2017.04/03(Mon)

Tranquilizer 11


事は一刻を争う。

早くしなければ。
やっと手にした幸せを、引き裂かれる前に。


類はその場で孝へと電話を掛ける。
傍らにつくしを抱き締めながら。


『…どうした?』

僅かに砕けた口調。
身内にしか見せないその様に妙な余裕を感じ、類を苛立たせた。

「辞令の件だけど」

『あぁ、そのことか。急なことで驚かせたね』

「どういうこと?この前はそんなこと言ってなかったじゃん。
 それとも、つくしを盗られたくないから、俺たちを離れさせようって魂胆?」

暫しの沈黙。

『…俺たち?』

「惚けないで…俺とつくしだよ。
 そんなにつくしが大事?でも、悪いけど…」

『…そこにつくしはいるかい?』


孝の声が聞こえたのか、不安そうにつくしの瞳が揺れる。
類は腕の中の愛しい彼女へと携帯を渡しながらやんわりと抱き寄せ、『大丈夫だよ』と微笑んだ。



「…代わりました、つくしです」

緊張で表情が強張る。
それが声にも表れていたようで、電話の向こうから小さく笑う声が聞こえた。

『そんなに怖がらなくていい。
 体調はどうだい?無理はしてないかい?』

「ありがとうございます。
 おかげで、ゆっくりさせてもらえました。
 ですので、近々…」

『申し訳ない…時間がないので、単刀直入に聞こう。
 君は類のことをどう思っているのかな?』

「え…」

『先日、類の気持ちは聞かせてもらった。
 だが、私としては類が何と言おうと、つくしを手離すつもりはないんだ。
 私も、君のことを愛しているからね』

穏やかで、優しい声音。
いつもと変わらないその声が、今はひどく胸を締め付ける。

『ただ…私は類の父親だ。
 類のことも、君と同じくらい、愛している。
 だから類には幸せになってもらいたい…それは先立った類の母の願いでもあるからね」

「はい…それはあたしも同じ気持ちです」

『では、聞かせてくれないか?
 類が幸せになるために、私たちにできることは何なのか』


言ってもいいのだろうか。
類を、誰よりも愛していると。
自分がずっと傍で支えることが、彼の幸せに繋がるのだと。


『…大丈夫だ。どんな言葉でも、私は受け止める。
 それが類と…君が幸せになれる唯一の道なんだろう?』

その言葉で、質問の意味を理解する。
この人は全てを承知の上で、聞いているのだと。


つくしは類を見上げ、フワリと微笑みながら、その腕を抜け出す。
足元に脱ぎ散らかした類のシャツを羽織ると、途端に類の香りがつくしを包んだ。


ー 大丈夫…きっと、わかってもらえる…


ゆったりとした足取りで窓辺に立ち、漆黒に染まった夜空を見つめながら、つくしは静かに口を開いた。

「少し…お時間をいただいても?」

『あぁ、かまわんよ』

「ありがとうございます。

 孝さんの妻として過ごしたこの5年は、とても幸せでした。
 …けど、離れてみて、思い出したんです。
 心の中に棲む、この想いに」

孝は何も言わず、ただ話を聞いていた。
怒ることも、呆れるでもなく、静かに。
これがつくしの本心なのだと、わかるから。


「類と一緒に過ごしたこの3ヶ月は、とても穏やかな時間でした。
 社長秘書でもなく、社長夫人でもない…ありのままの自分でいられた気がします。
 それが孝さんの気持ちを裏切っているのはわかっていました。

 わかっているんです…孝さんを傍で支えなければいけない、それがあたしのやるべきことなんだって。
 けど…今のあたしは…類の支えになりたいと…」


込み上げる想いで、語尾が詰まる。
きちんと気持ちを伝えなければ、と思うのに、口を開いたら涙が零れてしまいそうで。


けれど、言わなければ。

前に進むために。

類と歩く、未来のために…。




「あたし、は…類を、愛してます…」




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