。」
「そっか…わかった。」

その顔には、もうさっきみたいな熱はない。
もしかしたら、あれは夢だったのかな?
類を想いすぎて、夢の中の類があたしを慰めてくれてただけだったのかもしれない。

「…何、考えてんの?」

涙の止まった眼尻に、類が小さくキスをくれる。

「何か、変な感じだな、って。
 さっきまでの類と、今の類は全然違うから。
 もしかしたら、夢でも見てたのかな、って…」
「夢じゃない、よ…ほら。」
類が自分の首筋を指差す。
そこにあるのは…
「つくしの愛の印。
 さっき鏡で見て、さ…嬉しくて、暫く目が離せなかった。」
「は、ずかしく、ない?…そんなの…」
「何で?つくしが俺のこと好きな証でしょ?
 1個じゃ物足りないくらいなんだけど…でも…」
言い淀む意味がわからなくて、類の向けた視線を辿る、と。

「え…えぇぇぇぇっ?」
「だって、つくしの肌、気持ちいいんだもん…」
「だもん…じゃないでしょ!」

腕や足、お腹やおへその周りには、いくつもの赤い点々。
それが類の愛の印…なのは、わかるんだけど!
けど、これは…。

「ちょっ…これっ!どーすんの?明日、学校なんだよ?」
「んー…虫に刺された、とでも言っとく?」
「…どこに、そんな虫がいるのよ。」
「ここにいるじゃん…つくしにしか吸い付かない、虫がね。」
冗談なのに、笑えない。
「もう…困った『類虫』だね…」
「けど、これでつくしに言い寄る虫はいなくなるよ?」
「そんなの、元々いないし…」
「そう?でも、まだ足りない、かな。
 もうちょっと…」
「これ以上はダメっ!もう十分でしょ!」

近寄ってくる類に、必死で抵抗する。
それなのに、なぜか類は楽しそうだ。

「じゃ、あと1つだけ…お願い…」
クスッと笑って(あたしがその笑顔に弱いって知ってて)、最後に、と頼まれれば断れるわけない。
「もう…1つだけ、だからね…」
「ん。ありがと。」
そう言って、類はあたしの左手の薬指に唇を寄せた。

「ここだけは隠さないでね…」

チリッとした甘い痛みに、頬が熱くなるのを感じた。


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2018.03/04(Sun)

Lesson - The 6th unit - sec.2


翌日。
登校するなり遭遇した桜子の視線が痛い。
「ずいぶんと『お楽しみ』だったようで…。」
「なっ…人聞きの悪い…」
「まぁ、虫除けとしては効果絶大でしょうが。
 それにしても、あの花沢さんが、ねぇ…。」


昨夜、類が帰った後、鏡を見て吃驚した。
腕や足なら制服と靴下で隠せるかな…なんて思ってたあたしは甘かった。
首回りに残った、いくつもの痕。

…夕飯の時、ママがニヤニヤしてたのはこのせいだったんだ。

初夏のこの時期にマフラー、ってわけにもいかないし。
クローゼットの中の洋服を引っ掻き回し、首元が隠せそうな物を探して。
ようやく見つけた、フリフリの立て襟のブラウス(長袖)を着てきた、けど。
…あの桜子に隠せるはずなんて、なかった。

「こんな先輩の姿は超レアですし、滋さんにもお見せしないと。」

スマホのカメラを向けられ、あたしは咄嗟に両手で顔を覆った。




そして、昼休み。

「いや~、こんな写真見たら、実物が見たくなるよね!」
永林にいるはずの滋さんを含めた4人で、中庭の木陰でランチタイム。
「本当に…朝、見た時は別人かと思いました。」
「あはは…けど、ほんと、派手に付けられたねぇ…」
優紀ですら、憐みの視線を向けてくるから居た堪れなくなる。
「う~…これ、いつになったら消えるのぉ?
 今日の半日だけで、もう帰りたくなっちゃったよ…」
「花沢さんとは公認の仲ですし、その花沢さんに愛された証であれば、気にする必要はないと思いますけど?」
桜子の言葉に、他の二人もうんうんと頷いている。
「いや、でも、やっぱ恥ずかしいじゃん…」
「ヤってるとこ、見られたわけじゃないんだからいいじゃ~ん!」


「正確には、ヤってないみたいだけどね。」


不意に聞こえた声に、一斉に振り向く、と。

「やぁ。」
「ちっす!」
「…どうも。」

「る、類?それに西門さんと美作さんまで…?」
「桜子から写真送られてきてさ、さっきまで類を問い詰めてた。」
「そそ!ようやく牧野の鉄パン脱がせたか!ってな。」
西門さんと美作さんは嬉しそうに、類の首に腕を絡めてる。
「三条、あきらに変な写真送るの、やめて。」
それをウザそうに振り払いながら、類は大きな溜息を吐いた。

「いいじゃありませんか。先輩のお幸せな姿は皆で共有すべきです。」
「そうだよ!あんまり嬉しくて、滋ちゃんも来ちゃったし♪」
桜子は悪びれる風もなく、滋さんに至ってははしゃぎすぎなくらい。

「皆さん、お揃いとは珍しいですね。
 若宗匠も、よく起きられましたね?」
「優紀ちゃん…学校でその呼び方はやめて。
 いつもみたいに『総』って呼んでよ。」
西門さんのキラースマイルに、優紀の頬が赤く染まる。
ふ~ん…優紀って、普段西門さんのこと、『総』って呼んでるんだ。
何か、可愛いなぁ。

「で?正確にはヤってない、とは?」
再び矛先を向けられて、あたしはどうしていいのかわからず、類に助けを求める、と。
「そんなの、何で教えなきゃいけないわけ?
 まぁでも、今日のつくしの様子見ててわかんない?」
類の意味深な回答に、あたし以外のみんなは何か納得したようで。
「あー…なるほどな。」
「そうだよね…初めてだったわりに、普通、っていうか…」
「けど、このキスマークの数は…」
「付けてる間に、つくしが寝ちゃったんだよ。」


「「「「…はぁ?」」」」


正直、あたしもよく覚えてない。
くすぐったくて、気持ちよくて、けど、時々痛くて…ってのは何となく覚えてるんだけど。
「まぁ、その前にちょっといろいろあったからね。
 疲れてたんでしょ。」
気にしなくていいよ、って類の手があたしの頭を優しく撫でた。
「にしても、牧野、お前…」
「鉄パンはまだ健在だったか…」
「天然って、怖いですね…」
「あははっ!でも、つくしらし~!」
呆れたり笑ったり、それぞれが思い思いの反応を示す。
けど、優紀だけは違ってた。
「つくし…ちゃんと大事にされてるんだね。よかったね。」
「優紀…これ見て、何でそう思えるのか、あたしにはわからないんだけど?」
困惑する気持ちを隠さず、小さく溜息を吐く、と。
「大丈夫。これ以上ないくらい、大事にしてるよ。」
類はクスッと笑って、あたしの左手を取る。

チュッ。

昨日と同じ、薬指にキスを落とした。

「ほぉ~?それでそこにも、ってわけか?」
「ん。近いうちにちゃんと指輪買うけど、それまでの代わり。」
左薬指のキスマークはうっすらと赤く、まだ消えてない。
「そっかぁ~!ま、いんじゃね?二人がラッブラブなのはよぉ~くわかったし?」
「次はぜひ、いい報告をお待ちしてます。」
「っ!桜子!」
「牧野が鉄パン脱いだら、お祝いしよ~ぜ!」
「いいねっ!その時は司も呼ぼ~っと!」
「あ、あんたたち!好き勝手なことばっか…」

みんな、絶対面白がってるし!
そもそも鉄パンって何よ!
そんなの、重くて履けるわけないじゃない!

そんなあたしの頭を、大きな手が優しく撫でる。

「つくしはみんなに愛されてんね。
 俺、つくし泣かせたら殺されるかも…」
「そうですよ?つくしは花沢さんだけじゃなくて、私たちみんなの宝物なんですから。」
「そうだぞ!牧野は俺んちの妹たちも気に入ってるからな。
 類とダメになったら、いつでも引き受けるぜ?」
「はぁ?何それ。類とダメになったって、美作さんのとこなんか…」

行くわけない、と続くはずの言葉を発する直前。
類の纏う空気がガラリと変わり、見えないブリザードが吹き荒れた。

「ダメになんて、絶対ならないから。
 …行こ、つくし。」

急に不機嫌になった類に、美作さんと西門さんは呆れたように笑う。
桜子は溜息を吐き、滋さんはキョドってて、優紀は心配そうにあたしを見てた。

…まぁ、よくあること、なんだけどさ。

鞄、教室に置きっぱなしなんだけど…しょうがない、か。
今は類のご機嫌を直す方が先だよね。
みんなには申し訳ないけど。

「ま、またねっ!」

チラッと振り返って、小さく手を振って。
類の力強い手に攫われるように、あたしは類の背中を追いかけた。


繋いだ手を恋人繋ぎに変え、寄り添うように類の隣を歩く。
「類?どうしたの?」
「…どんなことがあったって、俺はつくしを離さないから。」
見るからに不機嫌なオーラを纏って、前を睨んだまま呟く。
そんな顔もかっこいいと思ってしまうのは、惚れた欲目なのかな。
けど、わかってないね、類は。
「あたしだって、類のこと、離してあげないよ?」
あたしだって、類がいなかったら生きていけないんだからね。
「わかってる…でも、さっきのは…」
「ごめんね…あたし、類とダメになるなんて、1ミリも思ってないから。」
その言葉で、ちょっとだけ類の表情が和らぐ。
「うち、来る?」
「うん。行く…あ、でもお稽古の時間までだよ?」
「ん。ねぇ…キス、したい。」
「…車まで、待ってね?」
「キスマーク、も…」
「いいけど…見えないとこにしてね?」

類がポツリポツリと零す我儘に、あたしは『いいよ』って返す。
そのどれもが、あたしにしか聞いてあげられない我儘だから。

ちょっと機嫌が直った王子様の我儘は続く…。

「つくしの作ったご飯、食べたい。」
「いいよ。何が食べたい?」
「つくしが作った物なら何でもいい。」
「そっか…じゃあ、何にしよっかな~?」

ごくごく普通の恋人同士みたいに、手を繋いで、笑い合って。
何とか、類の機嫌も直って、ちょっとホッとした。

なのに…。

「ねぇ、一緒にお風呂入りたい。」
「…へ?」
「つくしの体、俺が洗いたい。」
「は?」
「つくしに、いっぱい触りたい。」
「ちょっ…類!?」

我儘の内容が別の色を持ち始めて、ギョッとして類を見る、と。

プッ…クックックッ…

突然笑い出した類に、完全に遊ばれていたのだと気付く。
「もうっ!類っ!」
ムゥ~っと頬を膨らませて睨んだ、んだけど。
「そんな可愛い顔で睨んでも怖くないよ。」
「揶揄うのもいい加減に…!」
「揶揄ってなんかないけどね。
 確かに冗談だったけど、ちょっと本気。」
「もう…っ!」

本気、って言われて、ちょっと焦っちゃったけど。
いつか、そういう日が来るんだろうな。
…まだ、ちょっと怖いけど。

「夏休み、楽しみだね?」
「…それはどういう意味で?」
「いろんな意味で。
 とりあえず、恋人のつくしと過ごす初めての夏だしね。
 いろいろ思い出作りたいじゃん?」
「そ、だねぇ…」

今までも一緒に過ごしてきたけど。
去年までとは違う、類との夏が来る。

「忘れられない夏にしよ?」

ゴキゲンな類の笑顔に逆らうことなんてできなくて。

「…うんっ!」

どんな夏になるのかな?
でも、類と一緒なら、絶対楽しいはず!

「それまでにフランス語の復習しないとだね。」
「ん…でも、」

類に手を引かれ、そのまま花沢の車に乗り込む。

「まずは、こっちの復習から、ね…」

ドアが閉まるのと同時に、類の唇が重なって。
その感触にフワフワと酔わされた。


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2018.03/05(Mon)

Lesson - The 6th unit - sec.3


花沢の車に乗り込んで、すぐに類に唇を塞がれて。
くっついたり、離れたり。
軽く触れたり、唇を吸われたり。
チュッチュッて啄むみたいなキスだったり、苦しくなるくらい長かったり。
ちょっと酸欠っぽくなっちゃって、頭がクラクラしたけど、全然イヤじゃない。
花沢のお邸まで10分ちょっとの間、あたしたちはずっとキスをしてた。

運転手さん…ごめんね。


車を降りて、また手を繋いで。
いいお天気だし、って、お庭の散策。
この季節は木々の緑が濃くて、あたしは好きだな。
手入れの行き届いた木を見上げると、視線の先で類が微笑んでて。
晴れた空と類の笑顔がよく似合ってて、とっても幸せな気持ちになる。


他愛ない話をしながら、類の部屋に行く。
お茶とお菓子をもらって、まったりと二人で過ごすのも悪くないな、って思う。
まぁ、あたしたちはいつもこんな感じなんだけどね。

「あ、そうだ。」

さっきの話の中で気になったことがあって、類に尋ねる。

「さっき言ってた『やってる』とか『やってない』とかってどういう意味?」
「んー…『愛し合ってるか』ってことじゃない?」
「そうなの?でもあたしたち、まだ『やってない』んだよね?」

こんなにキスもするようになったのに、まだ愛し合ってるっていえないのかな?

「大丈夫。俺たちはちゃんと愛し合ってる。
 愛し合う方法もいろいろあるからね。
 けどそういうのは、俺がちゃんと教えるから。
 あいつらの言うことなんか気にしなくていい。」
「そっか。うん、わかった。」

まだまだあたしが知らないことがあるんだ。
でも、類が教えてくれるんなら、何も心配することないよね。

「ね、つくし…」
「ん?」

フワッと微笑んだ類が、スッと顔を寄せてくる。
それが何の合図かくらい、ちゃんとわかってる。

「じゃ、昨日の復習…ね?」
「はい、先生…」

ゆっくり目を閉じたあたしの唇に、類の温もりが触れる。

「つくし…舌、出して」
「ん…」

言われるがままに、チロっと舌先を突き出すと。
それに吸い付くみたいに唇が重なって、その先に類の舌が絡まる。

「っ!」

反射的に舌を引っ込めたら、類の優しい声があたしを窘めた。

「大丈夫。逃げないで…もう一回…」

引っ込めた舌を、もう一度チロっと差し出す。
その舌先を類の舌に舐められて、吸われて、絡め取られる。
ゾワゾワとした何かが体中を駆け巡って、それが何なのかわからなくて…怖くなる。


初めてじゃないのに…何で?
昨日はもっとちゃんとできてたはず、なのに。


無意識に類のシャツを掴んだ手が、小さく震える。
それに気付いた類の手があたしの手を優しく包んだ。

「つくし…気持ち悪い?」
「ちが…けど、何か…」
「ん?何?」
「何か、ゾワゾワして…じっとしてられな…」
「…イヤな感じ?」

イヤ、じゃない。
けど、この感覚の正体がわからなくて、怖い。

「昨日はさ、感情が昂ってたのもあったからよくわかんなかったのかもね。
 けど、そのゾワゾワする感じは、俺に触られて体が喜んでる証拠だから。」

そう言うと、類はあたしの首筋にツツッと指先を滑らせる。

「ぁ…」
「わかる?さっきみたいにゾワってしたでしょ?」
「うん…した…」
「でも、イヤじゃない、でしょ?」
「うん…」
「それはね、俺に触られてるから。
 好きな人に触られたら、みんなそう感じるんだ。」
「…類も?」
「もちろん。何なら、触ってみる?」

クスッて笑った顔に、ドキッと胸が鳴る。
綺麗、だけじゃない…何か、色っぽい…?

「さっきの約束…忘れてないよね?」
「…え?」
「キスマーク、付けて?」

キスマーク…この人はあたしのもの、っていう印。
類はあたしの…あたしだけの…。

昨日したみたいに、首筋に唇を当てて、ちょっと強く吸い付く。

「ん…」

類の漏らした声で、あの『ゾワっ』を感じてるんだ、って思ったら何か嬉しくて。

「もっと、いい?」
「ん…いいよ。」

何かに吸い寄せられるみたいに、類の肌に唇を何度も何度も当てて。
気が付いたら、類の首や胸元にいくつもの赤い印を付けていた。

「ごめん…こんなに…」
「何で?俺は嬉しいけど?」
「でも…痛かった、でしょ?」
「全然。寧ろ、気持ちよかったけど。」
「気持ち、いい?」
「さっきの、ゾワってやつ、いっぱい感じたよ。」
「それって、気持ちいいってことなの?」
「つくしの唇、柔らかいから。
 キスだけでも十分気持ちいいよ。」

何か、ドキドキする。
正直、類の言う『気持ちいい』っていうのはよくわからないけど。
でも何となく…あのゾワゾワの先に、もっと違う何かがある気がする。

「けど、つくしにはまだ早い、かな。」
「…え?ど、して…?」
「怖いの、我慢させてまでしたいとは思わないし。
 ちょっとずつ慣れていけばいいか…」


その時。
あたしの中で、何かが…弾けた。


「ひどいっ!
 やっぱり、類も、あたしのこと子供だと思ってるんだ!
 そうやって子供扱いして…みんなと同じで…っ」

ポロポロ涙が零れる。
何で、あたしはこんなことを言ってるんだろう。
類はあたしのことを考えて言ってくれてるんだって、頭ではわかってる。
なのに、『まだ早い』って言われたのが、子供扱いされてるみたいで、悔しくて。


こんなことであたしが怒るのは違うって、わかってるのに…気持ちが、抑えられなくて。


「もう、いいっ!帰るっ!」


「つくし!?」


類の制止を振り払って、あたしは家までの道を泣きながら走った。




夏休みを目前にして、あたしは類に背を向けてしまった。


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2018.03/06(Tue)

Lesson - The 7th unit - sec.1


類と仲直りしないまま迎えた、夏休み。
フランスに行く予定で習い事は全部キャンセルしてたから、何もすることがない。
あの日からあたしは花沢のお邸に行くことを止めた。
類は何度か会いに来てくれたけど、あたしは会うのを拒否した。

冷静になって考えたら、悪いのは全部あたし。
類はあたしのためにいろいろ考えてくれてたのに。
癇癪を起こして、類を傷付けた。

子供扱いされてもしかたない。
だって、ほんとに子供だったんだ。


こんなあたしは…類に嫌われて当然なんだ。



夏休みに入って1週間くらいした頃。
あたしに会いたいと、訪ねてきたのは静さんだった。

相変わらず綺麗で、穏やかに微笑んでいるけど、いつもとちょっと雰囲気が違う。
たぶん、類のことで会いに来たんだ、ってわかった。

「つくしちゃん、類とケンカしたんですって?」

優雅な所作でティーカップを口元に運ぶ。
綺麗な人って、何をしても絵になるな…なんて、ぼんやりと思った。

「ケンカっていうか、あたしが一方的に怒っただけで、類は悪くないんです。」
「そう…けど、類はそうは思ってないみたいよ?
 ここ何日か、様子を見に行ってるけど、感情が抜け落ちたみたいに無表情でね。
 話しかけても返事もしないし、食事も碌に摂ってないんですって。」
「そ、ですか…」
「あんな類を見るのは初めてで、私もどうしていいか、正直わからないの。
 つくしちゃんは?これから類とどうするつもりなの?」
「どう、って…あたしは…」

どうしたらいいかなんて、わかんない。
類を傷付けたことは事実で、謝って許してもらえるなんて思えない。
それに…

「怖い、んです…類に、会うのが…」
「怖い?類が怒るとでも?」

あたしは首を横に振る。

「類を傷付けたのはあたし、だから。
 そんなあたしを、類が許すはずない…」
「そうかしら?私はそうは思わないけど。
 でも…そうね。少し距離を置いてみるのもいいかもしれないわね。」
「…え?」
「私、また来週にもフランスへ戻らないといけないの。
 だから、その時に類も連れて行こうと思ってるわ。
 あの邸で、つくしちゃんのことを考えて暮らすよりいいと思うの。」
「フランス…ですか…」
「向こうにはおじ様たちもいらっしゃるし、私もできるだけ傍で支えてあげられるし。
 ね?いいと思わない?」
「………」

あたしには何も言えない。
それを決めるのは類だもの。

「ねぇ、つくしちゃん。
 こんな時に言うのはフェアじゃないとは思うんだけど。
 私、類のこと、好きよ。
 あなたたちが愛し合う前から、私は類を愛してる。
 だから、もし、類が私を選んだとしても、恨まないでちょうだい。」

…恨む?誰を?
手を離したのはあたしで、類に恨まれることはあっても、あたしが恨む権利なんて、ないのに。

でも…


『静は、俺がいなくても生きていけるから。
 俺も、静がいなくても生きていけるから。
 つくしも、俺がいなくても生きていけるかもしれないけど。
 俺は、つくしがいなかったら生きていけない、から。』


類は、あたしがいないと生きていけないって言ってた。
あたしも、類がいないと生きていけないって言ったんだ。


『どんなに一緒にいても、静はつくしの代わりになれないんだ。』


あたしだって、類の代わりなんて…いない。
類があたし以外の人に愛を囁くなんて、許せない。
類はあたしの…あたしだけの…。


「い、や…です。
 類を、連れて行かない、で…」
「つくしちゃん、それは身勝手ってものじゃない?
 傷付けておいて、そのままほったらかしで、それでも自分を好きでいてほしい、なんて都合のいい話はないわ。」
「それくらい、言われなくてもわかってますっ!
 けど、類、言ったんです…あたしがいないと生きていけないって。
 あたしだって、類がいなきゃ、生きていけない!
 類とずっと一緒にいるって…絶対離れないって…約束、したんです…」
「…なら、あなたはなぜ今ここにいるの?
 何でっ!今、類の傍にいてあげないのよっ!」


心臓が、止まるかと思った。
静さんが声を荒げるなんて。
でも、それだけ類のことが大事なんだって、伝わって。
あたしは…あたしは…。


「…すみませんっ!」


何も考えられなくて。
でも、とにかく会わなきゃ、って。
会ってもらえないかもしれないけど…でも、会いたいっ!


