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Be with you...《Cap.162》

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車から現れた長身の美男子に、晴男と千恵子は目を奪われる。

「あら…いい男…」

「は、なざわ、さん…」

「…え?」

その男性の少し後ろに、小さな赤ん坊を抱いた女性が姿を見せると、二人は言葉を失くしたように立ち竦んだ。



「お義父さん、ご無沙汰しております。
 お義母さん、ご挨拶が遅れまして申し訳ありません」

柔和な笑みを浮かべ、軽く会釈をすると、その隣の女性に視線を移す。

「…パパ……ママ…」

「…つくし…あんた…」

驚きと歓びの混じった瞳が潤む。
それに気付いたつくしが不安げに類を見上げると、類は柔らかい表情で小さく頷き、気持ちを後押しするようにその背に触れた。
背中に感じる温もりに勇気をもらい、千恵子を見つめる。

「…ママ、この人が花沢類…あたしの旦那さん、だよ。
 去年の8月に、あたし、『花沢つくし』になったんだ。
 報告が遅くて…ごめんなさい…」

「……っ」

千恵子は零れる涙をエプロンの裾で拭いながら、ただただ首を横に振った。

「それと、ね…この子、梨良っていうの。
 類とあたしの子…ママの孫だよ」

つくしの優しい眼差しに梨良は機嫌よく笑う。
その様子を、晴男は懐かしい思いで見つめた。

「ママ…つくしの小さい頃にそっくりだね」

「ほんとに…笑い方もそっくりね」

「うんうん…つくしによく似た可愛い子じゃないか…」

「そうね…」

幼かった我が子の成長に、涙が止まらない。
娘が自分で選んだ幸せを心から祝福してやりたいと思う。
が、その前に言わなければならない言葉を思い出す。


千恵子は溢れる涙を必死に堪え、類とつくしに深々と頭を下げた。

「花沢さん、ご挨拶にも伺わず、本当に申し訳ありません。
 つくしにも…辛い思いをさせてごめんね…」

「ママ…」

「つくしがちゃんと考えて決めたんだろうに…それをあんな言い方して…。
 花沢さんにも本当に申し訳なくて…」

「気にしないでください。
 あの頃の状況ではしかたなかったんだと思ってますから。
 けど、花沢にとってつくしは大切な存在なんです。
 つくしも梨良も、俺が絶対に幸せにしますから」

「ママ、あたし、今すっごい幸せだよ。
 類と結婚して、ほんとによかったって思ってる。
 あたしね、あの時のママの言葉はもう忘れるから。
 だから、ママももう気にしないで?」

小さな蟠りが嘘のように消えていく。
あの時の言葉を許そうと思えたのは類がいてくれたから。
そして、同じく娘を持つ母になった今、あの言葉の裏に隠された思いにも気付くことができた。
これからは梨良の成長を共に喜べる。
それが何より嬉しかった。

「つくし…遅くなったけど、結婚おめでとう。
 出産も、よくがんばったね。
 あたしたちは何もしてやれなかったけど、いつだってあんたの幸せを祈ってたよ」

やっと聞くことのできた、一番欲しかった『おめでとう』の言葉に、つくしの目にも涙が浮かぶ。
そんなつくしの頭を撫でる、優しい大きな手。

ー よかったね。

そう言われている気がして、胸が温かくなった。

「…ありがと。
 ねぇママ、梨良のこと、抱っこしてあげて。
 …梨良、おばあちゃんに抱っこしてもらおうね」

そっと腕に収められた、小さな宝物。
それはずっと昔に感じた、愛しい重みを思い出させる。

「「可愛いねぇ…」」

腕の中できょとんと不思議そうに見つめる瞳に笑みを向ける。
すっかり目尻の下がった晴男と千恵子を、類とつくしは微笑まし気に見つめた。

「今日、来てよかった…類、ありがとね」

「どういたしまして」

爽やかな夏空に梨良の楽しそうな笑い声が響いた。




久しぶりの団らんに、話は尽きない。
以前の、賑やかな牧野家の食卓が再現されたようなひと時に、梨良も嬉しそうに声を上げる。
吉松の本館に勤める進も帰宅し、姉との再会を喜んだ。

これが本来の牧野家。
花沢にはない賑やかさと温かさ。
それらがあって、今のつくしがいるのだと類は実感した。

「ごめんね、うるさくて」

「いいじゃん、楽しくて。
 梨良も喜んでる」

梨良の一挙一動に、小躍りしながら嬉しそうに笑う晴男。
そんな晴男が可笑しくて、つくしも千恵子も声を上げて笑った。
進と類は酒を酌み交わしながら、賑やかな3人を微笑ましく見つめた。

「花沢さん…姉ちゃんのこと、ありがとうございます」

「うん。今度は3人で東京に遊びにおいで。
 うちの両親も、つくしの家族に会いたがってたから」

「あー…そうですよね。
 休みが取れたら、ぜひ」

「ん。待ってる」

また一歩。
つくしの幸せに近付けた気がして。
類は心から笑うつくしを、愛しそうに見つめた。



すっかり祖父母に懐いた孫が可愛くてしかたないのか、一向に離そうとしない。
つくしとしては久々にゆっくり食事ができて嬉しいのだが、そうとばかりは言ってられない。

「ママ、そろそろミルクの時間だから。
 梨良、ご飯の時間だよ~」

「あら、もうそんな時間?」

「今は4時間おきくらいかな。
 あんまり愚図ることがないから、ある程度時間を決めてるんだ」

「そう…梨良ちゃん、ご飯終わったらまた遊ぼうねぇ~」

寂しそうな千恵子の声を背に、類と3人で宿泊用の部屋へと下がった。





寝る前の授乳を済ませると、梨良はウトウトし始める。
そんな頃合いを見計らったように、千恵子がつくしたちの部屋を訪ねてきた。

「梨良ちゃんは寝たの?」

「うん、もう寝そう」

「あんたたちは温泉入ったの?」

「梨良が寝たら交代で入るよ」

「そう…何なら今夜はこっちで預かるわよ?
 せっかくの温泉なんだし、ゆっくり入んなさいよ。
 ここのお湯、とっても気持ちいいから!」

「え?でも…」

「夜泣きしないなら大丈夫でしょ。
 こんな機会めったにないから、一緒に寝たいし」

「うーん…類、どうする?」

困惑気味に類を見上げると、類も少し困ったように笑っていた。
けれど、次にいつ会えるともわからない孫を思う千恵子の気持ちもわからなくはない。

「んー、せっかくだし、お願いしようか。
 夜中に泣いてダメなら迎えに行けばいいし」

誰に似たのか、一度寝てしまえば5、6時間は起きることはない。
夜泣きや愚図ることもそうそうないので、そういう意味での不安はなかった。

「じゃあ、お願いしちゃおっかな。
 もし愚図ったら起こしてね」

「はいはい…梨良ちゃん、今日はおばあちゃんと一緒に寝ましょうね~」

すっかり寝入ってしまった梨良は千恵子に抱っこされても起きる気配はない。
『じゃあね』と目配せをすると、千恵子は部屋を後にした。


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