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Moonlight Rhapsody ~Ⅸ~

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Category【5万HIT】Moonlight Rhapsody

手を引かれるまま、通されたのはガランとした部屋。
置いてあるのはベッドとテレビだけ。
そして、部屋の片隅にはミスマッチとしか言いようのない鉄の鎖。

「ね?何もないでしょ?」

大きな窓にはカーテンもなく、殺伐とした部屋がもの寂しい。

「こんなに広いのに、もったいない…」

「いいんだよ。必要最低限で。
 基本、この部屋に誰かを通すことはないからね」

「え?」

「牧野さんは特別」

穏やかな微笑みを浮かべ、類はつくしの手を引く。

「…どうして?」

繋がれた手を振り解くことも忘れ、長身の類を見上げる。
咄嗟に発したその一言に様々な思いが巡る。

どうして、あの女性と会ったの?
どうして、追いかけてきたの?
どうして、ここに連れてきたの?
どうして…あたしを『特別』だと言うの?

けれど、その思いをぶつけることができない。
それを言ってしまったら、類を傷付けてしまうかもしれない。
そして、自分も傷付くかもしれない。
そう思い、そのすべての言葉を飲み込んだ。



「ソファとかないから、とりあえず、ここ座って?」

類は自分の隣をポンポンと叩くと、つくしに座るように促す。
つくしは言われるがままに、その場所へと腰を下ろした。
繋いでいた手が離され、その手がつくしの柔らかい髪に触れ、肩を抱く。
その優しい温もりに、つくしは無意識に類へと身を預けた。



二人の間に流れる静寂を破ったのは、類だった。

「あんな真剣に走ったの、初めてかも」

その時のことを思い出し、類は苦笑いを浮かべた。


受付担当からつくしが帰ってしまったと連絡を受けた瞬間、追わなければと思った。
つくしの機嫌を損ねた理由はわからない。
けれど、今追わなければ二度と会えなくなる気がした。
ゆっくりと開閉する自動ドアの扉すらもどかしく、その隙間をすり抜けるようにして会社を飛び出す。
小柄なつくしは人混みに紛れてしまえばなかなか見つけることができない。
万事休す、と走る足を緩め、周りを見回した視線の先に、肩を落としトボトボと歩くその背中を見つけた。



「せっかく会いに来てくれたのに、何で帰っちゃったの?」

嬉しかったのに…と、少しはにかんだ類の言葉に、つくしは先ほどの女性の姿を思い出す。
綺麗な人だった。
態度は最悪だけど、きっと類の前では可愛い女を演じるのだろう。
そんな彼女に、類は微笑みを向けたはずだ。
それを思うだけで胸が悪くなる。

「理由を教えて?
 じゃないと、今日、帰してあげないよ?」

「えっ!?」

「おれは一向に構わないけど…牧野さんは困るんじゃない?」

肩に触れる手に力が籠り、その腕に抱き締められそうになる。




「だ、だって…女の人が…」

つくしの声に、類の表情が曇る。

「女?」

「専務に会いに来たって…女の人が…」

「…誰だろ?
 っていうか、俺、今日誰にも会ってないよ?
 牧野さんが来たって聞いて、待ってたくらい」

「で、でもっ!女の人、エレベーターで上がって行ったもん!
 『専務は私に会いたいに決まってるじゃない』って高笑いしながら…」

その後ろ姿を思い出すだけで涙が滲む。
類には本当に心当たりがないのか、怪訝そうな表情を浮かべる。
が、何か思いだした風に『あー…』と小さな声を洩らした。

「…たぶん、それ、秘書が対応したんだ。
 俺宛ての面会は仕事以外は全部断ってるし、どうしても引き下がらないヤツは秘書に任せてるから。
 って、牧野さん、俺の『悪評』知ってるんだ?」

つくしは小さく頷く。

「ごめん…調べた。
 それと、滋さんからも聞いた」

「そっか…」

類は情けなさそうに小さく笑うと、つくしを抱いていた腕を下ろした。

「滋さん、言ってた…何か深い事情があるんだろう、って。
 それに、あたしも何となく…ソレだけが目当てじゃないんじゃないかって思ってたから…」

本当に何となくだけどね…とつくしも小さく笑う。
肩を抱く腕が解かれても、つくしは寄り添うように類に身を預ける。
触れたところから伝わる体温が心地いいと感じたのは初めてだった。