そう思ったら。
体が、勝手に…動いた。




花沢のお邸まで、走って10分。
この前の時とは違う涙が溢れそうになる。

ごめんね…ごめんね…。

あたしは本当に子供だ。
類の優しさに甘えて、好き勝手言って、困らせてばっかりで。
これじゃ、恋人なんていえない。
類のお嫁さんになんて、相応しくない。

けど、ダメなんだ。
類じゃなきゃ。
あたしは、類が好き。
類と一緒にいたい、から。


とにかく、類に会いたい一心だった。
息は苦しいし、髪はボサボサになっちゃうけど、そんなの気にしてられない。


早く…早く…類に、会いたいっ!


ただ、それだけだった。




いつものように、玄関のチャイムを鳴らす、と。

「つくし様…」

出迎えてくれたのは、使用人頭の雅子さん。
いつもあたしのことを気に掛けてくれて、お母さんみたいな存在の人。

「あ、の…っ!類は…?」
「類様、は…今はお休みになられてて…」
「お願いですっ!会わせてくださいっ!」
「…今は、お会いにならない方がよろしいかと…」
「どうしてですかっ?
 あたしが…あたしが、類を…」
「落ち着いてくださいませ、つくし様。
 …わかりました。こちらへ…」

雅子さんの案内で、類の部屋へと向かう。
何度も来てるのに?って思ったけど、雅子さんの表情が曇っているのが気になって、大人しく後ろを付いていった。

その途中、雅子さんはポツリポツリと類の様子を教えてくれた。

「…つくし様が来られなくなってから、類様は憔悴しきったご様子でした。
 お食事をお出ししても手を付けてくださいませんし、お茶をお出ししても口を付けていただけなくて。
 何度か、つくし様にお会いに出掛けたようですが…」
「あ…すみません…」
「いえ。お二人の間のことですから、こちらは何も申し上げることができなくて。
 時々、お庭に出られていたこともありましたが、ここ数日はお部屋からも出てこなくなり…。
 藤堂様が時々お声を掛けてくださいましたが、やはり何も仰られなかったそうです。」
「…さっき、家に静さんが来ました。」
「そうでしたか。それでお越しくださったのですね。」
「いえ、本当はもっと早く来るべきでした。
 なのに、あたしが変な意地を張ってしまって。」
「けど、つくし様のお顔をご覧になったらお元気になられるんじゃないですか?
 とてもお会いしたそうにしてらっしゃいましたから。」
「…だといいんですが。」

雅子さんが類の部屋のドアをノックする。
返事がないことに少し諦めの表情を浮かべ、静かにドアを開けた。
「類様、失礼いたします。つくし様がお見えになりましたよ。」

雅子さんの背中越しに、類の様子を窺う。
ベッドのヘッドボードに寄り掛かったまま、目を閉じていて、起きているのか寝ているのかもわからない。
元々色白だった肌は蒼白気味で、幾分やつれたように見える。

「…類?」

恐る恐る声を掛ける。
類に話しかけるのに、こんなに緊張したのは初めてだ。

ゆっくりと瞼が持ち上がり、その瞳にあたしを映す、と。


「雅子、この人、誰?新しい使用人?」


それだけ言うと、また瞼を閉じてしまう。

類が、あたしを…忘れ、た…?

「る、類様、ご冗談が過ぎます。
 つくし様でございますよ?類様の…」
「そんなやつ、知らない。
 ていうか、煩いから出てって。」

あたしと雅子さんはそれ以上何も言えなくて。
そのまま類の部屋を後にした。


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2018.03/07(Wed)

Lesson - The 7th unit - sec.2


雅子さんに連れられて、リビングのソファへと腰を下ろす。
言葉を失ってしまったあたしに、雅子さんは優しく声を掛けてくれた。
「大丈夫ですよ。きっとすぐ思い出されますから。」
「そう、ですよね…」
とは言ってみたものの、あたしは心の中でその言葉を否定していた。


類の心があたしを拒否してるんだ。
だから、あたしの存在ごと、消しちゃったんだ。
類はあたしのことなんて、思い出したくないに決まってる。


だからといって、諦めたくもない。
思い出してくれなくてもいい。
傍で、類を見守りたい。
自己満足なのかもしれない。
けど、あたしにできることは何でもしてあげたいって思った。


だから、あたしは決めた。
類から逃げない、って。


「雅子さん、お願いがあります。
 ここで、類の身の回りのお世話をさせてもらえませんか?」
「え?ですが、それは…」
「牧野の両親にはあたしからちゃんと話します。
 おじ様とおば様にもきちんと謝罪して、お許しをもらいます。
 類をあんな風にしてしまったのはあたしなんですっ!」
「つくし様…」
「お願いします!類に、無理矢理思い出させるようなことはしません!
 類にはあたしは使用人だって言います!
 心配なんです、類が…あたしのせいであんな……だから…」

お願いだから、類の傍にいさせて。
もしあたしのことを思い出した時、氷のような冷たい目を向けられてもいい。
あんたなんか許せないって言われたら、その時はちゃんと諦めるから。


雅子さんの目をしっかりと見つめ、あたしの本気を伝える。
必死すぎて、言葉を選ぶ余裕なんてなかった。
それなのに、雅子さんは目を逸らすこともなく、あたしの気持ちを聞いてくれた。

そして、小さく溜息を吐く…困ったように小さく笑って。

「…わかりました。
 旦那様へはこちらからもお願いしてみます。」
「あ、りがとう、ございますっ!」
「ですが、つくし様は類様のお世話だけをしてください。
 邸のことは私共の務めですから、お気遣いなさいませんように。」
「…わかりました。」
「…実を言いますと、私共も類様にどう接すればいいのか、わからなくなっていたんです。
 今の類様は近寄り難くて、どうしても腫物に触れるような接し方になってしまって…。
 それがまた類様のお気に障るようで、苛立たせてしまっているのも事実です。
 ですから、つくし様…つくし様のお力で、類様のお心を癒して差し上げてください。」
「雅子さん…ありが…っ」
「今の類様は本来のお優しさを失くしてらっしゃいます。
 お辛いこともあるかと存じますが、お心を強くお持ちください。
 私共も、可能な限り、つくし様のお手伝いを致します。
 決してお一人で抱え込みませんように。」
「大丈夫です。あたしの方こそ、我儘を聞いてくれて、ありがとうございます。
 けど、あたしは類の傍にいられるだけで、十分幸せですから。」


ねぇ、類。
あたし、もう泣かない。
類が好きって言ってくれた笑顔で、類を癒すから。
何年かかっても、絶対に諦めない。
類の笑顔がまた見たいから。





とは言ったものの、なかなか思うようにはいかなくて。
話しかけても返事が返ってこないのはザラで。
口を開いても『煩い』『どっか行って』だし。
けど、1日に1食はご飯を食べてくれるようになった(相変わらず少食だけど)。
お天気のいい日はお庭に連れ出すこともできた(10回に1回くらいだけど)。
そんな些細な変化が嬉しくて、つい調子に乗ってしまって、類のご機嫌を損ねちゃうんだけど。

けど、どんな類でも、類には変わりないんだから。
だから、あたしはあたしらしく、笑ってた。


パパもママもかなり心配してて、でも『できるだけのことはやりなさい』って言ってくれた。
ダメだったらその時また考えよう、とも。

おじ様とおば様も気を遣ってくださって。
『夫婦喧嘩なんて、どっちかが100%悪いってことはないんだから、つくしちゃんが責任を感じることはないわ』とまで言ってくれた。
類がこのままだったら、会社にだって影響が出るかもしれないのに。
あたしを責めるようなことは一言も言われなかった。

雅子さんにアドバイスをもらったり、シェフにお料理を教えてもらったり。
お掃除や水仕事をした後はちゃんとハンドクリームも塗った。
お針仕事はさすがにさせてもらえなかったけど。


あたしはいろんな人に支えられてる。

だから、あたしはがんばれる。
泣きたくなっても、苦しくても踏ん張って、笑おうって決めたんだ。



そんなある日。
フランスに戻る日が近付いたのか、静さんが類に会いに来た。

「類、私と一緒にフランスへ行かない?」
あたしを一瞥すると、余裕の笑みを浮かべる。
けど、類は
「行かない」
たった一言で、静さんの言葉を一蹴した。
「けど、ここでそんな顔をしているあなたを放っては行けないわ!」
「そ?でも、行かない。」
はっきりと、『行かない』って言ってくれたのが嬉しくて。
…あたしのためじゃない、ってのはわかってたけど、やっぱり嬉しくて。
心の中のあたしは、思わずガッツポーズをした。

「おじ様とおば様も心配なさってるの。
 それに、私もいるわ。
 …そうだわっ!ねぇ、類、旅行に行きましょうよ!
 どこか静かなところで、二人でゆっくり過ごすの。
 ね?いいと思わない?」
「思わない。」
「類、そんなこと言わないで行きましょうよ!
 それとも、トスカーナの別荘で…」

必死に言い募る静さんに、『この人もちゃんと人間なんだな』って、思う。
…かなり、失礼だけど、ね。

けど、そんな静さんの必死の訴えも、類には届かなくて。
「静。」
「なぁに?どこか行きた…」
「俺、寝るから、もう帰って。」
感情のない、淡々とした声を残し、類は布団を被ろうとする。
「え?ちょっと!類!」
それでも食い下がる、静さんの縋る声にうんざりした顔をして、類はあたしをチラッと見て、一言。

「帰ってもらって。」

その言葉に小さく頷いて、あたしは静さんへと慇懃に頭を下げた。

「本日はお忙しいところ、お越しいただきありがとうございます。
 類様はお疲れのご様子ですので、今日のところはお引き取りください。」

そんなあたしに、静さんの怒りの矛先が向けられた。

「つくしちゃんっ!あなたのせいよっ!
 類は私にこんなことを言う子じゃなかったっ!
 あなたのせいで、類が…私に従順だった類が…」
「…申し訳ございません。
 藤堂様の仰る通りでございます。」

もう一度、深々と頭を下げ、謝罪の言葉を伝える。
静さんに、ではなく、類へと。

「そう…ちゃんとわかってるのね。
 けど、その程度のことで許すと思って?」
「…藤堂様?」

静さんの綺麗な顔には似合わない、ニヤリとした笑みが口元に浮かぶ。

「土下座、なさいよ。
 本当に悪いと思ってるなら、できるわよね?」


屈辱。


あたしが静さんに何かした?
あたしが傷付けたのは類であって、静さんではないのに。


だから、あたしは。


ゆっくりと膝を折り、ペタリと床に正座をして。
膝の前で両手を付き、その手の甲に額を乗せた。

「申し訳、ありま…」


もう一度、頭を下げる。
静さんにではなく、類へと。
床に額を擦りつけながら、心からの謝罪をする。


ごめんね…類。


みっともない。
こんな姿、見せたくない。
でも、これも類を守るため。
こうでもしないと、静さんは帰ってくれないから。



と。



「気、済んだ?」
「え?」
「そんなことさせて、気分いい?」
「…類?」

姿は見えなくても、静さんの動揺が伝わってくる。
そして、類の怒り、も。

「どういうつもりか、知らないけど。
 俺んちで、勝手なことしないで。
 あんたが俺の使用人を傷付けていい理由なんて、ない。」
「傷付けて、って…類!あなたが傷付けられたのよ?
 それを黙って見てるなんて…」
「誰が頼んだ?
 これは俺の問題であって、静には一切関係ないことだろ。」
「なっ…私は類のことが…」
「『愛してる』ってまだ言うの?
 俺言ったよね…静は幼馴染だって。
 恋愛感情なんて1ミリもない。」
「そんなはずないわっ!
 きっと、忘れてるだけよ…傷付けた人のことを忘れた時に一緒に…」
「だったらよかったのにね。
 けど、本当に忘れたんだとしても、俺はそれを思い出すつもりはないよ。」
「ひどいわっ!そんなことを言うなんてっ!」
「ひどいのはどっちだろうね?」

類の容赦ない責めに居た堪れなくなったのか、静さんが踵を返した気配がする。
でも、あたしは頭を上げることができなくて、ただただ息を殺していた。


静さんの足音が遠のく。
それを類の声が止めた。

「あ、静。」
「…まだ何か?」
「ん…もう二度と会うことはないけど、元気で。」
「っ!」


途端に走り去る足音。
遠くで、雅子さんの慌てた声が聞こえる。


その瞬間。
張り詰めた糸が切れたように、あたしの意識もプツンと切れた。


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2018.03/08(Thu)

Lesson - The 7th unit - sec.3


夏休みも残り僅かになった頃。

「類!生きてっか~?」

賑やかな『お客様3人組』が花沢邸を訪れた。

ちなみに、類が忘れているのはあたしのことだけで、他の人達のことはちゃんと覚えてた。
…まぁ、原因はあたしにあるんだし、それはしかたないことなんだけどね。
3人には事情(詳しい理由は説明しなかったけど)を話して、あたしとはあくまでも『使用人』として接するように頼んだ。


突然やってきた幼馴染に、類はめんどくさそうに溜息を吐く。
けど、4人は幼稚舎からの付き合いだし、類に対して特別気を遣うこともしない。
だからか、類も控えめながらもちょっとだけ笑ってたし、時々は会話にも交ざってた。


なのに。


「お、そうだ!牧野!
 滋がよぉ、学校始まったら遊びに行こうって言ってたぞ!
 夏休み、ドバイに行ってたから土産渡してぇんだと!」
「優紀ちゃんも、牧野に会えないのは寂しいってさ。
 たぶん桜子も気にしてんぞ。
 たまには連絡してやれよ!」


類の傍にいると決めた時、あたしはスマホの電源を切った。
類を支えるためにここに居るのに、スマホなんて要らないって思ったから。
たぶん、みんなはあたしは類とフランスに行ってると思ってるはず。
それならそれでいい。
フランスだろうと日本だろうと、類の傍にいることに変わりはないんだし。


道明寺さんたちの言葉に、あたしはただ黙ってお茶を出した。
ていうか、この人たち、あたしが頼んだの、忘れてんじゃないの?

「…承知致しました。では、失礼致しま…」

これ以上ここにいたら類の機嫌を損ねちゃう。
だから、お茶を出したら廊下で控えていよう、って思ったのに。

フワリ、と大きな手があたしの頭を撫でた。
その手の持ち主は、美作さん。

「お前も大変だな。…がんばれよ。」

双子の妹にするみたいに、ポンポンと頭を優しく撫でる。
急にそんなことされたら、今まで我慢してた涙が溢れそうになっちゃって。
それを誤魔化すように、その手を振り払った。


「ちょっと!やめて!あんたたちに触られたら子供できちゃう!」


…と、まぁ、いつものノリが出ちゃったんだけど。

「お前!相変わらずだな!」
「んっとによ~!触ったくらいでガキなんかできねぇよ!」
「うっさいわね!そこらの女と一緒にしないでっ!」
「ん~?じゃあ、ほんとにデキるか、触ってやろうか~?」
って言いながら、頭をグリグリされた。
「ちょっと!ほんと、やめ…」

うっかり、あたしも自分の立場を忘れて、ギャーギャーと騒いじゃったんだけど、さ。

そんな騒がしい声を裂くように、類が一言呟いた。



「あきら。つくしに触んないで。」



聞き慣れた、類の不機嫌そうな声。


「え…?」
「類、お前…」

「つくしは俺のだから。
 触っていいのは、俺だけだから。」

「な…っ」

「ほら、つくし…こっちにおいで。」

柔かい声音。
そして、あたしの大好きな『クスッ』って笑った顔。

それが、今、あたしに向けられている。


「る、い…?」
「ん?」


途端に、涙が溢れてきて。
ずっとずっと我慢してきた気持ちも溢れ出して…。


「…類っ!」


3人がいるのに、あたしは我を忘れて、類の胸に飛び込んだ。


類の大きな手があたしの頭を撫でる。
美作さんの手も優しかった…けど、類のとは全然違う。
類の手から伝わるのは、愛情と安心。
あたしはこの手じゃなきゃダメなんだって、今ならわかる。

約1ヶ月ぶりの類の腕の中は、あの日と変わらず温かくて。
ずっとずっとここに居たい、って思う。
何であの日、この腕から逃げ出したりしたんだろう。
お子様だと揶揄われても、ここに居ればよかった。
怒っても喚いても、類は呆れたり蔑んだりしないのに。
ここで類の愛をもらって、類と一緒に大人になってくって約束したんだ。
それなのに、あたしは一時的な感情を爆発させて、逃げ出して。
でもやっぱり好きで、傍に居たくて。
身勝手な、あたしの我儘…なのに、類はあたしをちゃんと思い出してくれた。

「ごめんね…類。…大好き。」
「ん。俺も、ごめん。愛してる…つくし。」

ポロポロと零れる涙を、類の長い指が拭ってくれる。
やっとここに戻ってこれたことが嬉しくて、なかなか涙を止めることができなかった。



「収まるところに収まった、って感じか。」
「だな。ま、でもよかったじゃん。
 来た時の牧野の顔、今にも死にそうって感じだったし。」
「そんなに大事なら、首輪でも付けとけばいいだろ!
 ったく、そんなことしてる間に、夏休み終わっちまったじゃねぇか!」

3人が好き勝手なことを言ってるのが、少し遠くに聞こえる。
それはたぶん、あたしが類の心臓の音ばかりを聞いていたから。
類の胸に耳を押し当てて、いつもより少し早い鼓動しか耳に入らない。

「ん。でも、有意義な夏休みだったと思うよ。
 つくしには辛い思いもさせたけど、俺はつくしからいっぱい愛をもらったしね。」
「…ったく、思い出した途端、これかよ。
 あーあ!やってらんね!もう帰ろーぜ!」

じゃあな!と帰って行く3人を、類は優しい笑みで見送る。
その顔に、本当の本当に元の類に戻ったんだって実感する。
あたしの大好きな類に。


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2018.03/09(Fri)

Lesson - The 7th unit - sec.4


「あらあら…ふふっ…」

聞こえたのは雅子さんの声。
みんなが帰ったのを見て、茶器を下げに来てくれたみたい。

「あ…ごめんなさい!あたしが片付けますから!」
「いえいえ。これは私の務めですから。」
「けど…っ」
「つくし様は類様の奥様になられるんです。
 もう、このようなことはなさらなくてよろしいんですよ。」
「でも…!」
「けど、類様…ようやっとお伝えできたのですね?」
「うん。」

その言葉に何か違和感を感じて、類を見上げる。

「…どういうこと?」
「…もう、ずいぶん前から思い出してた、って言ったら怒る?」
「…へ?」

何で?どうして?
さっきまでは全然そんな風に見えなかった。
あたしのことなんて見ようともしなかったし、口もほとんど利いてくれなかった。
だから、まだ思い出してないんだって思ってて…。

「静が来た時、つくし、俺に何度も頭下げてたじゃん?
 最初は静に謝ってるんだって思って見てたけど、何か違う気がして。
 あんた、土下座させられた時…ずっと俺のこと見てたでしょ。
 その瞳見てたら、あの日のつくしがフッて浮かんできて。
 悲しそうな、傷付いた瞳が重なったんだ。」
「けど!あの時だってそんなこと…」
「ん。すぐにでも抱きしめたかったんだけどさ。
 とにかく静を追い出さなきゃ、って。
 俺、静にかなりきついこと言ったでしょ?
 あの場でつくしを抱きしめたら、静、何するかわかんなかったし。
 静を追い出してから、つくしのこと、抱きしめようと思ってたんだ。
 それなのに、さ…」

少し拗ねたように、寂しそうに笑う類から目が離せなくて。
あの時のことを思い出そうとしても、頭が働かない。

「あの時は驚きました。
 藤堂様がお帰りになられた後、類様がつくし様を抱えて出て来られて…」
「…は?」

何で?
類が、あたしを…抱っこ?

