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Moonlight Rhapsody ~Ⅴ~

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Category【5万HIT】Moonlight Rhapsody

つくしを連れて入ったのは、類が一人で飲みたい時に行くバー。
顔馴染みのマスターは、類に連れがいることに一瞬驚いたが何も言わない。

「奥、いい?」

「空いてますよ、どうぞ」

「牧野さんはお酒は?」

「あ、あんまり…」

「そ。じゃ、俺はいつもので。
 彼女には弱めのカクテルを」

それだけ伝えて、その先の個室へとつくしの手を引いた。


他人の温もりが心地いいと感じたのはいつ以来だろう。
普段、あれだけ女の肌に触れているのに、その時には感じない感覚。
クラブの人混みに逸れないように、と繋いだ手。
店を出て、逸れる心配もないのに、何故か離せずにいた。
そんな類を拒否する様子もないつくしは、本当に類のことを知らないのだろう。
それが類を安心させ、自然と笑みが零れた。


「素敵なお店ですね…」

この手の店に来たことがないのか、つくしは物珍しそうにキョロキョロと見回す。
静かな店内にはジャズが流れ、その音色が耳に心地よく響く。
やや照明を落としてはいるが、暗さを感じさせない間接照明も、落ち着いた雰囲気を醸している。

「うん。いつも一人になりたい時に来るんだ」

カランと涼やかな氷の音と、チンとグラスを合わせる音が再会を祝う。

「え…そんなお店にあたしなんて…」

「いいんだよ。
 俺が連れてきたかっただけだから」

この店に誰かを連れてきたのは初めてだった。
あの煩い幼馴染すら連れてきたことはない。
子供の頃から、周りの人間と関わることを極力避けてきた。
だから、今つくしといて、こんなに穏やかな気持ちになっている自分に驚いていた。

「そ、ですか…あの…こ、この前はごめんなさい」

恐縮したようにポツリと話すつくしに、悪気がなかったのは手に取るようにわかる。

「気にしないでいいよ。
 あの状況なら訝しまれてもしょうがないし」

グラスに付けた類の口元に笑みが見え、つくしはホッとした表情を見せる。
年齢に比して幼さすら見え隠れするその姿は、あの日と変わらない。
あの日よりも幼さが増して見えるのは、ドレスではなく私服だからだろう。
うっすらと施されたメイクに、微かに香る柑橘系のフレグランス。
いつもの女たちとはまったく違う彼女の雰囲気に、類は不思議な安らぎを感じる。

「明日は休み?」

「はい」

「じゃあ、多少は遅くなっても平気だね」

「え?」

「あー、もしかして、これから何か予定あるんだ?…恋人とデート、とか?」

「えっ!…あ、いや…それはない、ですけど…」

慌てたように口篭もりながら、恋人の存在を否定するつくしに、類は内心ホッとする。
テーブルに片肘を付き微笑みかけると、つくしは照れたようにその頬を染めた。

「なら、ちょっと付き合ってよ。
 牧野さんとはゆっくり話をしてみたかったんだ」

「へ?あ、あたしなんて面白くも何ともないですよ?」

慌てて顔の前でブンブンと勢いよく手を振る。
その反応に、類も思わず笑みが漏れた。

ー 別に、愉快な話がしたいわけじゃない。
  ただ、あんたのことが知りたいだけだ。

そう呟くと、つくしは不思議そうな表情で類を見つめた。


他愛ない会話。
二人の間に、ゆったりとした時間が流れる。

つくしは類の1つ歳下で25歳。
大河原石油総務部勤務。
父親はサラリーマンで、母親は専業主婦、3歳下の弟がいる。
家族とは離れて暮らしており、今は会社の借り上げたマンションで一人暮らしをしている。
あのパーティーには大河原滋の付き添いで出席していたが、あの場の雰囲気に馴染めずにバルコニーに逃げ出した。
そこで、その日が新月だったことを思い出し、咄嗟に願い事をしていた、と言う。

「ふーん…確かにすごい必死に祈ってたよね。
 一体何の願い事してたの?」

「え?…あー…大したことじゃないですよ?
 仕事でミスしないように、とか、家族が健康で元気に暮らせるように、とか…」

「他には?」

「…後は、彼氏ができますように、とか…。
 って!言っちゃったら叶わないかもしれないじゃないですかっ!」

ムッと軽く類を睨むが、その表情にも愛嬌がある。

「いいじゃん。大事なのは『気持ち』でしょ?
 自分でそう言ったの、忘れたの?それに…」

一瞬途切れた言葉。
絡まる視線に、知らずと熱が篭る。

「…口に出して届く『願い』もあるんじゃない?」



つくしのことを知りたいと思ったのは嘘ではない。
目の前にいる女性が、何を思い、何を話すのか。
そして、何故、これほどにこの女性に興味を抱いたのか。
自分で自分の心がわからない。
だから、知りたかった。
この感情が何なのか…。


話せば話すほど、つくしの存在が大きくなる。
真っ直ぐに自分を見つめる、その澄んだ瞳。
クルクルと表情を変え、楽しそうに笑うその口元。
照れたようにうっすらと染まる、その頬。
目に映る、その一挙一動が微笑ましく、廃れた心に潤いをくれる。


一目惚れ。
そう自覚することに、何の躊躇いもなかった。
そして、次に襲うのは『葛藤』。
手に入れたい。
でも知られたくない。
本当の自分を知ったら、二度と会ってはくれないだろう。
あの澄んだ瞳に侮蔑の色が浮かぶのが怖い。
気付いてしまった感情を伝えることのできない無力感で、胸が苦しくなる。


何かを考えるように押し黙ってしまった類に、つくしの瞳が不安で揺れる。

「…ごめん、なさい」

突然の謝罪に、類の意識が引き戻される。

「何?」

「いえ…あ、あたしといても…つまんない、ですよ…ね」

申し訳なさそうに俯いてしまったつくしに、類は自嘲の笑みを浮かべた。

「違う…ごめん、ちょっと考え事してただけだから」

「お仕事のこと、ですか?
 だったら、あたし、帰りますよ?」

ゆっくりと立ち上がろうとするつくしを制するように、類の手が伸びる。
突然腕を掴まれ、驚いたつくしはその動きを止める。

「ごめん、本当に違うんだ…」

多少アルコールが入ったせいか、つくしの顔がほの赤い。
そして、その腕の細さに、一瞬ドキンと胸が鳴る。

「花沢、さん?」

きょとんと見つめるその瞳が無性に可愛いく見えるのは酔ったせいではない。
クイッと軽くその腕を引くと、バランスを崩したつくしは類の腕に捕らわれた。


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