「牧野さんは男の人と…したことある?」

突然の質問に、つくしは驚き、類を見上げる。
その瞳は哀しみに揺れ、それが類の心に深い傷を残していることを物語っていた。

「…過去にはあるけど…あんまり、いい思い出じゃない、かな…」

「そっか…ごめんね、嫌なこと思い出させて」

哀しみと苦しみの入り混じった声音が胸に響く。


類は自分の身に起こる因縁と、そのためにしてきたことをポツリポツリと語った。
そのどれもがつくしには信じ難いことではあったが、類の表情から、それが真実なのだろうと思う。
類の『悪評』…花沢の専務は女なら誰でも構わず腰を振る外道だ、と。
女を女と思わず、ただ欲望の対象にしか見ていない、と書かれた文字の裏に、類の辛く苦しい事情があったことを知る。

「心から好きで、抱きたいって思ったのは今までに1人しかいないんだ」

「え…その人とは?」

「怖くて、手が出せない。
 嫌われたくないし…とても大事な人だから」

「で、でもっ!
 その人だって、きっと花沢さんのこと、大事に想ってくれてると思うっ!」

「そうなのかな…でも、そうだったらいいな…」

儚げに微笑む類が綺麗で、思わず見惚れてしまう。
類がそこまで想う女性に嫉妬はすれど、類を憎いとは思わない。
好きだから、幸せになってほしい。
そうさせるのが自分じゃなくても、類が幸せならそれでいい。

「今年は間に合わないって言ってたけど、まだ時間あるよ?
 諦めるのはまだ早いんじゃない?」

類を励ますように、つくしは笑ってみせる。
そんなつくしに、類はフッと笑みを向けた。

「いいんだ、もう今年は諦めて準備もしたし。
 さっき、この部屋に何もなくてもったいないって言ったでしょ?
 普段はもうちょっと置いてあるんだけど、その日に備えて片付けたんだよ。
 当日はこのベッドとテレビも外に出して、本当に何も無くなるんだ」

「で、でもっ…」

「ありがとう、牧野さん。
 気持ちは嬉しいけどね、こればっかりは急ぎたくないんだ」

ー 急いで、あんたを失うことだけはしたくない。


たった1人の相手が自分だと判れば、その身を差し出してくるかもしれない。
けれど、そのためだけに抱くことは二度としたくなかった。
あきらも言うように、来年はシャイムーンイヤーだ。
今年のその1日さえ耐えれば、ゆっくりとつくしとの関係も深めていける。
つくしがそうなることを望んだタイミングで、身も心も繋ぎたい。
そう思えば、あの苦痛な1日も耐えられる。


納得しかねるといった表情で見つめるつくしの頭に手を置き、ポンポンと軽く叩く。

ー ありがとう…あんたを好きになってよかった。

類の瞳に再び優しい色が戻る。
そのことにつくしが気付くことはなく、相変わらず類に諦めないで、と言い募る。
そんなつくしを類は愛しそうに見つめた。


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4 Comments

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2016/11/04 (Fri) 07:59 | EDIT | REPLY |   

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2016/11/04 (Fri) 08:04 | EDIT | REPLY |   

聖  

オレ***ワー様

コメント、ありがとうございます♪
楽しみにしていただけて、本当に嬉しいです(*^-^*)

切なさと悲しみが似合う男…確かに仰る通り!
でも、絶対に幸せも似合う男なんですよっ!(笑)
なので、ハピエンは外せません♡

記念SSにこの長さはいかがなものかとは思いますが、もうしばらく続きます(笑)
ぜひ類とつくしの幸せを見届けてあげてくださいね♪

ありがとうございました(´▽`*)

2016/11/04 (Fri) 14:00 | EDIT | REPLY |   

聖  

3**母様

こんにちは~♪

類を男前に仕上げるのが私の使命かとっ!(違
今回は王子様ではありませんが、そうじゃない類もいいですよね~♡
類とつくしの想いが通じ合える日をお楽しみに~(*^-^*)

ありがとうございました♪

2016/11/04 (Fri) 14:06 | EDIT | REPLY |   

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