「あんた、土下座したまんま、意識飛ばしたでしょ?
 だから俺が運んだんだ。
 ていうか、つくし、痩せたでしょ?」
「そ、そんなことは…っ」
「俺を誰だと思ってんの?
 つくしの夫になるんだから、それくらいわかって当然だろ。」

夫になる…って。
はっきり言ってくれたのは嬉しい、んだけど。
あたしでいいのかな?
類に相応しい女性になりたい、とは思うけど…でも…。

ピンッ。

額を指で弾かれて、ハッと我に返った。

「また変なこと、考えてるでしょ?」
「へ、変なことって…」
「また、一から教えようか?
 俺がどれだけつくしを愛してて、どれだけ大事に思ってるか。
 つくしがいなくなったら俺がどうなるのか、散々見てきたでしょ?」
「あ…」
「たぶん、だけど。
 俺、つくしのこと、完全に忘れてたわけじゃないと思うんだ。
 本当に忘れてたら、あんたが傍にいることすら拒んだはずだし。」
「…うん。」
「確かに『好き』っていう感情はなかった。
 でも、つくしに『類様』って呼ばれて、何だか変な気分だった。」
「変な気分?」
「うん…何ていうか、この呼び方は正しくないって思ってたのかな。
 特別な感情があるわけでもないのに、なぜかつくしが傍にいると安心してたし。」
「類…」
「俺ね、今ならわかるんだけど。
 もしつくしのことを思い出さなかったとしても、好きになってたと思う。
 俺がどんなに機嫌悪くても、おかまいなしに話しかけてきて。
 それなのに、笑った顔見ると胸が温かくなって。
 最初は変な女だなって思ってたのに、いつからか、いないと寂しくてさ。
 だから、俺はどうあっても、つくしと生きる運命だったんだよ。」

にこやかに話す類の輪郭が涙で滲む。
あたしだって、どんな類でも好きだし、一緒にいたいって思ってた。
けど、それはあたしのエゴでしかないし、類が本心から拒絶したら離れるしかないとも思ってた。
だから、類の心の内を知ってしまった今、もう二度と離れることなんてできない。

「類はいいの?あたしで。
 我儘だし、お子様だし…美人でもなければスタイルがいいわけでもないし。
 フランス語だってちゃんと話せるかどうかわかんないし、それに…」

チュッ。

「…俺の好きな女のこと、悪く言わないで。」

軽く触れただけの唇が一瞬離れ、再び重なる。
久々に感じた温もりは甘くて優しくて、愛しくて。

「…好き。」

離れ難い気持ちが類を求め、その唇を塞ぐ。

「ん…じゃ、あの日の『復習』から、やり直そっか…」
「うん…」

間近に感じる類の首に縋るように腕を回して。
薄く開いた唇で類を受け止め、誘うように舌先を差し出す。
途端に滑らかな舌に絡め取られ、口内へと侵入してくる。
体中をゾワゾワとした感覚が走るのに、今はちっとも怖いなんて思わない。

大好きな人に触れられて、体が喜んでるんだって、あの日類が教えてくれたから。

だから、怖くない。
もっと触ってほしい。
類が言ってた『気持ちいい』を、あたしも知りたい。

「ん、はぁ……」
「つくし、キス上手になったね。」
「そう?」
「ん。そのトロンとした瞳も可愛い。」
「だって…類が教えてくれたんだよ?」
「クスッ…俺の教え子は飲み込みが早いから、教え甲斐があるね。」
「ねぇ、類…もっと…」
「そんなに気に入った?」
「…もっと、ゾワゾワを感じたい…」
「大丈夫?怖くない?」
「うん…類とだったら、怖くない。」
「そっか…じゃ、もうちょっと、ね…」

大好きな類が、柔らかな微笑みを湛え、顔を寄せてくる。
久しぶりの甘い感触に酔うように、あたしはゆっくりと目を閉じた。


類と舌を絡めるキスをしながら、この身を委ねる。
類の大きな手が背中を優しく擦り、体を支えるようにやんわりと抱きしめられる。

「嫌だったら、ちゃんと言いなよ?」

小さな囁きを聞きながら、体が傾いていく。
甘い甘いキスとともに、類の重みをしっかりと感じていた。


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2018.03/10(Sat)

Lesson - The 7th unit - sec.5


類があたしのことを思い出してくれた。
途端に気持ちが溢れ出して。
胸の内に留まり切れなくなったそれが、溢れるみたいに口を吐く。

好き。
大好き。
…愛してる。

何度言っても、言い足りない。
もっと、もっと、類を近くに感じたい。
もう二度と離れないように。
必死で、類にしがみついた。


類にキスしてもらって。
あたしからもキスをして。
ベッドの上で、じゃれ合うみたいにずっとキスをしてる。
類に触れられるたびに体中がゾワゾワしたし、心臓は壊れそうなくらいドキドキしてる。
正直、それが気持ちいいとはまだ思えないんだけど。
それを感じることができるのは幸せなことなんだって、今は思える。


すっかり消えてしまった、キスマーク。
あの時は超恥ずかしかったけど、消えてしまったらちょっと寂しくて。
類の左の鎖骨のちょっと下くらいに、1つだけ、付けた。
『類はあたしのもの』っていう印。
Tシャツの襟からチラッと見えるそれが嬉しくて、ふふっと笑みが浮かぶ。
「クスッ…何か、楽しそうだね?」
「だって…嬉しいんだもん。」
「俺も、付けていい?」
「うん…あ、でも見えないとこにして?」
「恥ずかしい?」
「んー、そうじゃなくて、ね。
 誰にも見せたくないなぁ、って…」
「俺としては見せびらかしたいくらいなんだけど?」
少し残念そうに呟きながら、類の唇が首筋を辿る。
そして、耳の裏にチリッとした甘い痛み。
「ずるい…そこじゃ、あたし見えない。」
「大丈夫。これから、つくしにしか見えないとこにいっぱい付けるから、ね…」
再び、甘やかに唇を塞がれて。
類の指が、ブラウスのボタンを1つ、2つと外していった。



小さい頃は、何とも思わなかった。
一緒にお風呂に入ったことだってある。
パンツ1枚で、庭先のプールで水浴びをしたこともある。
けど、今の類に、この姿を見せるのは、とてつもなく恥ずかしい。

もうちょっと胸があったらよかったのに。

桜子と滋さんはグラマーな方だと思う。
優紀だって、それなりのサイズ。
なのに、あたしは寝っ転がったらぺったんこ。
女らしさの欠片もない。

…静さんだったら。

日本人離れした顔立ちはお人形さんみたいに綺麗だし。
フランスに住んでるくらいだから、フランス語も流暢に話せるんだろうな。
それに、背は高いしスタイルもいい、選ぶ服もセンスよくて、お化粧も上手。

あはは…何一つ、勝てるものなんてないじゃん。

けど、類を好きって気持ちだけは、静さんにだって負けない。

「類は誰にも渡さない…静さんにも…」

言葉にしたところで、何が変わるわけでもない。
類にそんなことを言ったって、『当たり前』って一笑に伏されるだけだってわかってる。
でも、類を失いかけた時、勝手に体が動いてた。
そして、類が戻ってきたってわかった瞬間、一も二もなくその胸に飛び込んだ。
それが、あたし。
類を好きな気持ちは、頭で考えることじゃなくて、心で感じることだから。

心から思うのはただ一つ。
もっと、もっと、類を好きになりたい。
不安なんて感じなくなるくらい、もっと…。


それには…どうしたらいいんだろう?


「つくし?どうした?」

類の指があたしの目元を拭う。

「あ、たし…どうしたら、いい?」
「何を?」
「類を、もっと、もっと…好きになりたい…」
「…つくし?」
「類に、もっと、もっと、好きになってもらいたいの!
 ねぇ?あたしはどうしたらいいの?」

涙で滲む視界の向こうで、類が困惑の表情を浮かべる。
また子供だな、って笑われちゃう。
けど、どうしていいのか、わかんない。


「急に泣き出すから、嫌なのかと思った。」
「ち、が…」
涙で声にならないから、思いっきり首を横に振った。
「ん。大丈夫。ちゃんとわかったから。
 ねぇ、つくし…俺の話も聞いて?」
「ん…聞く…」
溢れる涙を堪えるように、グッと息を詰める。
すると、類はまた苦笑いを浮かべた。
「無理に泣くの我慢しなくていいよ。」
眼尻に小さくキスを落とすと、ゴロリとあたしの横に寝転がった。
「俺さ、記憶戻ってから、ずっとつくしのこと、見てた。
 今までは『好き』って気持ちが先走りすぎて、俺もつくしも、ちゃんとお互いのこと、見てなかった気がしたんだ。
 いきなり親から結婚話されて、嬉しくて、舞い上がってたんだろうね。
 だから、ちゃんと、つくしのこと見ようって思ったんだ。」
「ん…。」
「つくしはさ、昔っから真っ直ぐで、一生懸命で、さ。
 記憶のない俺にも、真正面からぶつかってくれて。
 俺がどんなに冷たくあしらっても、困った顔しながらも逃げなかったよね。
 俺の前では必死に笑顔作って、裏でこっそり泣いてるって雅子に聞いた時はほんと胸が痛かった。
 けど、それがつくしの優しさであり、強さなんだよね。
 それなのに、俺は狡いことばっか考えてた。
 このまま記憶のないフリをしてれば、ずっとつくしはここにいてくれるのかな、とか。
 俺だけを見て、俺だけのために生きてほしい、とか。
 だから、思い出したこと、言わなかった。
 でも、さっき…あきらがあんたに触ってるのを見たら、我慢できなくて。
 つくしに触っていいのは俺だけだ、って思ったら止まんなかった。」
「類…」
「つくしは俺のだから。
 誰にも触らせない…あいつらでも絶対…」

類の力強い腕が、瞳が、あたしを捕らえる。

「あたしだって、類以外の人に触れられるなんて、嫌。
 類だから、キスも、あのゾワゾワする感じも、幸せだって思える。
 あたしは類だけが好き…だから、類も…」
「ん。つくしだけが好き。
 ねぇ、つくしの全部、俺にちょうだい?」
「全部?」
「そう、身も心も全部。
 俺も、つくしに全部あげるから…ね?」

類の言ってることの意味は正直よくわかんない。
けど、類の瞳は真っ直ぐにあたしを見つめてて。
それがあたしを傷付けることはない、って信じられた。
だから…


「…うん、いいよ。」


純粋に、類に全部あげたいって思えた。


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2018.03/11(Sun)

Lesson - The 7th unit - sec.6


類に、あたしの全部をあげる、って言った。
けど、何をしたら全部あげたことになるんだろう?

「どうすればいい?結婚する、とか?」
「結婚はする、絶対。
 けど、それはもうちょっと先の話。
 前に言ったの覚えてない?
 愛し合うのにもいろいろあるよ、って。」
「あー、うん。覚えてるよ。」
「俺たち、心は深い部分で繋がってるよね。
 誰にも引き離せないほど強く。」
「うん。」
「それだけでも十分なのかもしれないけど、俺はつくしのすべてを愛したい。
 心だけじゃなくて、体も…爪の先、髪の毛の先まで、全部。
 つくしは初めてだし、痛みもあると思う。
 それに、これは本来、子供を作る行為なんだ。
 もちろん、ちゃんと結婚するまでは子供を作るつもりはない。
 でも、万が一、ってことがないわけじゃない。
 その時は必ず俺が責任持つから。」

何かよくわかんないけど、類の真摯な態度を見てたら、これはそれなりの覚悟が必要なんだって解る。
けど、そんな大事なことなら、なおさら類とじゃないと…って思う。

「わかった…いいよ。
 類がくれる痛みなら我慢できる。
 あたしも、もっともっと類のこと愛したいから。
 でも、その前に1つ聞いてもいい?」
「何?」
「類は…初めてじゃないの?」

さっき、類が言った『つくしは初めてだし』って言葉が気になった。
もしかしたら、類は誰かとしたことがあるんじゃないかな?って。


類の表情が、一瞬曇って、辛そうに歪む。
そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。
でも、それだけで答えはわかっちゃった。

類は海外生活の経験もあるし、あたしの知らないことをいっぱい知ってる。
それは知識ってだけじゃなくて、経験も含まれてるんだろう。
まぁ、正直言って、子供を作るような行為を他の誰かとしたっていうのは気分のいいものじゃないけどね。


「ごめん…」

小さな呟きのような、謝罪。

「類?何でそんな顔するの?」
「だって、俺…」
「別に責めてるわけじゃないよ?
 ただちょっと気になっただけだから…」
「フランスにいた頃、1回だけ…」

類の言葉をキスで遮る。
フランスにいた頃、ってことは、あたしに好きって言う前の話。
類はかっこいいし素敵だから、言い寄ってきた女性だっていたはず。
現に、今でも静さんは類のことが好きみたいだし。

と、思ったところで何となく気付いた。
その相手って、もしかして…。

「…静さん?」

気まずそうに伏せられた瞳。
そっか…そうなんだ。
だからあんなに執着してくるんだ。

「…俺ら4人さ、昔っから静と一緒にいたじゃん。
 その中でも俺はあいつのお気に入りだった。
 恋人面したかと思えば、従順な弟って言ってみたり…。
 それでいて、もっと女を知れ、とも言うし。
 そういう関係に嫌気がさして、距離を置こうと思ったんだ。
 そしたらあいつ…俺を嗾けるみたいに…他の3人と…。
 後になって、あれが静の挑発だったって気付いたけど、もう遅かった。
 会うたびに関係を迫られて、断れば『私を傷物にした』と喚かれて。
 よく言うよね…自分は何人もの男をとっかえひっかえしてるくせに。」

辛そうに顔を歪める類に、何と声をかけていいのかわからない。
けど、これだけはわかる…類は静さんに傷付けられた。
そして、その傷を癒せるのはあたししかいないって。

「ねぇ、類。
 過去は過去、だよ。
 その頃はあたしたちはまだ幼馴染だった。
 もし、あたしに申し訳ないとか思ってるんなら、それは違うよ。
 たとえ衝動的にそういうことをしてしまったんだとしても、それは静さんの罠に嵌っただけ。
 類は全然悪くない。」
「つくし…」
「それに、この前『もう二度と会わない』って言ってくれたじゃない。
 あたしはそれだけで十分。
 だから、もう忘れよ?
 類がそんな顔してたら、あたしまで悲しくなっちゃう。」
「ん…ごめん。」
「だ~か~ら~!謝らなくていいのっ!
 あっ!そうだ!
 今日はあたしがお夕飯作ってあげる!
 前に約束したじゃない?ご飯作ってあげるって。
 この夏休みの間、シェフにいろいろ教わったの。
 ね?いいでしょ?」
「ん。つくしの作ったご飯、食べたい。」
「OK!任せてっ!
 類の好きな物、いっぱい作るから、楽しみにしてて!
 そうと決まればさっさと準備しなきゃ!」

類の腕をすり抜けて、部屋を出る。
ボタンの外された胸元に視線を落とせば、そこには類からもらった印が幾つも見えた。
類の記憶が戻ったとなれば、ここにいられるのはあと数日。
それまでにちょっとでも類に元気になってもらわなくっちゃ!

「よ~しっ!がんばるぞ~!!」 

開けたブラウスの襟元を正しながら、足取りも軽く、キッチンへと向かった。


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2018.03/12(Mon)

Lesson - The 8th unit - sec.1


夏休みも終わり、また忙しない日々が始まる。

類の記憶が戻ったことを双方の両親へ報告して、改めて謝罪をした。
きっかけは些細なことだったのに、何だか大事になってしまったのが恥ずかしい。
けど、やっぱり類のことが好きなのは変わらないし、もっと好きになりたいとも思う。

まぁ…まだ、類にあたしの全部はあげられてないんだけどね。


類の記憶が戻ってるのを知った、あの日。
あたしが作ったお夕食を二人で楽しく食べて、食後のお茶もいただいて。
その後、類の部屋に誘われて、行ったまではよかったんだけど。
あろうことか、そのタイミングでまさかの生理。
肩透かしを食らった類は苦笑いしてたけど、やんわりと抱きしめてくれて。
『終わるまで何にもしないから、今日からは一緒に寝て?』…って。
おやすみのキスをして、類の包まれるみたいにして眠った。
で、朝は類の寝顔にキスをして、類を起こして、またキスをして。
どんだけだよ?ってくらい、キスばっかしてた。


なのに、さ。
その3日後、パパから『そろそろ帰ってこい』って言われて。
類はすっごく残念そうだったし、あたしも離れたくなかったんだけど。
夏休みももう終わるから、学校の準備もしないといけないし。
だから、渋々牧野の家に帰ったんだ。


類にあたしをあげることはできなかったけど、でも急ぐことないよね。
また週末は花沢のお邸に行くつもりだし。
それに、類は絶対にあたしと結婚するって言ってくれた。
あたしも、類以外となんて考えられないし。

これからも、類とのLessonは続くんだから。
急がず、あたしのペースで進んでいきたいな、って思うよ。





学校が始まって、最初の週末。
『夏休みの報告会をしよう!』と、滋さんからお泊まりのお誘いが来た。
まぁ、あたしもいろいろ話したかったし、みんなの話も聞きたかったしね。
類はちょっと寂しそうだったけど、滋さんちから帰ったら行くよって言ったら機嫌直してくれた。


滋さんは相変わらず道明寺さんとラブラブだったんだって。
NY行って、その後はドバイでバカンス。
お土産にもらったのは、美肌効果抜群のエッセンシャルオイル。
んー、確かに、滋さんのお肌、ツルツルしてる。
これは使ってみないとだね!

