2017.03/28(Tue)

Tranquilizer 5


静寂に氷の涼やかな音だけが響く。
それだけで、不思議と心が凪いでいく気がした。
どれくらいそうしていたのかわからないが、指先の冷たさにそれなりの時間が経過していることはわかる。

一口だけ、グラスに口を付ける。
十分に氷で薄まったはずなのに、度数の高い酒は喉に沁みる。
舐める程度で飲むのを止め、再び氷を弄りながらつくしは苦笑を漏らした。

「あたしにはやっぱり強すぎ…」

「いいよ、無理に飲まなくて。
 それに…無理に笑わなくてもいいから」

「……」

「それと…」

類はグラスを置くと、つくしへとゆっくりと歩み寄る。



「フランスも…親父の所にも、行かなくていい」



類の言葉に、つくしの動きが止まる。

「あんたのそんな顔、見たくない」

すぐそばにその気配を感じるのに、つくしは類を見ることができない。
けれど、類はその視界に入るように膝を付き、つくしの手に触れた。

「あんたの、笑った顔が見たい。
 俺、笑ってるあんたが…好き、なんだ」

「え…」

一瞬、何を言われたのか理解できず、思わず類を見つめる。
その瞳は真っ直ぐつくしを見つめ、その想いに偽りがないことを切に訴えかける。

「俺…この2ヶ月、あんたと一緒にいて、生まれて初めて幸せだって思った。
 一緒に酒飲んで、くだらないことで笑って、さ。
 何も話さなくても、ここで一緒に過ごせるだけで満足だった…けど」

想いを込めて、触れていた手をギュッと握りしめる。
そこから想いを伝えるように。

「今のあんた見て、思ったんだ。
 …あんたを親父の元に行かせたくない。
 2ヶ月かけて、やっとあんたらしく笑えるようになったのに。
 あんなたった一言で元に戻っちゃうんじゃ、親父の所になんて行かせられるわけがないだろ」

痛いほどに真っ直ぐな瞳。
それだけで類がどれだけつくしを本気で愛しているのかがわかる。
わかるからこそ…その想いに応えられない、自分の弱さが嫌になる。

「でも…あたしは…」

「わかってる。
 あんたは親父の妻で、俺の継母だ。
 でも、ごめん…俺、あんたを『女』として見てる」

継母だなんて一瞬たりとも思ったことはない。
こうして二人きりでいることが、どれだけ幸せで、どれだけ残酷だったことか。
無防備に笑うつくしに、触れたい気持ちを抑えることがこんなに辛いとは。
今、握りしめているこの手でさえ、愛しくてしかたない。

「専務…」

「ここにいる俺は『専務』じゃない…『類』って呼んでって何度も言ったよね?
 どうして名前を呼んでくれないの?」

「それは…」

その名を呼んでしまったら、胸の奥底に蓋をした想いが溢れてしまいそうで。
けれど、それだけは絶対に避けなければならない。

ー あたしは…この人の父親の妻、なんだから…

その蓋に何重もの厳重な鍵をかけるように、自分に言い聞かせる。
決して口にしてはならない…類のことが好きだなんて。

「俺、自惚れてたのかな…あんたは俺のこと、好きなんだって思っ…」




「ダメっ!」




咄嗟に吐いて出た言葉に、類の視線が厳しくなる。
その心の中まで射貫くように、つくしをじっと見つめた。

「何が『ダメ』なの?」

ゆっくりと、でも確実に、その心の鍵を外していく。

「それ以上言わないで…お願い、だから」

類の視線から逃げるように顔を背けた。


言わないで。
見ないで。
これ以上、心に入り込んでこないで…。


きつく瞑った眼から、涙が零れる。
頬を伝い、流れ落ちた雫が月明りを受けてキラリと光を放つ。


まるで宝石のようだと思った。


今までに見たことがないくらい、綺麗な涙。
自惚れではなく、確実に、自分への想いを感じ取る。
その想いが涙となって零れ落ちているのが解り、より愛しさが増した。

「言いたくないのなら、言わなくていいよ。
 でもね、そのせいであんたの心が潰れていくのを、俺は見てられない。
 だから、傍にいさせて?
 そしたら、俺があんたの心を守るから」

「あ、たしの…心?」

「そう。
 あんたがあんたらしく笑えるように、俺が支える。
 …ダメ、かな?」

少し不安気な瞳が、その許しを請うようにつくしを見つめる。
再び訪れた静寂に、カランと氷の音だけが響いた。


暫くの逡巡の後、つくしは意を決し、その重い口を開いた。

「…嬉しい、けど…怖い」

「怖い?何が?」

つくしが恐れていることは、ただ1つ。
この気持ちを吐露してしまうこと。
目の前の見目麗しいこの男と、愛し愛される関係になれたらどれだけ幸せかなんて、考えなくてもわかる。
けれど、それは夫を裏切ること。
そして、類にも父親を裏切らせることになる。
いくら類がいいと言っても、自分がそれを許せない。

再び押し黙ってしまったつくしに、類はフッと笑みを向ける。
その意味を理解したかのように。

「もうさ、我慢するの、やめたら?
 そうやって気持ち押し殺すの、あんたの悪い癖だよ。
 俺といる時は何も考えずに素直になんなよ。
 …親父のことも、忘れて、さ」

「え…」

「素直に認めなよ…俺のこと、好きなんだ、って。
 そうじゃないと、いつまで経っても同じことの繰り返しだよ?」

「…や、めて」

それ以上、言わないで。
心の蓋を、抉じ開けないで…。

「やめない…あんたがちゃんと自分の気持ち言うまで、やめてやらない」

類の手が、つくしの頬に触れる。
少し冷たくて、大きな手の感触。
振り払わなければ、と思うのに、手も体も凍り付いたように動かない。
その瞳を見つめてはいけない…けれど、目を逸らすこともできず、類の視線から逃げるように目を閉じた。

「好きって、言いなよ…」

言葉を紡ぐ、その唇がそっとつくしの額に触れる。
優しく、慈しむようなキスに、類の愛情を感じ、つくしの目からは自然と涙が零れた。
それを拭うように、瞼、目尻、頬へとキスを降らしていく。
触れるたびに鼓動が跳ね上がるのを感じながら、これ以上ないくらいに想いを込めて唇を塞いだ。

「好きだよ…つくし」

僅かに唇を離し、小さく囁く。
この声はつくしにだけ届けばいい。

「つくしがちゃんと自分の気持ち言うまで、ずっとキス、するからね?」

言い終わると同時に、再び唇が重なった。


☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆


皆さまからのコメントや拍手、本当にありがとうございます♪

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ






関連記事

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

06:00  |  Tranquilizer  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 | 2017.03.28(火) 23:23 |  | コメント編集

●ず*様

こんばんは~☆彡

あらら…大丈夫ですか?(笑)
何か、キャラ崩壊してますけど?(^▽^;)

ちょっとキザすぎましたかね?
ま、王子なんでそこはお許しを(笑)
ほんと、私も類に言われたい!♡
言われたら、速攻で好きって言っちゃうよね!(笑)

暴走するほどキュンキュンしてもらえてよかった( *´艸`)
しばらくこんな感じで突っ走ります!
よかったらまたお越しくださいね♪

ありがとうございました(´▽`*)♪
聖 | 2017.03.29(水) 00:20 | URL | コメント編集

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

 | BLOGTOP |