優紀は西門のお茶会やイベントで日本中を飛び回ってたみたい。
家元夫人に気に入られてるからしかたないんだろうけど、それでも大変だよね。
西門さんとの関係は相変わらずみたい。
いつになったら、優紀の気持ちは届くのかなぁ?
今度会ったら問い詰めてやらなくちゃ!


で。
事件?はこの後に起こった。


桜子が北欧旅行の話をしてくれた。
自らブランドを立ち上げているのもあって、家具や雑貨、洋服などを見て回って。
幾つかの会社と仕事の打ち合わせもしてきたらしい。
そして、現地で出会った男性とのアヴァンチュール。
この話に、滋さんが食い付いたことが発端だった。

「桜子さぁ、そういうの、どうかと思うんだけど…」
「滋さんは道明寺さんという、立派な婚約者がいらっしゃいますけど、私は特定の男性とお付き合いしてません。
 ですから、問題ないと思いますが?」
「けどさぁ…」
「貞操観念や第三者への心象について仰りたいのはわかります。
 ですが、多くの男性と関係を持つことは、私にとっては自分磨きの一つ。
 魅力的な男性によって、女性も磨かれ、魅力的になるんです。」

その言葉を聞いて、あたしはなぜか静さんを思い出した。
静さんにとって、類や他の3人はそういう存在だったんじゃないかな。
その他にも、何人も親しい男性はいるみたいだし。
ある意味、桜子のいう『男性によって磨かれた女性』なのかもしれない。

「そっかぁ…だから静さんはあんなに綺麗なんだね。」

妙に納得してしまって、桜子の言うことも満更でもないのかな、と呟くと。

「…は?つくし何言ってんの?」
「そうです…藤堂静さんは元々お美しい方でしたし、そんなことはあり得ませんわ。」
「んー…でもさぁ…」

あたしはこの夏休みに起こったことを包み隠さずみんなに話した。
喧嘩の発端から、類の記憶喪失のこと、そんなあたしを罵倒した静さんのこと。
そして、静さんが類や道明寺さんたち、それ以外にもたくさんの男性との恋愛を楽しんでいることも。

「ま、って…じゃあ、司の初めての相手って…」
「花沢さんがそんなデタラメなことを言うとは思えないし…」
「それが本当なら、美作さんや西門さんもあの人と?」
「うん…そうみたい。
 そのことで、類がとっても傷付いててさ。
 それなのに、静さんは相変わらず類に言い寄ってくるし。
 まぁ、もう二度と会わないって断言してたから、暫くは会いに来ないだろうけど…」
「ってことはさ…もしかしたら、また司にちょっかい出してくる可能性もあるのかな?」
「それは否定できませんわね。
 美作、西門両氏は、まぁ…元々そんな感じですけど…それでも…」
「総…」

わいわいと賑やかだった室内に、何ともいえない空気が漂う。

「ま、まぁ、でもさ!もうフランスに帰ったみたいだし、大丈夫じゃない?
 今頃、フランスのイケメン捕まえて遊んでるよ、きっと!」

何とか空気を変えようと、明るく言ってみたけど。

「司ぁ…滋ちゃんだけって…」

涙声の滋さんの背中を、桜子が宥めるように擦って。
優紀も不安げに瞳を揺らしてるから、その手をギュッて握った。

「つくしは?大丈夫?」

あたしの手に優紀の手が重なり、お互いの手を握りしめる。
そうでもしなかったら、あたしが泣いちゃいそうだったから。

「大丈夫…じゃないけど、でも信じるしかないから…」

類を信じる。
あたしだけを好きだと言ってくれた、その言葉に嘘はない。
もしまた静さんが何か言ってきても、その時は絶対に負けないんだからっ!

「その時は滋ちゃんも呼んで!一緒に戦うから!」
「た、戦うって、そんな…」
「だってさ!いくら幼馴染だってやっていいことと悪いことがあるじゃん!
 そりゃ、その時はまだフリーだったかもしれないけど、今はもう決まった相手がいるんだよ?
 それなのに、過去を持ち出して関係迫るとか許せない!」
「んー、まぁ、そうだけどさぁ…」
「私は男性をアクセサリーのように扱ったりはいたしません。
 それに、出会った方とはきちんと向き合ってきました。
 ただ、今までの出会いの中では生涯を共に、と思える方がいなかっただけです。
 一緒にしないでいただきたいわっ!」

滋さんは道明寺さんを守りたい一心なんだろう。
桜子は…何かよくわかんないけど怒ってる。
彼女は彼女なりの考えがあって、それを静さんと同じ括りで見られたくないんだろうな。

「私、は…」

不安そうに震える声を発したのは優紀。
想い人との関係が確かなものじゃないから、何とも言えないのかもしれない。

「優紀、大丈夫。
 西門さんて、普段ちゃらんぽらんだけど、優紀のことは大事に想ってると思う。
 じゃなかったら、いくら家元夫人の言いつけでも、優紀を傍に置いたりしないでしょ?
 今はまだ社会勉強の途中だって言ってたじゃん。
 だから、信じてあげよ?」
「うん…そうだね。」
「それに、静さんは頭のいい人だからさ。
 類の言葉で目が覚めて、そういう遊びを止めるかもしれないじゃん?」

可能性は低いかもしれないけど。
できれば、そうであってほしい。
過去は変えられないけど、未来は今からいくらでも変えられる。
そのことに気付いてくれたらいいな。


その晩は遅くまで『静さん対策談義』で話が尽きず。
あたしはそれをまるで他人事のような感覚で聞いていた。
が、やっぱり眠気には勝てず。
滋さんの『寝るなぁぁ~!!』という声を最後に、夢の世界へと旅立った。


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2018.03/13(Tue)

Lesson - The 8th unit - sec.2


翌日。

目が覚めたのはお昼前で、みんなでブランチをいただいて解散…のはずだったんだけど。

「ねぇ!これからエステ行こう!」
「え?でも、あたしこれから…」
「あら、いいですわね。
 先輩はこの後花沢さんのお邸に行かれるのでしょう?
 昨日の話ではまだお済ましになっていないようですし、いつその時が来るともわかりません。
 その点においては藤堂様の方が先手を打たれています。
 ここはしっかりとお肌を磨いて、心だけではなく体も繋ぎ止めておいた方がよろしいかと思いますわ。」
「う~ん…」

あたしとしては一刻も早く類に会いたい。
けど、もし万が一、類からお誘いを受けたら…。
そう考えると、エステでお肌ツルツルにしておいた方がいい気もするし。

「優紀はどうする?」
「私はこの後、家元夫人と出掛ける約束があるの。
 時間もないし、今日は遠慮しとく。」
「そっかぁ…」
「でも、つくしは行ってきなよ。
 藤堂さんに対抗、ってわけじゃないけどさ。
 花沢さんのために、いつも綺麗でいたいって思わない?
 いくら、そのままのつくしがいいって言ってくれても、それで満足してたらダメだと思う。」
「…うん。わかった。行ってくる。」
「うん。いっぱい磨いてもらって、花沢さんのこと、メロメロにしちゃいな!」
「メロメロって…。
 でも、類にあたしを全部あげるんだから、ちゃんと綺麗にしておかないとね。」

類はかっこいいし、モテるから。
あたしを選んだことで笑われたりしたら申し訳ないし。
類のためにも、お肌の手入れはきちんとしないとね。

「よ~し!話は決まったね!
 じゃ、優紀を送ってから、その足でエステ行こ~!」

昨夜の気弱な滋さんは何処へやら。
でも、いつもの滋さんに戻っててホッとした。
きっと、道明寺さんも、そんな滋さんだから好きになったんだと思う。

類に『エステに行ってから行くね』ってメッセージを送る、と。
『あい。綺麗に磨いておいで。待ってるよ。』って。

ふふっ…待ってる、か。
あたしも早く類に会いたいよ。
でも、もうちょっと待っててね。
類のために、ピッカピカに磨いてもらうから♪



滋さん御用達のエステに着いて、3人並んで施術を受けた。
ここで使ってるオイルはどれも一流の物で、さっきお土産にもらった物も使ってるんだって。
「大河原様のお勧めで取り入れたのですが、お客様から大変好評なんですよ。」
担当してくれたエステティシャンの女性も、満足そうに微笑む。
「そりゃそうよ!滋ちゃんのお目に敵った物にハズレはないんだから!」
「ええ。滋さんのお肌を見れば、それはよくわかります。」
桜子もご満悦で、うっとりとした表情を浮かべる。
「じゃ、今度は優紀も連れてこないとね!」

ゆったりとしたBGMと心地よい香り、リラックス効果のあるハーブティー。
そして、気の置けない親友たちと過ごす時間が、心のビタミン。
「つくしって肌キレイだよねぇ…」
「桜子と滋さんはスタイルよくていいなぁ…」
「先輩、サイズの問題じゃありません。大事なのは感度ですわ。」
「感度って?」
「ん~、触られた時に気持ちいいって感じるかどうか?思わず声が出ちゃう、とか?」
「まぁ、その辺は男性のテクニックにもよりますけど。
 後は、お相手との相性も大事ですわね。」
「相性なんて、わかるの?」
「わからないから、事前交渉が必要なんです。
 結婚初夜に幻滅、なんて、目も当てられませんからね。」
「それなら、滋ちゃんと司は相性バッチリ!」
「滋さんは卒業前にご懐妊されそうですね…」
「それはね~、パパからダメって言われてるから。
 だからピルも飲んでるし、司にもちゃんと避妊してもらってるよ。」
「なら、いいですけど。先輩も、お気を付けくださいね?」
「あー、類もそんなこと言ってた。
 でも、万が一できても、ちゃんと責任は取るって言ってくれたよ?」
「それでも、妊娠して辛い思いをするのは女性の方ですから。
 せめて高校を卒業なさるまでは…」

桜子ってかなりの毒舌家だけど、やっぱ優しいよね。
滋さんも明け透けない物言いの中にも、ちゃんと気配りができてると思うし。

「うん。わかった。気を付ける。」

だから、あたしもこの親友たちの前だと素直になれる。
あたしって、ほんと友達に恵まれてるよね。



約1時間のオイルマッサージの後、ハンドケア、ネイルなど、それこそ爪の先まで磨いてもらって。
すっかりリフレッシュして、サロンを出る。
これだけキレイにしてもらったら、類も喜んでくれるかなぁ…と、気分よく花沢のお邸に向かった。

が、その門の前で、使用人の女性が困ったようにペコペコと頭を下げている。

「あ…静さん?」

あたしの声に、滋さんと桜子もその女性に目を向けた。

「…ほんとだ。」
「ちょっと、あたし、聞いてくる。」
「私たちも参りますわ。」

車を降り、二人の元へと急ぐ。

「どうされました?」

あたしの声に、使用人の女性は少しホッとした表情を浮かべた。

「類様からお帰りいただくよう、仰せつかったのですが…」
「そんなはずないわ!類だって、私に会いたいに決まってるものっ!」

何か、凄い…美人って怒っても美人なんだ。
この前は顔見てなかったからなぁ。

「静さん…フランスに戻られたんじゃ…」
「ええ、戻るわよ…類を連れて、ね。
 あんなボロボロの類を、置いて帰れるわけないじゃない!
 私は類のご両親からも頼まれてるのよっ!
 だから、さっさとここを通しなさいよっ!」

あー、そっか…静さん、知らないんだ。
類が全部思い出したこと。
それに、ちゃんと笑えるようになったことも。

「静さん、類のこと、心配してくださってありがとうございます。
 けど、もう大丈夫ですよ?ちゃんと、あたしが…」
「つくしちゃんになんて任せられるわけないじゃない!
 そもそも、類があんな状態になったのは、あなたのせいでしょ!
 それを…図々しいにも程があるわよ!
 あなたこそ、さっさとご自宅にお帰りになったらどう?」

周りは閑静な住宅街…そこに静さんの怒声が響き渡る。

「でしたら、ご自身で類に連絡を入れたらどうです?
 それで、類が会うと言うなら、どうぞお入りください。」
「掛けたわよっ…けど、繋がらないのよっ!
 だからこうして来たんじゃない!」

「それって…」
「ええ…おそらく…」

コソっと滋さんと桜子の声が聞こえる。
それはないんじゃないかな?と思って、あたしはスマホを取出して、類へと電話を掛けた。

1コールで繋がった通話。
『つくし?どした?』
「あ、類…あのね…」

状況を話そうとした途端。

「ちょっと貸しなさいよっ!」

あたしのスマホをひったくるように奪うと、さっきとは打って変わった猫撫で声で話し始める。

「あ、類?私よ。その後、体調はどうかしら?
 類が心配で、フランスに帰れないのよ。
 ねぇ、あの時のことは謝るわ…だから、一緒に…」
『…あんた、誰?』
「そんな冗談言って…あなたが私のことを忘れるはずはないわ。
 だって、私たちは…」
『あんたと俺がどんな関係だかなんて、知りたくもない。
 …つくしに代わって。』
「え…?つくし、って…あなた、もしかして…」
『この前、俺、言ったよね?もう二度と会わないって。
 あんたの方こそ、頭おかしいんじゃない?』
「類…私、あなたのことを愛してるの。
 だから、お願い…」
『俺が愛してるのは牧野つくしだけだから。
 あんまりしつこいと警察呼ぶよ?』
「類、あなたは記憶が混乱してるのよ。
 つくしちゃんがあなたにしたこと、忘れてるだけ。
 ちゃんと顔を見てお話ししましょ?そうすれば…」
『この際だから、ちゃんと言っとく。
 俺、あんたと寝たこと、後悔してる。
 それは司たちも同じ。
 司が言ってた…大河原って、あんたの数十倍、数百倍、いい女だって。
 それに、あきらも総二郎も、あんたと寝たせいで女遊びが激しくなったしね。
 俺らにとって、あんたは疫病神でしかない。』
「そ、んな…!ねぇ、類…もう一度…」

必死に食い下がる静さんはと裏腹に、滋さんは嬉しそうに微笑む。
桜子は静さんに侮蔑の目を向け、『憐れね…』と呟いた。

「静さん…もう止めませんか?
 ご近所の目もありますし…類も迷惑だって…」
「煩いわねっ!これは私と類の問題なのっ!
 部外者のあなたは黙ってて!」
「部外者はどっち?
 藤堂さん、金輪際、司や花沢さんたちに近寄らないでくれる?」
「藤堂静さんはとても聡明な方だと思ってましたが、違ったようですね。
 …残念です。
 けど、いいお手本を見せてもらいました。」
「な、何よっ!あなたたちには関係ないで…」
『いい加減にしてくれる?
 もう、あんたの声、聞きたくないから切るよ。』
「ちょっと?類?ねぇ!類ってば…!」

通話終了の画面を見ても諦められないのか、再び類へと電話を掛けようとする。
あたしはその手からスマホを取り返し、鞄へとしまった。

「あたし、静さんはもっと頭のいい人だと思ってました。
 過去にしてきた行為はあたしも滋さんも許せないけど、それでも心を入れ替えてくれたら、って思ってた。
 でも、もうそんな気持ちもなくなっちゃった。
 類はあたしが幸せにするから、ご心配なく。」
「司にちょっかいだしたら許さないよっ!」
「西門さんと美作さんにも、今後関わらないでください。」

それだけ言って、あたしは花沢のお邸へ、桜子と滋さんは車へと戻る。
静さんは怒り心頭といった感じで、相変わらず叫んでたけど、もう気にしない。
事の成り行きをオロオロと見守っていた使用人さんも、あたしの後ろからお邸の中へと戻ってきた。

「な、んなの…人のこと、バカにして…!
 いいわよ!お父様に言って、あなたたちの会社との取引はやめてもらうから!」

悔し紛れの叫びに、去り際の車から滋さんが不敵の笑みを浮かべる。

「できるものなら、どうぞ?
 たかが銀行の頭取に何ができるのか、楽しみにしてるね!」

そのまま静かに車は発進し、一人残された静さんは悔しそうに顔を歪める。
そして、手にしていたバッグを花沢の門へと投げつけ、苛々を隠すことなく立ち去っていった。

それを薄く開いた門の隙間から覗く。
静さんは静さんなりに類のことを大事に思っているんだろうな。
…まぁ、それはかなり歪んだ愛情なのかもしれないけど。
さっきはあんなことを言っちゃったけど、いつか静さんにも気付いてほしい。
そして、これまでの行いを悔いて、道を正していける人だって信じてる。

「あー…鞄、どうしよ…」

呟くと同時に、背後からフワリと抱きしめられる。
それが誰かなんて、見なくてもわかる。
類はフッと笑みを浮かべながら、門を閉めた。

「心配ないよ。
 これまでもこういうことはよくあったし、藤堂の家の者が取りに来るだろうからほっときな。
 それに、あいつはきっとこのままフランスに帰るんじゃない?
 で、むこうの相手に慰めてもらうはずだから、何も心配することないよ。」
「そっかぁ…」 
「ん。それより、さ…つくし、いい匂い…」
「さっきエステ行って、オイルマッサージしてもらったから。
 滋さん一押しのオイルなんだって。
 桜子も絶賛してたし、今度は優紀も連れて…」

掠めるようなキスがあたしの言葉を遮る。

「つくしが綺麗になるのは嬉しいけど、俺は気が気じゃないよ?」
「そんな心配しなくても…」
「ん…でも…」

類の不安げな声音が耳元を擽る。
あたしは体をクルリと反転させて、類の瞳をジッと見つめて…

「類のこと、大好きだよ。」

類が好きだって言ってくれた笑顔で、類を抱きしめた。
そして…。

「ちゃんと、捕まえててね?」

その腕をすり抜けて、お庭の方へと向かって走り出す。

一瞬唖然とした類も、その次の瞬間には笑顔になって。

「クスッ…絶対逃がさないからね?」

その足を、あたしの方へと向けて走り出す。



いつもは静かな花沢のお庭に、あたしと類の笑い声が響く。
こんな姿、静さんが見たら『子供ね』って笑うだろうな。
でもね、類のこんなに楽しそうに笑う顔、見たことある?
無理に背伸びするんじゃなくて、あたしはあたしのやり方で類を愛してく。


それでいいよね?…類。



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2018.03/14(Wed)

Lesson - The 8th unit - sec.3


突如始まった、追いかけっこ。
コンパスの差があるから、あたしはちょこまかと走り回る。
子供の頃は類と進と一緒に、こうやって遊んだよね。
必死に類の背中を追いかけて、躓いて転んで、泣いて。
そんなあたしを、類の優しい手がよしよしって撫でてくれて。


なんて。
昔のことを思い出してたら。


「あっ!」

グキッと鈍い音と足首に走った痛みに、体勢が崩れる。
そのまま地面に叩きつけられるように転がり、右肩を強かに打った…気がする。

「あいてて…」
「大丈夫?どこが痛い?」

焦った類の顔はあの頃と変わってなくて。
けど、何だか申し訳なくて、へへっと笑った。

「ごめん…調子に乗りすぎた。」
「そんなのはいいからっ!足、見せて!」
「え?いいよ、大丈夫だから…」
「ダメッ!」

あまりの剣幕に一瞬気を取られ、足を引っ込めることができず。

「ちょっと!腫れてるじゃん!」
「ただの捻挫だよ…だいじょ」
「大丈夫じゃないでしょ!
 あー!もうっ!早く冷やそ!」

ひょいと抱き上げられた瞬間、右肩にズキンと痛みが走る。

「…痛っ!」
「ごめんっ!痛いかもしれないけど、ちょっと我慢して!」

類の慌てた声を聞き付け、雅子さんが駆け寄ってくるのが見える。

「どうされましたか?」
「あ!雅子!何か冷やすもの!あと医者もっ!」

類の徒ならぬ声に、雅子さんは呆気に取られながらも、邸の中へと取って返す。
あたしは右肩の痛みに耐えながら、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「ねぇ類…お医者さんは大袈裟じゃない?」
「そんなことない。
 これで何かあったら、俺、つくしの両親に顔向けできないし。
 うちの両親にも怒られる。」

へ?
あの温和な花沢のご両親が怒る?
この前の時だって、怒る以前に、あたしのことを気に掛けてくれて…。

そうこうしているうちに類の部屋に着く。
ソファがないから、いつものようにベッドの縁に下ろされ、その足元に類が跪く。
それと同時くらいに雅子さんが戻ってきて、類にアイシングパットを渡すとそれをそうっと当ててくれた。

「さっきより腫れがひどくなってる…」
「ごめんね…冷やしとけば大丈夫だと思うから…」
「他は?どっか打った?」
「あー、右肩がちょっと痛い、かな?」
「どこ?見せて?」

Tシャツの袖口を捲ると、肩の辺りが赤くなってて、肘にもちょっとかすり傷が見える。
触るだけで痛みが走り、思わず体がビクッと震えた。
それを宥めるように類の大きな手があたしの背中を擦ってくれて。
そして、何かのおまじないみたいに、そこに唇を寄せてからアイシングパットを当てた。

「雅子、医者は?」
「あぁ、そうでした。
 先生に連絡を取ったところ、できれば来院していただきたいと。
 骨に異常がないか、きちんと検査をした方がいいと言われまして。」
「そっか。そうだね。」
「類…お医者さんなんて、行かなくても大丈夫だよ?
 たかが転んだくらいでそんなに大騒ぎすることないでしょ?」
「けど、足は腫れてるし、肩だって赤くなってる。
 念のため、骨に異常がないことを確かめさせて?」

そこまで言われてしまえば断るわけにもいかなくて。

「…わかった。心配かけてごめんね。」

元はといえば、あたしが悪いのに。
あたしを責めることもなく、ただひたすら心配してくれる。
ほんとに申し訳ない。

「ん…でも、俺も楽しんでたし。
 ちょっと本気で追いかけちゃったからね…俺のせいでもあるんだよ。」

再び類の腕に抱き上げられて、心配そうに揺れる瞳を間近で見つめた。
肩も足もズキズキと痛むけど、そんな類の顔を見たら心まで痛くなって。

それ以上何も言えず、類に抱えられたまま、花沢の車で病院へと向かった。



レントゲンの結果、骨には異常がなく、右足首の捻挫と右肩の打撲と診断された。
湿布と痛み止めの薬を処方してもらい、再び花沢の車に乗り込んだ。

「牧野の家に行って。」
「畏まりました。」

てっきりまた花沢のお邸に戻ると思ってたあたしは。

「え?うちに行くの?」
「ん。ちゃんと謝らないとだし。」
「でも、これはあたしがうっかり転んだだけで…」
「けど、俺にも責任はある。
 だから一緒に謝らせて?」
「そんなの、気にしなくていいのに。」

そんな押し問答をしていると、類のスマホが着信を告げる。

「げ…母さんだ。
 たぶん雅子が連絡したんだ……もしもし?」

嫌そうにスマホをタップした途端。

『ちょっと!類君!あなた、何してるのっ!』

隣のあたしにまで聞こえるほどの大きな声が類の耳を直撃した。

「何なの?急に…。そんな大きな声出さなくても…」
『だって、つくしちゃんがうちで怪我したって!
 で?どうなの?怪我の具合は?』

おば様の質問に答えようとする類からスマホを借り、あたしからおば様へと謝罪した。

「おば様、お久しぶりです。つくしです。」
『あら?つくしちゃん…大丈夫?』
「はい、お騒がせしてすみません。
 ちょっとお庭で遊んでた時に、転んでしまって。
 今、先生に診ていただいて、捻挫と打撲だけで、骨には異常はないと言われてきました。」
『そう…それならいいけど。
 痛かったでしょう?本当にごめんなさいね…』
「そんな…謝らないといけないのはあたしの方です。
 類にも心配をかけてしまって、本当にごめんなさい。」
『けど、類君が傍にいたのに怪我だなんて、千恵ちゃんに申し訳ないわ。
 私の方からも連絡しておくけど、類君にも謝りに行かせるわね。』
「いえいえ!そこまでしていただかなくても!
 あたしがおっちょこちょいなのはママもわかってますし、大丈夫ですから。」

そこまで話すと、類が『貸して』と手を出してきた。
もう一度、『気にしないでくださいね』と告げ、類にスマホを渡す。

「あ、俺。これからつくしんちに寄ってから帰るから。
 …うん……わかってるよ……それは聞いてみないとだけど……うん、わかった。
 じゃ、また連絡する。」

通話の切れたスマホをポケットにしまい、類はハァ…と溜息を吐く。

「ほんと、ごめんね…」
「あ?そうじゃないよ。
 母さんはほんと、つくしのことが大好きなんだな、って。
 これじゃ、結婚したら母さんとつくしの取り合いになりそうだな、って。」
「取り合い、って…でも、あたしもおば様のことは好きだし、なかよくしてもらえるのは嬉しい、かな。
 けど、やっぱ一番は類だから、ね?」

クスッと笑って、類を見上げる。
整った顔、澄んだビー玉の瞳、薄茶色の柔かな髪、白い肌。
どんなに見慣れてても、胸がドキドキしちゃうのはしょうがないよね。
だって、ほんとにかっこいいんだもん。


スッと近付く気配に目を閉じる。
そういえば、今日はまだキスしてなかったな…なんて思いながら。

「痛くない?大丈夫?」
「うん…大丈夫」

どんな痛み止めよりも、類とのキスが効いたみたい。
あんなにズキズキ痛かったのに、今は平気…。

不意に動かした右腕。
と同時に、激痛が走る。

「…っ!」
「急に動かしちゃダメだよ?」
「…そうだね。」
「じゃ、とっておきの痛み止め、あげるね…」

重ねた唇の隙間から、類が侵入してくる。
絡まる舌の甘さに、痛みがスーっと引けていく。
何でだろう…と不思議に思いながらも、キスが止められなくて。

結局、家に着くまでずっとキスをしてた。


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2018.03/15(Thu)

Lesson - The 8th unit - sec.4


自分の家の玄関を類に抱っこされたまま潜る。
それがとてつもなく恥ずかしくて、足が痛いとか肩が痛いとか、そんなこと言ってられない。

「る、類…もういいから、下ろして?」
「何で?痛くて歩けないでしょ?」

あたしと類に気付いたお仕えの人が玄関を開けてくれて。
奥からパパとママが慌てて出てきた。

「あらまぁ…どうしたの?」
「あはは…ちょっと転んじゃってね…」
「すみません、俺が付いてたのに…」
「類君のせいじゃないわ、この子がおっちょこちょいなのが悪いのよ。」
「つくし、大丈夫か?」

呆れ顔のママと心配そうなパパ。
苦笑いのあたしと、嬉しそうに微笑む類。
何とも不思議な構図の出来上がり。

「とりあえず上がって。
 詳しいことは中で聞くわ。」

そう言って、パパとママの後を類に抱えてもらって付いていった。


「で?どうしてこんなことに?」

リビングのソファに類と並んで座る。
抱っこされてた時は恥ずかしくてしかたなかったけど、ソファに下ろされた途端、何だか寂しい感じがした。

「何てことはないの。
 花沢のお庭でちょっと追いかけっこしてたら、転んじゃってさ。」
「追いかけっこ…って、あんた、いくつだと思ってるの?」
「しょうがないじゃん、急にしたくなったんだから。」
「だからって…」
「だからね、類は悪くないの!
 類のおかげで病院にも行けたし、さ。」

だから大丈夫だよ、って類に言いたくて、隣を見上げる、と。
さっきまでの微笑みはなく、ただ両親を見つめている。

「…類?」

その徒ならぬ雰囲気に、妙な胸騒ぎを感じる。

「類君から言いたいことは?」

少し剣のある口調にイラッとして、言い返そうとした、その時。
類の体がゆっくりと離れていって、リビングの床に下りる。
そして、その頭が床に吸い寄せられるように下がっていって…。


「このたびは…申し訳、ありません、でした…」


その所作の美しさに、一瞬見惚れてしまう。


「…それは何に対して、かしら?」

ママの声も、いつもと違って、静かな怒りのようなものを感じた。


「きっかけは些細な勘違いだったと思います。
 それがこんな大事になるなんて、思ってもみませんでした。」
「けど、類君…あなたはつくしのことを忘れたのよね?
 それは何故?」
「たぶん、ですが…つくしを心から愛してるから、だと思います。」
「どういうこと?
 そこまで想う相手のことを、そんなに簡単に忘れてしまうとは思えないわ。」
「はい、俺もそう思います。
 ですが、あの時…つくしが俺の元から消えてしまった事実を受け入れられなかった。
 会いに行っても会ってもらえず、電話をしても出てくれない。
 その現実と向き合うのが怖くて、数日は寝てばかりいたように思います。
 そして、目が覚めた時…ぽっかりと心に穴が開いたような感覚でした。」

あの時の気持ちを思い出したのか、類の顔が苦痛に歪む。

「そう…それで、その穴を藤堂さんに?」

ママの言葉に、一瞬耳を疑う。
が、類の噛み付くような声がそれを強く否定した。

「それは絶対にないっ!
 確かに、過去にはそういう関係だったこともあった。
 けど、彼女にとって、俺は従順な弟であり、体のいい玩具でしかない。
 いくらつくしを忘れたとしても、彼女のことを好きになるなんてありえません。
 彼女に土下座を強いられた時のつくしの瞳は今でも忘れられない。
 あの瞬間、彼女への気持ちは、ただただ憎いだけになった。
 もう二度と会うことはない、絶対に。
 あの時のつくしの姿に誓ったから…」

床に着いた手がグッと握り込まれる。
苦痛に耐えるように歯を食いしばり、体も微かに震えている。

こんな類…見たくない。

「ねぇ、ママ!もう止めて!
 あの時のことはあたしも悪いの!
 類に子供扱いされたと勘違いして、癇癪起こして…その後も素直になれなくて。
 類はそうすることでしか、自分の心を守れなかったんだと思う。
 それに、あたし、一度でも類を責めるようなこと言った?言ってないよね?
 静さんのことに関しても、確かに最初は吃驚したけど、過去は過去でしょ?
 もう二度と会わないって言ってくれたし、今日だって毅然とした態度であたしや滋さんたちを守ってくれたよ?
 ママが類のことを信じなくても、あたしは類を信じる!
 だから…もう、類を責めないで…お願い…」

類が静さんからあたしを守ってくれたように、あたしは類をママから守る。
右肩は痛くて動かせないから、左腕で類を抱きしめる。
ママが何と言おうと、あたしは絶対に離れないんだから!


「類君。」

ママの声が少しだけ柔らかくなった気がする。
けど、何を言うかわからないから、あたしは左腕にグッと力を込めた。

「正直に答えてちょうだい。…つくしとは?」
「まだ、です。」
「そう…。この子、子供でしょ?
 そんな子の相手は疲れるんじゃない?」
「それはないです。
 それに、俺はつくしを子供だなんて思ってない。
 純粋で、素直で、ちょっと頑固なだけ。
 そんなつくしだから、好きになったんです。」
「変わった人ね…あなたなら、もっと素敵な女性を選ぶことだってできるのに。
 それこそ、藤堂さんの方がお似合いだと思うけど?」
「彼女は男をアクセサリーの1つとしか見ていない。
 見た目は大人かもしれないけど、中身はつくしより子供なんだ。
 思う通りにならないと怒りだすし、平気で人を傷付けるようなことを言う。
 そんな女とは金輪際関わりたくもない。」

さっきと同じように、きっぱりと静さんを突っ撥ねる。
その言葉に嘘はないのは、瞳を見ればわかる。


「ってことなんだけど…どうする?優美ちゃん。」

ママの口から、ここにはいない親友の名前が飛び出して、類と二人で首を傾げる。

『そうね。とりあえずは及第点、ってとこかしら。』

どこからともなく聞こえてきたのは紛れもなくおば様の声。

「うちとしては、類君のことを信用してるし、構わないけど?」
『千恵ちゃんがそう言うのなら、こちらとしても問題ないわ。』
「じゃあ、このままでいいわね?」
『ええ。これからもよろしくね。』
「了解。また何かあったら連絡するわね。」
『は~い。…あ、類君、さっき電話で言ったこと、千恵ちゃんにOKもらってあるから。
 あんまりつくしちゃんを泣かせちゃダメよ?じゃあね!』

プツン、と通話の切れた音で、それがハンズフリー通話だったことに気付く。

「え?いつから?」
「ん?最初から?」
「何で…?」
「んー…優美ちゃんが『聞きたい!』って言ったから?」

悪びれる風もなく、あはは!と笑うママに、あたしは一気に力が抜ける。
それは類も同じだったみたいで、まだ唖然としてる。

「もしね、類君が一言でも藤堂さんを擁護するようなことを言ったら、この話はなかったことにしよう、って言ってたの。
 私も優美ちゃんも、類君と藤堂さんの関係は知ってたし、万が一がないとも言い切れない。
 その時に傷付くのはつくし…あなたなのよ。
 あなたたちはまだ若いから知らないだろうけど、花沢や牧野を取り囲む世界は綺麗事だけじゃやっていけないわ。
 それこそ、藤堂さん以上に汚いやり方であなたたちを引き離そうとするかもしれない。
 信じるとか守るとか、どんなに思ってても、思い通りにいかないこともある。
 だからね、花沢からの申し入れを受けることにするわ。」

クスッと笑った顔が、ちょっと寂しそうに見えたのは気のせい、かな?

「申し入れ?」
「ええ。つくしと離れるのは寂しいけど、これもあなたたちの将来のためですものね。
 とりあえず、つくしは早く怪我を治しなさい。それから…」
「ちょ、ちょっと!申し入れって何?あたし、何も聞いてな…」
「あら?類君から聞いてない?
 優美ちゃんは類君に話してあるって言ってたけど?」

ママの、訝し気に類を見る目が何か怖い…?
けど、類はそんなことは気にせず、あたしに笑みを向ける。

「まだ話してません。
 牧野の家から許可をいただいてから、と思ってました。
 なので、この後、きちんと話します。」
「なら、いいけど。
 あ、これだけは言っておくわ…ちゃんと高校は卒業させてね?
 大学も、できれば行かせて。後は…」

んー…と考えているママの隣で、パパが類を見つめている。

「類君…つくしを泣かせるようなことだけは…」
「わかってます。大切に、愛しますから。」

類の大きな手が、あたしの手を包む。
何だかよくわかんないけど、とにかく類から話を聞かなくちゃ!

「パパ、ママ…類と話したいから部屋行くね。」
「わかったわ…心配事があれば言ってちょうだいね。」

立ち上がろうとしたあたしを、類の両腕がフワリと掬いあげる。

「じゃ、行こっか。」

再び類の両腕に収まって、あたしの部屋へと向かった。


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


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2018.03/16(Fri)

Lesson - The 8th unit - sec.5


更新が遅くなってすみません。
スギ花粉の猛威に頭がボーっとしていて、予約時間を間違えてたみたい。
それにさっき気付いて、こんな時間の更新となりました(^▽^;)

目は痒いしくしゃみは止まらないし。
毎年のことながら、ほんとイヤになる…。


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


あたしの部屋に着き、ようやく人心地をつく。
二人で並んで座って、ぴったりとその身を寄せ合った。

「ごめんね、類…ママのこと…」
「つくしはおじさんとおばさんの宝物だからね。
 可愛い娘を傷付けられたとなれば、しかたがないよ。」
「けど、あんな言い方しなくっても…」
「俺は全然気にしてないから。
 言われて当然のことをしたんだし、あの程度で済んでホッとしてる。」
「でも…っ」
「けど、ちょっと疲れた。
 だから、少し休憩させて?」
「ん…そうだね。」

どうしたら類を癒せるかな…って考えながら、類の柔かな髪を撫でる。
気持ちよさそうに目を閉じた類に、さっきまでの険しい表情はない。
その顔を見てたら、自然と想いが溢れてきて。
それを伝えたくて…そっと唇を重ねた。


あたしにとって、類からのキスは麻薬みたいな感じ。
痛みは消えるし、幸福感を与えてくれる。
なら、類にとって、あたしからのキスは?


そっと触れただけの唇を離すと。
「つくしからのキスって、何か癒される…」
フッと浮かべた笑みがとっても綺麗で。
「なら、もっとする?」
「ん…もっと…」
その声に吸い寄せられるように、もう一度唇を重ねる。
これが類の癒しになるなら、いくらでもしてあげたい。
何度も何度もキスをして…舌を絡めるほどの熱いキスへと変わっていく。
あたしから始めたキスなのに、気付けば類に主導権を奪われていた。




で、今。
あたしはベッドの中の住人になってて。
類はベッドの縁に腰掛け、あたしの頭を撫でてる。

類とのキスでポーっとなっていて、うっかりすっかり怪我のことを忘れてしまった。
いつものように、両腕を類の首に絡めようと腕を伸ばした瞬間…

ズキンッ!

「あ、つっ!」

「大丈夫!?」

一瞬、全身を貫くほどの痛みを感じてしまえば、それがすぐに消えるわけもなく。
類の『よく効く痛み止め』も、この時ばかりは思うほどの効果がなくて。
結局、病院でもらってきた痛み止めを飲んで、ベッドに寝かされた…というわけ。


「そういえば、さっきの話だけど…」
「あー、うん。
 少し前から考えてたんだけどさ。
 …俺たち、一緒に住まない?」
「…へ?」

一緒に住む…って?
今までだって、花沢のお邸に住まわせてもらってたようなもんだけど…?

「ほんとはさ、近場のマンションで二人で暮らしたいんだけど。
 俺たちまだ学生で、親の脛齧りじゃん?
 だから、一先ずはうちの邸においで。」

そりゃ、そうだよね。
親から小遣いもらいながら同棲なんて、許されるはずないし。
だから、パパもママも寂しそうな顔をしてたんだ。

「わかった…けど、急にどうしたの?」

途端に類の表情が曇る。

「怪我のこともあるけど、やっぱ一番は静のこと。
 二度あることは、っていうだろ?
 静って自分が一番じゃないと気が済まない人だし、被害妄想も半端ない。
 自棄になったら、それこそ何してくるかわかんないから。
 もう二度とつくしが傷付けられないように、俺の傍にいて?」

類の思いが痛いほど伝わってくる。
確かに、今日見た静さんは普通じゃなかった。
飼犬に手を噛まれた、とでも思ってるんだろう。
その相手があたしなのが許せないのかもしれない。
自分より劣るあたしにプライドを傷付けられたとあれば、それこそ何をしてくるかわからない。

負けるつもりはない、けど。
あたしが傷付けば、類も傷付く。

「…わかった。あたし、花沢のお邸に行くね。」
「ん。ありがと。」
「でもね、類があたしを守りたいように、あたしも類を守りたい。
 まぁ、この怪我が治らないと守りようもないんだけどね。」
「クスッ…じゃ、早く治そ。」
「うん!」

類の大きな手が、あたしの頬に優しく触れる。
見つめる瞳の甘さに胸がドキドキして、思わず目を閉じる、と。

「愛してる…ずっと…」

囁きと共に落とされたキスはいつも以上に甘くて。
自然と、あたしは左手で類のシャツをギュッと握っていた。




その頃。

静さんの思わぬ行動が世間を騒がせていたなんて、知らなかった。

何も知らないあたしは、類の腕の中で、類の匂いに包まれていた。



―元・『ミス・ティーン・オブ・フランス』で、現代の世界三大美女と噂の、藤堂静さんが婚約を発表!
 そのお相手は…



その報道を目にした時の、類の顔は一生忘れない。
そして、ここからが本当の戦いだ。


絶対に、類は渡さないっ!


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


単元切り替えのため、短くてすみません。

さて、つくしは暴走する静から類を守れるのか?
また明日をお楽しみに~(*^-^*)


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2018.03/17(Sat)

Lesson - The 9th unit - sec.1


ドンドンドンッ!

「つくし!類君!ちょっと!」

けたたましくドアを叩かれ、ママの焦った声に類と目を合わす。

「何かあったのかな?」
「何だろうね?」

ママの慌てぶりに首を傾げながら、類がドアを開ける。
そこには、驚愕と焦りを綯交ぜにしたママがいた。

「…どうしたんです?」
「類君、大変よ!…藤堂さんが…」
「静さん?」

その名前に嫌な予感がする。
それは類も同じだったみたいで、表情が強張ってる。

「とにかく!リビングに来てちょうだい!」

ママの声に、類とあたしはすぐさまリビングへと向かった。



リビングの大きなテレビに、静さんの上機嫌な笑顔が映し出されている。
その画面のテロップを見た瞬間、類の顔つきが変わった。


―元『ミス・ティーン・オブ・フランス』で、現代の世界三大美女と噂の、藤堂静さんが婚約を発表!
 そのお相手は…花沢物産御曹司・花沢類氏!


「な、んで…?」

驚きのあまり、声が出ない。
また何かしてくるかも、とは思ってたけど…どうしてこんなことを?

「ハハ…静らしいね。
 どこまで人をバカにすれば気が済むんだか…」
「さっき優美ちゃんも連絡くれてね。
 むこうでも騒ぎになってて…寝耳に水だって…」
「どうしても類君を手離したくない、ってことなんだろうが…これは常軌を逸してるな…」

みんなで茫然と画面を見つめていると。


♪~♪~


類のスマホが着信を告げる。

「…静だ。」

嫌そうにスマホを見つめる類に、声を掛けたのはママ。

「出てちょうだい。
 そして、どういうことなのか、説明してくれる?」

ママもパパも、類のことは信じてる。
これが静さんの狂言だってことも、わかってる。

あたしは類の手をギュッと握って、声にならないエールを送る。

―大丈夫。あたしが付いてる。

正直、静さんには腹が立ってしょうがない。
けど、今は状況確認をするのが先だ。

「…わかった。
 スピーカーにするから、みんな聞いてて…」

類の長い指がスマホに触れる。
と同時に、ママもスマホを取出して、何処かへ電話を掛けた。
それはたぶんフランスにいるおば様だろう。
この会話をおば様にも聞かせたいって思ったんだろうな。


2つのスマホをテーブルに並べ、どちらもスピーカー通話に切り替える。
途端、聞こえてきたのは静さんの気味の悪い猫撫で声。

『あ~ん!類!やっと出てくれた!
 ねぇ、報道、見てくれた?
 これから記者さんとお話するんだけど、類も一緒に来てくれない?』
「…どういうつもり?」
『どうもこうもないわよ。
 類が余所見してるから、目を覚ましてあげようと思ってね。』
「余所見?俺が?」
『そうよ?私たちが愛し合ってるの、忘れてるみたいだから。
 それに…お腹にあなたとの子供もいるのよ?
 ヤることヤって逃げようなんて、思わないことね?』

一瞬、パパとママの視線が類へと刺さる。
が、類は小さく首を振って、それを否定する。

「ふ~ん、そうなんだ?今、何週目?
 いつから静はマリア様になったの?
 種もなく妊娠できるなんて、さすが静だね。」
『ふふっ…今は8週目。
 種もなく、なんて、ご冗談を。
 あれだけ激しく抱いておいて、惚けるつもり?』

8週目、と聞いても、あたしにはピンとこない。
そっとママを見ると、呆れながらも少し微笑んでくれた。

「8週目ってことは、7月の初めくらい?
 その頃、静はフランスだよね?」
『そうね…ってことは、私、とても危ない時期に帰国してしまったのね!
 知らなかったとはいえ、ごめんなさい…類との大事な子供が…』
「ん?別に。けど俺、その頃は日本にいたんだけど?
 つくしと付き合い始めて浮かれてて、静のことなんて忘れてた。」

あたしと付き合って、浮かれてた、なんて。
けど、7月っていったら、喧嘩する前だよね。
夏休みはフランスに行こうって話してて、そのためにフランス語の勉強を頑張ってた時期だ。

『…類も悪い男ね。
 私とそういうことをしながら、つくしちゃんともお付き合いするなんて。
 でもね、今更そのことを責めるつもりはないわ。
 傍にいてあげられなかった私にも非はあるんだし。
 ただ、あなたにはちゃんと責任を取ってもらわないと…』
「それがこの報道?ずいぶん大胆なことをしたね。
 取り下げるなら早めの方がいいと思うけど?」
『取り下げる?なぜそんなことをしないといけないわけ?
 私は類を愛しているし、お腹にはあなたの子供もいる。
 あなたが今誰を愛していようとかまわないわ。
 人の気持ちなんて移ろいやすいもの…だから、私はあなたを責めない。
 けど、子供のことはちゃんと考えてもらわないとね。』

クスクスと笑う声に、背筋が凍る。
この人は正気なんだろうか?
その場にいる全員がきっと同じ思いで、その声を聞いていた。

『あっ!そろそろ時間になるわ!
 ねぇ、類も来てちょうだい!
 私だけなんて、心細くて…ね?お願いよ?』

プツン、と切れた通話に、皆一斉に溜息を吐く。
それは電話の向こうのおば様も同じで。

『ほんと、困った子ね…どうしたらそんな自己都合の解釈ができるのかしら…』
「ええ、ほんとに。
 けど、こんなことを公衆の面前で話されたら、困るのは花沢でしょ?」
『まぁ、騒ぎにはなるでしょうね。
 でも矢面に立たされるのはあちらだけ…その点では抜かりはないわ。』
「ほんとに大丈夫?
 俺、つくし以外と結婚する気なんてないよ?」
『あらあら…類君にしては珍しく焦ってるのね?』
「俺は何を言われても気にしないけど、つくしは…」

あー、あたしがまた傷付けられるって思ってるんだ。
そんなの、気にすることじゃないのに。
今の会話を聴いて、何が真実なのかなんて、火を見るより明らかじゃない。

「あたしは大丈夫だよ?
 けど、静さんの暴走っぷりには驚いたね…」
「うん。妊娠自体もほんとかどうかわかんないよね。
 事実、妊娠してたとしても、その相手も特定できないんじゃない?」
「そっかぁ…だとしたら、子供が可哀想だね。」
『その辺は藤堂の家が何とかするでしょ。
 あ…そろそろ記者会見の時間ね?』

テレビ画面には相変わらず綺麗な静さんの姿。
幸せそうに類との馴れ初めやこれまでのことを話している。
事実を知った今、それが滑稽に見えてしかたがなかった。


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2018.03/18(Sun)

Lesson - The 9th unit - sec.2


『あ、そうそう!千恵ちゃん、ちょっといい?』

不意に話しかけられ、ママはスマホを手にして席を立つ。
それを横目に見ながら、あたしはテレビに映る静さんを見つめる。
綺麗で明るくて頭もいいのに、どうしてこの人は類に固執するんだろう。
確かに類はかっこいいけど、特定の人にしか心を開かない。
今の類の静さんに対する態度は、特定外の人に向けるものと同じ。
そんなことにも気付かないんだろうか。


おば様との話を終えたママが戻ってきて、そのスマホを類に渡す。

「優美ちゃんが類君に話があるんですって。」
「…わかりました。
 俺からかけ直すので少し席を外します…すぐ戻るね。」

あたしの頭をポンポンと撫で、柔らかな笑みを残して席を立つ。
その後ろ姿を見つめていると、テレビの方からどよめきが聞こえる。

『まぁ~!素敵なエンゲージリングですね!』

テレビに映る静さんが、微笑みながら左手をかざす。
その薬指にはいかにも高そうなダイヤの指輪。
記者たちからの羨望の声に、静さんの笑みは深くなる。

『さすが、花沢ともなると違いますね…』

スタジオのコメンテーターも、その大きさには驚いたようだ。


違うのに。
あれは自作自演なのに。


自然と触れた、あたしの左手にはない、それ。
静さんの指に光るそれは類から贈られた物ではない。
そうとわかっていても、心が不安で揺れる。

「何よ…あんな物…大きいだけで品がないわ…」

ポツリと呟いたママの声に、ハッとする。
類はまだ大学生…収入もなく、親の経済力で学校にも通ってる。
そんな男があれだけの物を贈れるはずがない。

「あたしはあんなに大きい石じゃなくていいなぁ。
 類からもらえるなら、大きさとか関係ないよ…」

自然と漏れた心の声に、ママはフワリと微笑む。

「そうね…あんたはそういう子よね…」

カメラのフラッシュを浴びて、幸せそうに微笑む静さんをこれ以上見ていたくなくて。

「あたし、部屋に戻るね。」

痛む足を引き摺るようにしてリビングを出る。
そっと寄り添ってきたお仕えの女性の肩を借りて、ゆっくりと部屋へと戻った。


部屋に戻って、フゥ~と息を吐く。
静かな部屋にひとりでいると、どこからか静さんの声が聞こえてきそうで。
だからといってテレビを点ければ見たくもない映像が映し出されるんだろう。
そう思って、オーディオデッキの電源を入れる。
セットしたままになっていたCDを確認することなく再生ボタンを押して、ソファへと座った。

聞こえてきたのは優雅なヴァイオリンの音色。
何年か前に、お遊びで類の演奏を録音したものだ。
あたしには音の良し悪しなんてわからないけど、類が演奏する音は好き。
嫌なことがあった時、疲れてる時、心を安らげてくれる。


「へぇ…まだこのCD持ってたんだ?」
「あ…おかえり。」

電話を終えた類が入ってきて、あたしの隣に座る。

「何度聴いてもイマイチだよね。」
「そう?あたしは好きだよ?」

ゆったりと優しく響く音色に、暫し耳を傾ける。
その音が心の奥まで染み込んできて、さっきまでの不安が消えていくのを感じる。

「あ、そうだ。母さんが、暫く牧野の家に居ろって。
 うちの周り、記者が押しかけてて大変なことになってるらしい。」
「そっか…そうだよね。
 ほとぼりが冷めるまでここにいたらいいよ。」
「ん。ありがと。
 それと、司たちからも連絡が来てさ…何かすっごく憐れまれた。」
「…さすが悪友だね。」

クスクスと笑うと、類も小さく笑う。

「つくしは?大丈夫?」
「うん。でも、これからどうするの?
 このまま引き下がる人じゃないよね?」
「んー、つくしには申し訳ないけど、暫くは放っとこうと思う。
 母さんたちが藤堂の家に接触してるみたいだし、情けない話だけど、今の俺じゃ何もできないから。
 でも、いつまでも静に好き勝手させるつもりもない。
 俺が愛してるのはつくしだけだからね。」
「うん…あたしも…」

類の肩口にコツンと頭を乗せる。
不謹慎かもしれないけど、暫くはここで類と一緒に過ごせるのが嬉しい。
ここにいる間は、類はあたしだけのもの。
あたしが類を守ってあげるんだから…。

類の大きな手が頬に触れる。
自然と見上げた先の、フワリと微笑む類の顔にちょっと疲れが見える。

「類は大丈夫?」
「ん…でも、ちょっとチャージしたい。」
「じゃ、あたしのパワー、分けてあげるね。」

左手を類の首に回し、引き寄せるようにして唇を重ねる。
もっと、ちゃんと抱きしめてあげたいのに。
痛む右腕がもどかしい。

「ねぇ…」

僅かに唇を離し、類が囁く。

「あの約束…まだ有効?」
「約束?」

約束って…何だっけ?

「…覚えてない?」

類の長い指があたしの唇に触れ、下唇をちょっとだけ引く。
その隙間からスルリと類が入り込んできて、あたしを捕らえる。

あ、約束って…。

深くなるキスに頭がボーっとしてくると同時に、あの日の約束を思い出す。
思い返すと、どうしてあの日、そうならなかったのか不思議なくらい。
確か、あの時…

「次はもう逃がさないよ?」

そうだった…類にご飯を作ってあげたくて、この腕をすり抜けたのはあたしだ。

「あ…ごめん…」
「別にいいよ、気にしてないし。
 つくしの作ったご飯は美味しかったし、それはそれで嬉しかったしね。
 体の関係が無くったって、つくしが俺のものであるのは変わらないんだからさ。」
「うん…」
「けど、やっぱつくしの全部、欲しいんだ。
 今はこんな状況だし、怪我もしてるし、無理だけど…でも…」

類の言葉をキスで遮って、その胸元に頬を寄せる。
いつもより早い類の鼓動で、あたしの全部を求めてくれてるのがわかって、ちょっと嬉しい。

「うん…いいよ。
 あたしも、類の全部、欲しいもん。」
「じゃ、早く怪我治そうな?」
「ん…」

ギュって抱きしめられて、あたしも類を抱きしめて。
お互いの好きを伝え合って、微笑んで。


この世界にはあたしたちしかいないんじゃないか、ってくらい、類のことだけを考えてた。


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2018.03/19(Mon)

Lesson - The 9th unit - Viewpoint change ①


その頃、牧野家のリビングでは―。

『それにしても、大変なことになったわねぇ…』

「ほんとに…藤堂さんのご両親は何を考えてるのかしら?」

『それがね…藤堂さんのご両親は静ちゃんの言ったことを鵜呑みにしてるみたいなの。
 あちらも、類のことは認めてくださってて、類になら静ちゃんを任せられるって…。
 国際弁護士になるって言ってフランスへ行った時も、結局は止められなかったし。
 静ちゃんのことを相当甘やかしているんだわ。』

「そういえば、一時期結婚の噂もあった男性とは?」

『あぁ…マイヨール氏?
 彼とはたまに会うけど、とても気さくで素敵な人よ。
 知的だし、落ち着きもあって、それでいてとても情熱家なの。
 静ちゃんのことはマイヨール氏の一目惚れだったらしいけど、静ちゃんも満更でもなさそうだったのに…』

「まぁ、男女のことはお互いにしかわからないところもあるわよね…」

『そうね…けど、静ちゃんの男性関係には心を傷めていたわ。
 そのことに口を挟んだ途端、別れ話をされたって…』

「お気の毒だけど、彼女らしいわね。
 もうあれから何年も経つし、今となっては別れて正解だったって思ってるんじゃないの?」

『それがね…そうでもなさそうなのよ…』


二人の母親は大きな溜息を吐きながら、テレビ画面に映る幸せそうな静を見遣る。
世間をいくら動かしたとしても、類の気持ちが向くはずもないのに。
なぜ、そこまでして類に拘るのか。
静の思惑がどこにあるのかもわからず、途方に暮れる。

花沢としては、牧野との約束を反故にするつもりはない。
それは先代からの遺志というだけではなく、二人が心から愛し合っていると知っているから。
身勝手な第三者に、二人の未来を壊してほしくない。

―類君…がんばりなさい。

遠いフランスからエールを送る。
と同時に、何とかして静の暴走を食い止めなければ。
そのためにできることは…?


***



その頃、ホテル・メープルでは―。


あ:「なぁ、静のやつ、本気か?」

司:「わかんねぇけど、冗談でこんな騒ぎは起こせねぇよな。」

総:「ああ。大方、類と牧野の関係が大っぴらになる前に、手を打ったってとこじゃね?」

あ:「世間は静の言うことを鵜呑みにしてるしな。
   もし、このタイミングで類と牧野の関係がバレてみろ…
   下手すりゃ、牧野が寝取ったくらい言うぞ、あいつなら。」

総:「だな。今の静には何を言ってもムダな気がする。」

司:「それによぉ…」

司が少し声を潜め、不確かな事実を伝える。

司:「静のやつ…類の子供が腹にいるって言ってるらしいぞ?」

あ・総:「「はぁ?」」

司:「さっき類に電話した時、静がそう言ってたってさ。
   藤堂の家は静に何も言えねぇし、それを鵜呑みにするしかねぇんだろうな。」

総:「けど、ここ数年、類は日本から出てねぇ。
   静は世界中をフラフラしてんだろうけど、最近まで日本には戻ってなかったはず。」

あ:「ってことは、嘘か?」

司:「いや、妊娠自体は嘘じゃねぇのかも。
   ただ、父親が類じゃないことは確かだ。
   何せ、牧野にあんだけベッタリなんだからな。」

総:「で?当の類はどうしてる?」

司:「今は牧野んちに隠れてるらしい。
   暫く様子見るってさ。」

あ:「あいつらしいっつーか…まぁでも、今は牧野の傍に居たいんだろ。」

司:「まぁな。
   花沢も牧野も、今回の騒動は真に受けてねぇから、心配するほどのこともねぇか…」

総:「けどよ、ちょっとこれはやりすぎだろ?
   頭のいい静にしては無謀としか言いようがない。」

あ:「妊娠に気付いたけど、父親が誰だかわからない。
   そのタイミングで類と牧野の関係を知って、面白くなかった。
   類なら、強引に話を進めてしまえば最後は堕ちる…ってとこか?」

総:「かもな。あいつ、俺らと寝たのだって、類を落とすためだったんだろ?」

司:「それ、言うなよ…おかげで滋から拒否られたんだぞ?
   まぁ、若気の至りってことで許してもらったけどよぉ…」

あ:「お前はお初だったもんな。
   けど、俺も総二郎も、喰い物にされたみてぇで面白くなかったぞ。」

3人は渋い表情であの当時を思い出す。
いわば黒歴史ともいえる過去は、静の手によって作られたのだから。


暫しの沈黙の後、3人の気持ちは固まった。

司:「まぁ、静をこのままにしておくわけにはいかねぇ。」

総:「ああ。とにかく、類から手を引かせねぇとだな。」

あ:「けど、どうする?
   花沢も、類も、今は静観を決め込んでるんだろ?」

司:「だが、時間が経っちまえば余計面倒になる。
   動くなら早いうちがいい。」

総:「だな。とりあえず牧野んち行って、類に会うか?」

あ:「OK。行こうぜ。」


3人は車に乗り込み、牧野家へと向かう。



その時、あのキーマンが日本に降り立ったことも知らずに。


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


今回は会話メインなお話でした。

類ママとつくしママの会話は、区別できたのですが、F3の会話は誰が誰だか区別するのは難しい!
書いてる私ですらわからなくなったし(笑)
ってことで、初めて発言の前に名前を入れてみました。

どうですかね?


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2018.03/20(Tue)

Lesson - The 9th unit - Viewpoint change ②


俺の元に『彼』から連絡が来たのはあの騒動の翌日だった。

静が類との婚約を発表する報道を見て、一も二もなく飛んできたらしい。
が、静に面会を申し入れても聞いてもらえず、類に会おうにも居場所がわからない。
途方に暮れていた時、ふと、以前俺の会社と取引をしたことを思い出した。
静から俺たちのことは聞いていたんだろう。
類に会わせてほしいと懇願する姿があまりにも必死で、なぜ?と聞くと。

『彼に謝りたいんだ!
 静があんな行動を起こしたのは俺の責任だから!
 確かに、静は彼のことを気に入っていた。
 それは俺もさんざん聞かされてきたからね。
 事あるごとに彼を引き合いに出してきて…けど、それは俺の気を引きたかっただけなんだ。
 なのに、俺はそれを許せなくて、彼女を詰った。
 …そんなに好きなら、彼と結婚すればいい、でも彼が君を選ぶとは思えない、って。』

『それであんなことしたってわけか。
 だがよぉ、あんたら、もう何年も前に別れたんじゃなかったか?』

『あぁ…確かに、別れた。
 だが、彼女がフランスで興した事業のバックアップは続けていたんだ。
 それに、嫌いで別れたわけじゃない。
 彼女はあの通り、美しくてスタイルもいい。
 国際弁護士になるために、一生懸命勉強もしていた。
 その息抜きが…』

『なるほどな。
 で、あんたはそれが許せなかった。』

『ああ。そのことで度々口論になって、結局は別れることになったんだ。
 あの時は、彼女のそういう行動が俺の会社のイメージダウンに繋がると思っていた。
 だが、別れてから気付いたんだ…彼女、寂しかったんじゃないか、って。
 俺も、君と同様、世界中を飛び回っている。
 学生だった彼女を連れ回すわけにもいかないから、ずっとフランスで待たせていたんだ。
 その寂しさを紛らわすために、あんなことをしていたんだろう。』

『それが解って、ヨリを戻したのか?』

『謝罪して、戻ってきてほしいと頼んだ。
 しかし、彼女はなかなか頷いてくれなくてね。
 OKをもらうまで、1年かかったよ。
 けど、それでも俺にとって、彼女は何にも代え難い存在なんだ。』

『だったら、何でさっさとプロポーズしねぇんだ?
 あんたがグズグズしてっから、こんなことに…』

『いやいや、彼女がOKしたのは恋人に戻ることじゃないんだ。』

『…はぁ?それ以外に何があんだ?』

『彼女のセックスフレンドの一人になること、だよ。』

『体だけの関係?
 あんたはそれでもいいのか?』

『いいわけはない…が、どんな形であれ、彼女との縁を切りたくなかった。
 それを足掛かりにして、ゆくゆくは、と思ってたんだ。』

『へぇ…で?』

『夏に、日本へ帰国した時、花沢氏に恋人ができたことを知ったらしい。
 お相手は彼女も知っている女性で、とてもチャーミングな人だと言っていた。
 が、花沢氏に彼女は似合わない、彼の相手は私しかいない、と言い出してね。
 そこから口論になって、彼女はまた日本へと戻ってしまったんだ。
 仕事も一段落したし、そろそろ迎えに行こうかと思っていたらこの騒ぎで、正直驚いたよ。』

彼の様子を見る限り、嘘を言っているようには見えねぇし、これが真実なんだろう。
だとしたら、静の子供の父親が誰なのか、こいつなら知ってるかもな。

『なぁ?静って、何人くらい男いるんだ?』

『多少の入れ替わりはあるが、常時15人くらいはキープしてるんじゃないかな?』

へぇ…総二郎以上、か。

『ふ~ん…で、7月頃って、静は何してた?』

『7月は…ずっとフランスで仕事をしていたよ。
 6月もだな…ちょうど結審した公判の資料をまとめたりしていたから。』

『なるほどな。ちなみに、フランスには何人の男がいる?』

『俺が把握してるのは、俺を含めて3人かな。
 けど、他の2人とはその頃は会ってないはずだ。
 その間は俺がフランスにいたし、俺のアパルトマンで一緒に暮らしていたからね。』

ってことはビンゴじゃね?
何だかんだ言っても、静はこいつのことを愛してんだろうな。

喧嘩した勢いで日本に来たはいいが、類は牧野に夢中で相手をしてくれない。
それなら他の男と、って思った矢先にガキがいることに気付いた。
そんな状態だから、フランスに帰れなかったのか。


でも子供を堕ろす、って選択肢はなかったのか?


類の子供じゃないのは、静自身が一番よくわかってる。
愛してもいない男の子供を産むなんて、静には無理だろう。
じゃあ、類の子供だと言ってまで、産みたかった?
フランスにいるこいつの耳にも届くほどの『何か』をでっちあげれば、慌てて迎えに来ると踏んだか?


強ち間違っちゃいねぇ気もするが、どうだろう?
これはひとまず、あいつらに相談すっか。

『話はわかった。
 だが、静はあんな状態だから、俺らも迂闊に近寄れねぇ。
 それは類も同じだ。
 ただ、類は今、本当に愛する女と一緒にいる。
 ヤツのことを心配してくれるなら、そっとしておいてやってくんねぇか?
 必ず、近いうちに会えるようにすっから…』

『ありがとう、ミスター・道明寺。
 俺は必ず静を連れてフランスに帰る。
 そのためなら何でもするから…頼む!』

『ああ、わかった。
 また後で連絡する。
 それまではメープルに居てくれ。』

スマホを取出し、メープルに連絡を入れる。

「俺だ。スイートに客を泊めるから用意を。
 名前?名前は…」

ふっと、目の前の碧眼を見つめる。
真っ直ぐに俺を見る瞳が必死すぎて、年上のくせに情けねぇなぁ、と思う。
だが、こいつの言うことに嘘やごまかしはねぇ、とも感じる。
だから、信じたんだぜ?

「ジャン・ピエール・マイヨール」

静を幸せにできんのはお前ぇしかいねぇ。

そうだろ?…静。


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2018.03/21(Wed)

お知らせですよっと


ども(・ω人)ども

突然ですが…3月といえば?


そうですっ!
我らが愛する『花沢類』の誕生日~♡


ということで。


fleurs printanières
team Ruiによる類誕イベントを開催します♬


サイトオープン:3月22日(木) 0:00 ~ 4月8日(日) 23:59

お話スタート:3月23日(金) 0:00~


コメントはオープンコメントのみ受け付け致します
どうしても秘密でコメントを残したい場合は、各サイト様へ直接コメントをお願い致します。
お馴染み!拍手小話もありますよっ♪♪


↓↓↓↓↓ 此方から、どうぞ(*´∀`)♪


fleurs printanières


管理人:team Rui




今回も、性懲りもなく参加させていただきました(*^-^*)
どんなお話になってるのか、ぜひぜひお楽しみに~♪


By 聖


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


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2018.03/21(Wed)

Lesson - The 9th unit - Viewpoint change ③


司からの連絡で、再び俺たちは集まった。
あれから数日、テレビ報道は少し収まりつつあったが、それでもまだ世間を賑わわせている。
類と牧野はどうしているだろう。
一緒にいるはずだから、そこまでの心配は必要ないとは思う。
てか、二人の絆を深めるため…とか言って、押し倒してたりして?
ククッ…あいつらに限って、それはねぇか。


司から、静とマイヨール氏の話を聞いた。
俺もあきらも、司の読み通りだと思う。
なら、静をメープルに呼び出して、彼と引き合わせるか?
けど、あの静がそうそう素直になるとも思えねぇ。
聞いた話じゃ、静のやつ、類んちで類の帰りを待ってるらしい。
連日の報道も、必ず花沢の邸の前だしな。

しかたねぇ…ちょっと様子見に行ってくっか。



花沢の邸前は相変わらず記者たちがカメラを構えている。
俺が姿を見せた途端、焚かれたフラッシュに一瞬目がやられる。

インターホンを押し、暫くすると。

「あら!総二郎じゃない!久しぶりね!」

開いた門から姿を現したのは、やっぱり静だ。
嬉しそうに抱きついてくるところは変わんねぇな。

「よぉ、静…何でここに居んの?類は?」

類が居ないのなんて知ってるし、何処にいるかもわかってる。
けど、それを悟らせちゃならねぇ。

「類は今ちょっと出かけてるの。
 直に戻ると思うから、中で一緒に待ちましょ?」

さりげなく俺の腕に腕を絡め、ピッタリと体を密着させてくる。
おいおい…お前、自分の立場わかってんのか?
この姿も、あの記者たちの格好の餌になるんだぞ?
ていうか、これも彼の気を引くための演技だったりして?

そんなことを考えながら、引き摺られるように花沢の門を潜った。


俺の訪問が相当嬉しいのか、静は終始ご機嫌で、俺の傍を離れようとしない。
まぁ、寂しかったんだろうな…この広い邸に一人きりなんだから。
部屋の隅に控えている使用人頭に目を遣れば、困惑の笑みを浮かべている。
ったく…どこまで暴走すれば気が済むんだ、この女王様は。

「ていうか、いつの間に類と結婚するなんて話になったんだ?
 俺ら、マジでビックリしたんだぜ?」

「フフ…類ったら、私がピエールとヨリを戻しそうになって焦ったんじゃないかしら?
 フランスで彼と一緒に暮らしてるって話したら驚いてたもの。」

「へぇ…すっかり別れたのかと思ったら、いつの間に?
 マイヨール氏もかなりのイケメンじゃん…やっぱ静はすげぇな…」

俺は敢えて彼を褒めちぎり、類はまだまだ子供だと貶した。
その方が静の本心が聞けると思ったから。
案の定、静は嬉しそうにマイヨール氏のことを自慢げに話す。
その間、類の名前なんて一言も出て来なかった。

「ピエールとは別れた後も会ってたわ…ビジネスパートナーとしてね。
 彼は仕事に対してとても真面目だし、才能も申し分ないわ。
 彼のおかげで私のビジネスも順調だし、本当に感謝してるの。」

「だったら、何で別れたんだ?
 結婚の話だって出てただろ?」

「ええ…私もあの時は彼と結婚できたらいいな、って思ってた。
 でもね、彼にとって一番大事なのは私じゃなくて仕事なの。
 いつもいつも忙しくて、すれ違いばかりで…そんな生活がイヤになったのよ。」

「それで、いろんな男と遊ぶようになったのか?
 寂しいならそう言えばよかったんじゃないのか?」

「私が?寂しいですって?そんなこと…」

「今だって、寂しいんじゃないのか?
 縋りたいのは類でも俺でもなくて…」

「違うわっ!
 変なこと、言わないでちょうだい!」

俺の腕を掴む静の手が微かに震えている。
その表情はここ数日見てきたものとはまったく違っていて。
怒りの仮面を付けて、寂しさや不安を隠そうと必死になっているように見えた。


何だ…静もちゃんと人間らしいとこ、あるんじゃん。


そう思えたら、過去のアレコレなんて、気にもならなくなった。
ただ、幸せになってほしい。
静が幸せになれば、きっとすべて上手くいく気がして。

「じゃ、俺、そろそろ帰るわ。」

「え?類に会っていかないの?」

「類…暫く帰ってきてないだろ?
 そんなの待ってるほど、俺も暇じゃねぇしな。」

静の腕をやんわりと解き、立ち上がって部屋を出る。
その瞬間、いいことを閃いた。

「あ、そうだ。
 司たちと話してたんだ…静たちの婚約祝いのパーティーやろうって。
 メープル貸切って盛大にさ…どう?」

「えっ…ほんとに?嬉しいっ!」

俺は静に見えない角度で、フッと笑う。

「そっか。じゃ、準備するように言っとく。
 詳しいことが決まったら、また連絡するわ。」

ヒラヒラと手を振り、部屋を出た。
見送りに付いてきた使用人頭が相変わらず不安そうに俺を見てる。

「大丈夫ですよ…これでみんな幸せになるはずだから。
 なので、もう暫くは静のこと、頼みます。」

「…承知致しました。
 くれぐれも類様と…つくし様のこと、よろしくお願い致します。」

深々と頭を下げる姿に、苦笑いしか出てこない。


静、素直になれよ。
じゃねぇと、あいつらも幸せになれねぇんだから。



待たせていた車に乗り込み、すぐに司へと連絡を入れる。
俺の提案に、司も『いいな、それ』と頷いた。

「準備は任せる。
 手伝うことがあれば言ってくれ。」

『わかった。任せろ。』


こうして、『藤堂静 婚約祝賀パーティー』の計画が動き出した。


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2018.03/22(Thu)

また、会えたね


We are glad to be able to see you again !!




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2018.03/22(Thu)

Lesson - The 9th unit - Viewpoint change ④


総二郎発案のパーティーの準備が着々と進んでいる。

司はパーティーの準備をしつつ、マイヨール氏の会社との業務提携を進めていた。
総二郎は静の相手をしながら、これ以上暴走しないように見張っている。
そして、俺は類と牧野の担当。
牧野にはこの計画を話すつもりはない。
ただ、類にはちゃんと知らせておこうというのが3人の総意だ。
当日は何が起こるかわからない。
静だけじゃなく、類にまでパニクられた日にゃ、目も当てられないからな。

そして、上手く事が進んで、静が収まるところに収まったら…。



そんなわけで、今、俺は牧野家に来ている。
目の前には牧野の両親、俺の隣に類が座った。
牧野は習い事に行っていて、家にはいない。

「今日は急なお願いにもかかわらず、お時間を作っていただいてありがとうございます。」
「大丈夫よ、そんな畏まらないで?」
「で?話って何?
 これ以上の面倒は勘弁してよ?」
「おいおい…話す前からそう言うなって。
 それに、これはお前と牧野にとっても悪い話じゃないさ。」

俺は司から聞いた、静とマイヨール氏の話、そして総二郎が見た、静の様子を伝えた。
そして、これからやろうとしている『計画』も。

「静とマイヨール氏はお互いに愛し合ってる。
 で、妊娠が確かだとしたら、それは彼との子供でしょう。
 それなのに、静は現実から目を背け、事実を受け入れようとしない。
 類を愛していると思い込むことで、マイヨール氏への気持ちを否定したいだけなんじゃないかな?」
「何でなのかしら…類君にはあれだけストレートに思いをぶつけられるのに…」
「それは…たぶん、本気で愛してないからでしょう。」
「…どういうこと?」

不思議そうに、類は小首を傾げる。
お前にはわかんねぇだろうな…俺らの気持ちなんて。


俺らも類と同じで、親の決めた相手と結婚する未来しかない。
だが、類と牧野はそれ以前にお互いを愛している。
『親の決めた相手』と『心から愛する女性』がイコールで繋がるなんて奇跡なんだぞ?


「お前への『愛してる』は挨拶みたいなもんだってこと。
 静はああいうやつだから、常に誰からも優位でいたいんだ。
 本気の思いを告げるのは、静のプライドが許さないんだよ。」
「恋愛に優劣なんて無くない?」
「ああ、そうだよ。
 けど、静はそれがわかってないんだ。
 今まで、告られることはあっても、告ったことなんてないだろうからな。」
「けど、そんなんでうまくいくの?
 静が意固地になって、また暴走するんじゃない?」
「その辺は考えてるさ。
 要は、マイヨール氏が類よりも優れた男だって、周りが認めればいいんだ。
 そんな男から求愛されれば、必然的に静の格も上がる。
 だから、当日のお前の役目はピエロなんだよ。」
「ふ~ん…」

そのまま類は黙ってしまった。
まぁ、こいつにもプライドはあるだろう。
公衆の面前で女にフラれるなんて、辛いに決まってる。
けど、お前には牧野がいるだろ?
それに、牧野の両親だって、お前のことはちゃんとわかってくれてる。
ここで何が起こったって、お前らの関係は何も変わらないんだ。


暫くの沈黙の後、類が目線を上げた。
そして、牧野の両親に向かって、頭を下げる。

「俺、この話を受けようと思います。
 本当はこんな役目は負いたくはない。
 俺のせいで、つくしや牧野家、うちの両親にも不快な思いをさせるかもしれません。
 今までもさんざん静には振り回されてきたし、うんざりもしてる。
 けど、やっぱり彼女にも幸せになってほしい。
 俺とつくしのように、彼女にも、心から愛することの幸せを知ってほしい…だから…」

「類君…頭を上げてちょうだい。」

牧野の母親が真っ直ぐな瞳で類を見つめる。
こういうところはやっぱ母娘なんだな。


ゆっくりと類が頭を上げる。
それを牧野の母親は目元を緩めながら見つめている。
そして、いつもの柔かな笑みを浮かべた。

「ありがとう…覚悟を決めてくれて。」

「…え?」

類が驚きの表情を見せる。
俺も、一瞬、何を言われたのか、わからなかった。

「類君に嫌な役回りをしてもらうのは、こちらとしても心苦しいわ。
 けど、これはあなたじゃなきゃダメなの。
 あなたが覚悟を決めてくれなければ、せっかくの計画も意味がなくなってしまう。
 だから、ありがとうね。
 それに、これ以上、あなたとつくしの沈んだ顔は見たくないの。
 あなたとつくしが笑っててくれないと、こっちも心配になるから…」
「…はい。」
「あきら君、それに、司君と総二郎君も、本当にありがとう。
 私たちにできることがあれば、何でも言ってちょうだい。」
「ありがとうございます。
 できれば、当日まで、牧野には何も言わないでもらえますか?
 静にも、ただ『婚約パーティーをする』としか言ってないんです。
 この計画がバレてしまったら、彼女、絶対来ないと思うから…」
「そうねぇ…あの子、ほんと、隠し事が下手だものね。
 わかったわ、つくしには内緒にしておくわね。」
「ありがとうございます。…類も、いいな?」
「うん。」

これで最初の課題はクリアだ。
さて、肝心なのはここから…と、思ったら。

「…あっ!そうだわ!いいことを思い付いた!」

突然、牧野の母親が興奮気味の声を上げる。

「ねぇ、類君!
 もし、これが上手くいったら、つくしと二人で旅行に行ったらどうかしら?」

「「…えっ?」」

「だって、今回、類君は藤堂さんにフラれるんでしょ?
 暫くは日本には居づらいだろうし、傷心旅行ってことにして…どう?いいと思わない?」
「え…でも、つくし、学校が…」
「学校?そんなのは気にすることじゃないわ!
 それよりも、類君の心の傷を癒すことの方が大事よ!」
「は、はぁ…」
「そうと決まれば、さっそく優美ちゃんに相談しましょ!」

スマホを片手に、牧野の母親が小躍りを始める。
これが、あの『真喜乃』の取締役なのか?と疑いたくなった。
いや、牧野の母親と考えれば、これが本来の姿なのかもしれない。

「あ、あの…っ!」

部屋から出ていこうとする牧野の母親に声を掛ける。
そう…俺はもう一つの『計画』を伝えてなかったんだ。


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2018.03/23(Fri)

fleurs printanières 第1話 -星香-


第1話




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2018.03/23(Fri)

Lesson - The 9th unit - Viewpoint change ⑤


藤堂さんの報道から数日。
その日から先輩はずっと学校をお休みされています。
それは当然でしょうね…いくら先輩が能天気だからって、この状況は居た堪れないでしょう。

この学校内で、先輩と花沢さんの関係を知らない者はいません。
藤堂さんと花沢さんの婚約を当然だと言う人。
先輩よりも、藤堂さんの方が花沢さんのお隣に相応しい、と言う人。
フラれた先輩を嘲笑う人。
…そんな人たちばかりなのです。


あの報道を見て、私はすぐに先輩へと電話をしました。
何度か掛けて、やっと繋がったのは翌日。
電話口の先輩の声が思ったほど沈んでいないことに安堵したのを思い出します。

『何か、静さんが暴走しちゃってるみたい。
 けど、あれはデマだから、気にしないで。』

デマでよかった。
もしこれが本当だったら、私たちは花沢さんを絶対に許しません。
『泣かせたら殺されそう』と仰ったのは花沢さんご自身なのですよ?
忘れたなんて、言わせませんからね!



連日の報道にもほとほと嫌気が差してきた頃。
滋さんから『話があるの!』との連絡が来ました。
お二人のためにF3が動くのは時間の問題だと思っていましたし、できる協力は惜しみません。
滋さんも急に道明寺さんから呼び出されたようで、話の内容は会ってから、とのことでした。

そして…。

道明寺さんのお邸に集まった私たちに、彼らはこれまでの経緯のすべてを話してくれました。
藤堂さんとマイヨール氏の関係やその想い、そして藤堂さんもマイヨール氏に想いを寄せていること。
花沢さんが今、先輩の家に匿われていることも。
そのことに、私と滋さん、優紀さんも安堵の息を吐きました。
先輩の傍には花沢さんがいる…それだけで何もかもうまくいくような気がするのは早合点でしょうか?

「類と牧野の両親にはさっき説明してきた。
 どっちもOKだって。
 それと、このことは牧野には絶対言うなよ?」

私たちは了承の意を込めて、首を縦に振る。
それを確認すると、美作さんは当日の流れを説明し始めた。

「類と牧野には前日にメープルに入ってもらう。
 牧野には…そうだな、気分転換にみんなでディナーを、とでも誘うか。
 で、パーティーの間、牧野は部屋で待機させるんだけど。
 その間の相手を…松岡さん、お願いできるかな?」
「はい、わかりました。」
「ありがとう。時間の潰し方は任せるよ。
 それで、ここからが問題なんだ…」

美作さんがポケットから数枚の写真を取り出した。
それは、当日、マイヨール氏にエスコートしてもらう女性の候補だという。

「静と雰囲気が似てるやつを知り合いのモデル事務所から紹介してもらったんだ。
 この中の誰に頼むか、みんなの意見を聞かせてくれ。」

写真の女性たちはモデルということもあり、確かに美人なのですが。
この方たちには何かが足りないと感じます。
美しさ、華やかさは申し分ないのかもしれませんが…。
正直、藤堂さんがこの方たちに心を揺らすとは思えません。
それは皆、同じ思いのようで。

「「う~ん…」」

道明寺さんも西門さんも、決めかねているご様子で。
滋さんと優紀さんはそもそもマイヨール氏と面識がないので、選びようがないといった感じでした。

私は過去に何度か、マイヨール氏にはお会いしたことがありました。
その時はお互い、別のパートナーを連れていましたし、社交辞令的な会話しかしていません。
マイヨール氏はかなりのイケメン…ともすれば、このお三方よりも魅力的かもしれません。
見た目の華やかさは甲乙つけ難いのですが、やはり大人の魅力といいますか、包容力があるというか。
浮ついた雰囲気がないというのは、彼らがまだ学生であるのでしかたないでしょう。

でしたら、ここは…。

「そのお役目、私にやらせていただけませんか?」

「「「…は?」」」

「え?桜子、あんた正気?」

「桜子さん…?」

ええ…私も信じられません。
ですが、先輩のためですからね。
それに、こんなどこの馬の骨ともわからない女性に、藤堂さんが嫉妬するなんてありえません。

「ご不満もおありでしょうが、私なら問題ありませんわ。
 家柄、容姿、教養…藤堂さんには多少及ばないながらも、その辺の女性とは格が違います。
 マイヨール氏には以前お会いしたことがありますし、とても素敵な方です。
 もし失敗したら、その後は私が慰めて差し上げますわ。」

その気は毛頭ありませんが、まぁ、そうなったらその時は愉しませていただきます。

「桜子…お前ぇ…」
「何だ、その男前発言…」
「失礼ですわね?私は男性じゃありませんわ!」
「いやいや…かっこよすぎだろ…」
「うん…滋ちゃん、一瞬惚れそうになったよ?」

口々にお褒めいただくのは悪くないのですが、私だって好き好んで手を挙げたわけではありません。

「先輩のためですから。
 あのお二人には幸せになっていただきたいんです。」
「うん…私もそう思う。でも、桜子さん…」

不安そうに見つめる優紀さんの気持ちは痛いほどわかります。
けど、花沢さんもその覚悟を決めたのであれば、私もピエロになろうと思います。

「わかった…じゃあ、桜子、頼むな。
 その後のフォローはするから…」

美作さんの言葉に、誰一人異を唱える人はいません。
この計画が成功するかどうかの鍵は、私がしっかりと預かりました。

「ありがとうございます。
 できるだけのことはやってみますわ。
 道明寺さん、近いうちにマイヨール氏にお会いできますか?
 それと滋さん…先日ご紹介いただいたエステに予約をしていただけます?」
「お、おぅ…」
「うん、わかった!いつでも、何回行ってもいいよ!」
「クスッ…当日のドレスはどんなのがいいかしら…」
「それなら、うちの母親に相談してみろよ。
 何度か、静のドレスを見立てたこともあるしな。」
「まぁ…美作さんのお母様が?
 それはとても心強いですわね。」
「何なら、当日の静のドレス、俺が事前にリサーチしてもいいぜ?」
「私は…桜子さんには何もしてあげられないけど。
 でも応援してるから!がんばってね!」

皆さんの期待にお応えできるか、正直わかりません。
でも、この方たちの本気が私を動かすんです。
だから、もう迷ってる暇はありませんわ。

「精一杯、務めさせていただきます。
 それで、その後のことですけど…」
「ああ…それなら問題はない。
 花沢、牧野両家からの承諾はもらった。
 牧野んちの母親なんて、小躍りしちゃってさぁ…」
「ふふ…つくしのママらしいなぁ。
 けど、これでもう誰も、二人の邪魔はできなくなりますよね?」
「ああ。
 まぁ、正式な婚姻ではないから法的に守られるわけじゃないけど。
 両家がその関係を認めたとなれば、誰も何も言えないし、それに…」
「俺らを敵に回そうなんて、輩…いるわけねぇだろ?」

ニヤリと笑った道明寺さんの顔…怖いくらい格好いいですわね。
それに、美作さん、西門さんの不敵な笑みも。

「うふふっ♪パーティー、楽しみだなぁ~♪」
「滋さんが楽しみにしてるのは、その後、でしょ?」
「あははっ!わかる~?
 だってさぁ…二人の『婚約式』だよ?
 滋ちゃん、感動して泣いちゃうかも!」

滋さんのお気持ちは、ここにいる皆さんも同じ。
もちろん、私も、ですわ。

そのために、今日から私もより一層がんばります!
先輩のお幸せな笑顔を見るために。


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2018.03/24(Sat)

fleurs printanières 第2話 -plumeria-


第2話




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2018.03/24(Sat)

Lesson - The 9th unit - Viewpoint change ⑥


あの日、花沢の邸前で類に手酷く拒絶された時、もう類は私のことなんか愛してないんだと思い知った。
それなのに、今、私は類との婚約を嬉しそうに語っている。
心と体がバラバラで、誰を愛しているのか、誰と結婚したいのか、わからない。
私の心は壊れてしまったみたいね。

けど、1つだけわかる…このレンズの向こうの顔は、哀しみに歪んでいる。


***


フランスに渡って、国際弁護士を目指して大学に通った。
あれだけの大見栄を切って来たんですもの…やらないわけにはいかないじゃない。
大学でミスに選ばれ、その年の『ミス・ティーン・オブ・フランス』にも選ばれて。
大学での勉強とミスとしての仕事で、とても忙しい日々を送っていた。

その仕事の時に出会ったのがピエール。
彼の会社のキャンギャルを何度かやって、そのうちに親しくなって。
彼は見た目も素敵だけど、それ以上に知的で聡明で、包容力がある。
父親の仕事を手伝う傍ら、自らも会社を立ち上げ、その業績を伸ばしている。
そんな男性からの求愛を断るなんてありえないでしょ。
暫く経って、彼からプロポーズの言葉…あの時は本当に幸せだった。
けど、私は学生だったし、彼の支援で始めた事業もある。
世界を飛び回る彼に付いていくこともできず、独りで過ごす時間が増えた。

そんな時に声を掛けてくれたのが…誰だったかしら…名前も思い出せないけど。
フランスではそこそこ名の知れた会社のジュニアだったのは覚えてるわ。
彼に誘われるまま食事に行って…お部屋に誘われて。
正直、ピエールには申し訳ない気持ちだったけど…私より仕事を優先させるあの人が悪いのよ。
彼があまりにも熱心に愛を囁くものだから、ちょっと魔が差したの。
ピエールだって、私の知らない所で、私じゃない女を抱いてるんじゃないかって。

そこから、私の人生が変わったわ。

だいたい日本人は恋愛に対して消極的すぎるのよ。
疑似恋愛だって、十分楽しいのよ?
その場限りだから燃える、っていうのもあると思うの。
そういう意味では、あきらや総二郎は扱いやすかったわね。
けど、司と類…特に類は全然ダメだった。
何度誘っても乗ってこないし、おまけにこの私に意見なんてしてきて。
『今の静には何の魅力も感じない』ですって。
だから、ちょっとお仕置きのつもりで…極々微量のクスリを盛ったの。
で、そんな類を放置して、総二郎と寝たわ。
薄く扉を開けておいて、類に私のイイ声を聞かせて。
フフ…類も男の子よ…さすがに我慢できなかったんでしょうね。
あれだけ嫌がってたのに、体はちゃんと反応してたわ。
だから、たくさん可愛がってあげたわ…手と口と、アソコも使って、ね。
まぁ、私の方が燃え上がっちゃって…最後の方はあんまりよく覚えてないんだけど。
あれだけシたんですもの、軽く2、3回はイったんじゃないかしら?
よほど恥ずかしかったのね…私が寝ているうちに帰ってしまったみたい。
けど、私は満足だった。
だって、類の初めての女になれたんですもの。
私の体が恋しくなれば、またきっと…って思ってたわ。
なのに、あの子ったら。
『知らない。覚えてない。夢でも見た?』ですって!

おまけに、ピエールとはこのことで喧嘩して、別れ話をされて。


おかげで、私は疑似恋愛でしか快楽を得られなくなってしまったのよ。



それでも、神は私を見捨てなかったわ。
無事大学をスキップして、司法試験もパスして、晴れて弁護士の資格を得た。
別れた後もピエールは会社のバックアップはしてくれたし、弁護士事務所も紹介してくれた。
『静の寂しさを解ってあげられなくて済まなかった』って謝罪もしてくれた。
けど、そんな簡単に許したら、付けあがるじゃない?
だから1年くらい様子を見て『疑似恋愛でもいいなら』って条件でまた付き合うことにしたの。

今ならわかるんだけど…ピエールってとっても相性がいいの。
彼に抱かれてイケなかったことはないし、何時間でも抱き合っていたいって思える相手はそうそういないわ。
彼がフランスにいる間は彼のアパルトマンで一緒に過ごして、愛し合って。
本物の恋人同士みたいに過ごす時間は幸せで…彼の策に嵌ってたなんて気付きもしなかった。


ピエールが仕事で海外に行くのに合わせて、私も日本へと帰国した。
ちょうど仕事が一段落したのと、久しぶりに類に会いたくなったから。
類のお母様には時々お会いしてたけど、『類は相変わらずよ』って仰ってたし。
だから、帰国したその足で花沢のお邸を訪ねたの。
またあの熱い夜を思い出してもらおうと思ってね。

なのに類ったら、つくしちゃんと付き合ってる、なんて言うのよ?
まぁ、つくしちゃんもそこそこ名のある家の子だし、花沢家としては反対もしないんでしょうけど。
でも…こう言ったら失礼かもしれないけど、見た目は並じゃない?
スタイルだって、細身だけど胸はペッタンコだし。
あんな子が類の隣になんて、信じられないし、許せるわけがないじゃない!

けれど、そのことでまたピエールと喧嘩をしてしまって。
私があまりにも類のことを話すものだから、嫉妬させてしまったみたいね。

『そんなに好きなら、彼と結婚すればいい!
 でも彼が君を選ぶとは思えない!』

…類が私を選ばない?そんなはずないわ。
あれから暫く離れていたけど、今でも類は私のことを愛しているはずよ。
つくしちゃんのことは、ただの思い違い…一緒にいた時間が長かったから、好きだと勘違いしてるだけ。
また前のように一緒に過ごせば、絶対に私を選ぶわ。


あの時は、本当にそう思ってたのよ。
けど、心のどこかで『何かが違う』って感じたのも確か。
それが何なのか、一人になった今なら何となくわかるの。


妊娠に気付いたのは、古い使用人の何気ない一言だった。
最近の私は妙に怒りっぽくて、いつも苛々していた。
食事も喉を通らなくて、フレッシュジュースばかり飲んでいた。
それを見た彼女が『奥様が静様をご懐妊された時によく似ている』と言ったの。

まさか、そんなはずはない…とは言い切れない。
だって、この数ヶ月、ずっとピエールと過ごしていたから。
ピルはちゃんと飲んでいたし…と考えていた時に、ふと思い出した。
いつだったか、ピルの色が変わっていた。
それは彼が懇意にしている製薬会社が新たに発売した形状だと聞いていた。
だとしたら、私は騙されていた?
ピルか飴かもわからない物を疑うことなく飲み続けていたっていうの?

両親には内緒で検査を受け、『妊娠8週目』という診断を受けた。
お腹にピエールの子供がいる…そのことに、なぜか不快感はなかった。
しかし、妊娠の事実が両親の耳に入ってしまい、相手は誰なのかと問い詰められた。
その時…咄嗟に、類の名前を出してしまったの。

『類君か…まぁ、彼はまだ学生だが、しかたあるまい。
 早々に婚約、結婚の段取りをしないとな。』

両親は類が子供の父親であると信じて疑わなかった。
だったら、丁度いいじゃない?
類には申し訳ないけど、これであなたは私のもの…もう逃げられないわ。
この際、ピエールのことは忘れて、類を愛して生きていくのも悪くないわね。
きっと疑似恋愛は止められないでしょうけど、暫くはどこへも行けないし。
自由に動けるようになるまでは、あの4人に相手をしてもらいましょ。



「静、調子はどう?」
「あら、総二郎…忙しいのに来てくれたのね?」
「まぁな…類のヤツはまだ帰ってこねぇの?」
「ええ…大丈夫かしら?
 パーティーに来てくれなかったら…」
「あー、それなら大丈夫だろ。
 花沢の両親が引き摺ってでも連れて来るって言ってたし。」
「まぁ!それなら安心ね!」
「それより、当日着るドレスは決まったのか?」
「ええ、美作のおば様に見立てていただいてね。
 隣の部屋に掛けてあるわ。」
「へぇ…あきらんちの。
 ちょっと見てもいいか?」
「ふふ…かまわなくてよ?」


クスッ…つくしちゃん、ごめんなさいね。
みんな、私のために動いてくれてるわ。
そして、類の両親も私たちの結婚を喜んでくれているの。


もう、あなたの入り込む隙間は、ないのよ。


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2018.03/25(Sun)

fleurs printanières 第3話 -空色-


第3話




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2018.03/25(Sun)

Lesson - The 9th unit - sec.3


あの日から、あたしはずっと学校をお休みしている。
学校では類は有名人だし、あたしたちのことはみんな知ってるけど、それを快く思ってない人もいる。
別に後ろ暗いことはないし、堂々としてればいいって思うけど、そういうわけにもいかないみたい。
前に優紀と電話で話した時も、かなり言い難そうに『今は来ない方がいいと思う』って言われた。

誰がどう見たって、あたしより静さんの方がお似合いだし、絵になるとは思う。
でもあたしは類のことが好きだし、類もあたしを好きだって言ってくれてる。
静さんが何を考えてあんなことをしたのかはわからない。
けど、そのことで類は傷付いたし、辛い思いもしてる。
本当に好きなら、そんなことしないよね。
何か事情があるのかもしれないけど、類を巻き込んでほしくなかった、っていうのがあたしの本音。

で、最近は類からイタリア語を教えてもらってる。
イタリアには花沢のぶどう畑があって、今はそこの土壌作り中なんだって。
実際にぶどうが作れるようになるまでまだまだ時間がかかるし、ワインの醸造となるとまた時間がかかる。
でも将来的にはイタリア支社の主軸になるものだから、多少時間がかかってもいい物が作りたいって言ってた。
そうなると、イタリアに行く機会もあるだろうから、今のうちから勉強しておくのもいいよね、ってなって。
特に今は身動きが取れないから、ちょうどいいじゃん…ってことで。

ただね、フランス語も中途半端なのに、そのうえイタリア語とか、覚えられる気がしない。
いろいろ気になることもあるし、なかなか集中できないあたしが悪いんだけどさ。


そんなある日、珍しく類のスマホが鳴った。
相手は美作さん。
そういえば、桜子と滋さんはどうしてるのかな?
優紀とはたまに電話で話すけど、二人とは全然話をしてないや。
明日あたり、電話してみようかな…なんて考えてたら。

「つくし、明日みんなでご飯食べようって。」
「え?でも外に出るのはマズいんじゃない?」
「まぁ、そうなんだけどさ。
 一時期よりは報道も下火になったし、大丈夫だろうって。
 場所もメープルだし、そこまで警戒しなくてもよさそうだよ。」
「そっかぁ…みんなにも心配かけちゃったね。
 じゃあ、類が大丈夫なら、行ってみる?」
「ん。じゃ、おばさんたちにも話してくるね。」
「わかった。」

久々の外出に、ちょっとワクワクしてくる。
みんな、ってことは桜子たちも来るだろうし、いっぱい話したいことがあるんだよね。

「んー、明日は何着て行こうかなぁ…」

クローゼットに潜り込み、明日着る服を選ぶ。
無意識に口ずさんだ鼻唄に、戻って来た類がクスッと笑った。

「嬉しそうだね?」
「うんっ!だって、久々にみんなの顔が見られるから!
 類だって、楽しみでしょ?」
「まぁね。でも、ずっと俺と一緒だったから、ちょっと飽きた?」
「へ?何で?」
「んー、何となく?俺の顔は見飽きたかな?って思っただけ。」
「…見飽きるなんて、あるわけないよ…これからもずっと一緒にいるんだもん。」
「そだね…俺ももっとつくしのこと、見ていたい。」

類の自然な笑顔はいつ見ても、何度見ても、やっぱりかっこよくて。
そんな人と一緒にいられるなんて、奇跡かも?って思う。

「奇跡なんかじゃない…運命だよ…」

狭いクローゼットの中で、類の腕があたしを捕まえる。
そのまま引き寄せられるようにキスをして、あたしも類の背中に腕を回した。

「運命なら…絶対離れないよね?」
「もちろん。ずっと離さないから…」

あの日から何度となく交わされた言葉。
何があっても、離れないし、離さない。
この気持ちはずっと変わらない。

静さんには申し訳ないけど、類は渡さない…絶対に。




翌日。
陽が傾きだした頃、美作さんちの車が迎えに来た。
念のため、家の周りを見てきてくれて、誰もいないのを確認して家を出る。
さすがの類も、ちょっと緊張してるのか、表情が硬い。

美作さんが用意してくれたのは、いつもより小さい車。
左右の窓はフルスモークだし、運転席との間には仕切りのカーテンもあって、外からあたしたちの姿は見えない。

「メープル周辺に警備の者もおりますが、念のため、地下からお入りいただきます。」
「わかった。頼むね。」

ゆっくりと走り出した車が住宅街を抜けていく。
途中でチラッと見えた花沢のお邸には、相変わらず何人かの記者が張り付いていた。

「まだいるんだ…」
「まぁ、そうだろうね。
 あそこには静もいるし…当分は戻れないね。」

その声が少し寂しそうで、繋いでいた手をギュッと握る。

「一緒に戻ろうね…絶対。」
「ん。絶対ね。」

類の肩口にコツンと頭を寄せると、類もあたしの頭に頬を寄せた。
お互い何も話さず、ただその温もりを感じている。

「ごめんな、つくしにまで窮屈な思いさせて。」
「ううん、大丈夫…」
「でも、もうちょっとだから。
 そしたらいっぱいデートしよ?」
「うん…楽しみにしてるね。」

ごめんね、類。
類の方がもっと辛いのに。

「どこに行くか、考えといて。
 つくしが行きたいとこ、全部行くから。」
「えっ?ほんとにっ?…そうだなぁ~、どこがいいかなぁ?」

ほんとは類とのデートなら何処でもいい。
近所の公園だって、全然嬉しいんだよ。


フルスモーク越しに外を見ても、景色なんてろくに見えない。
でも、それも今だけだよね?
類が大丈夫って言うんだから、大丈夫。

誰の目も気にせず、類と手を繋いで寄り添って、笑いながら歩く。
早く、そんな日がくるといいな。


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


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