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現実

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Category波の悪戯

目を開けると、すっかり日は暮れていた。
薄暗がりの部屋に人の気配はなくて、僅かに類の残り香が漂っている。

「ここ…類の部屋?」

ゆっくりと起き上がって、ヘッドレストにある照明のスイッチを押せば、柔らかな間接照明が部屋を照らした。

「う、わ…何この部屋…」

今いるのはおそらくベッドルーム。
そこだけでも、優にあたしのアパートの部屋くらいの広さがある。
ベッドルームを出て、隣に続くリビングスペースへと行ってみれば、そこは更に広い。
置いてあるソファやテーブルには気品があり、その脇には小さいがバーカウンターまである。
もちろん、バスルームはユニットなんかじゃなく、トイレも完全に独立したスペース。
そこかしこに置かれている小物ですら、安物にはない輝きを放っていた。

「もしかして、ここってスイートルームとか、そんな部屋?」

窓辺に立ち、恐る恐るその扉を開ければそこには広々としたバルコニーで、おしゃれなカフェテーブルと椅子が設えられている。
吹き付ける温かな風には潮の香りがして、遠くに波の打ち寄せる音が聞こえた。

「す、っごい…こんな部屋、初めて…」

バルコニーの手摺に凭れ掛かり、波の音に耳を傾ける。
そして、冷静になった頭が、この状況を理解し始めた。

たぶん、ここは類の泊まっているホテルの部屋。
いわゆる『スイートルーム』で、一泊ン十万とかするんだろう。
そんな部屋に泊まれるってことは、類はいい家の人間に違いない。
なら、類自身に感じた華やかさにも納得がいく。

「なんだ…そういうことか…」

類はあたしとは真逆な世界に生きる人。
普段は煌びやかな女性に囲まれてて、たまたま見つけたあたしがちょっと新鮮に見えただけ。

「ハァ…」

類と過ごした時間は僅かだったけど、楽しかった。
ボディボードなんて初めてだったけど、類がいなかったらあんなに楽しいものだって知らなかったと思う。
初めてのキスは、ちょっとしょっぱくて。
ドキドキしたし、息苦しかったけど、すっごく幸せな時間だったな。

けど、それは全部、幻。

現実に立ち返ってみれば、類とあたしは住む世界が違う。
それを類は知らないし、知ったら幻滅されるに決まってる。

そう…これは真夏の海が見せた、白昼夢なんだ。

もう夢の時間は終わり。
シンデレラにはガラスの靴があったけど、あたしには何もない。
かぼちゃの馬車も、ネズミの御者も…魔法使いのおばあさんだって、あたしの前には現れないんだから。

「はは…いい夢、見ちゃったな…」

現実に戻る足はひどく重く感じるけど、あたしはここにいるべき人間じゃない。
だから、帰ろう…あたしは、あたしの生きる世界に。

「バイバイ…類。」

ありがとうも、ごめんも、さよならも言わずに、あたしは帰るね。
類が見せてくれた素敵な夢はずっと忘れないよ。


パタンと静かにドアを閉め、人目のない方へと足を向けた。
悪いことをしたわけじゃないけど、今は誰にも会いたくなかったから。
『Staff Only』と書かれたドアを開ければ、下へと向かう階段が見える。
あたしは迷わずその階段を降り、誰に会うこともなくそのホテルを後にした。




俺の腕に抱かれたまま、スヤスヤと眠るつくしに笑みが零れる。
その寝息が首筋にかかり、くすぐったいようなドキドキを感じていた。

「え?つくし、寝ちゃったの?」

総二郎が連れている女が、呆れたような顔を向ける。

「先輩、かなりはしゃいでましたから、お疲れになったんでしょう。」
「でも、この状況でよく寝れるよね…」
「まぁ、それだけ安心感があるということなんでしょう。」

あきらの連れも半ば呆れ顔だが、俺にとっては役得としか言いようがない。
このまま部屋に連れて行って、そのまま…なんて、考えてた。


つくしをベッドに寝かせてから、シャワーを浴びた。
久々に海に入ったせいで、体がベト付いて気持ち悪い。
つくしが起きてれば一緒に入れたのにな…ちょっと残念。
でも、あんな可愛い寝顔、起こすのはもったいないよね。

シャワーから出ると、テーブルに置いていたスマホが光る。
相手は、司。
無視しようとも思ったけど、出るまで何度もかけてくるだろう。
その音でつくしが起きるなんて、イヤすぎる。

「…何?」

つくしの安眠を妨げないよう、バルコニーに出る。
目の前に広がる水平線が薄紫に染まり、その境界はぼんやりとしていた。

『類、メシにしよーぜ!』
「ん…でも、まだ起きないから…」
『おい、お前…朝から何も食ってねぇだろ?
 これから体力使うんだから、今のうちに食っとけよ!』
「でも…」

いつ目覚めるかもわからないのに、ここに一人にするのは…と思ってたら。

『ダチの話じゃ、あいつは一回寝たらしばらく起きねぇんだと。
 だから、今がチャンスなんだよ。
 ちゃっちゃと食って、さっさと戻ればいいだろ?』

最早、これ以上何を言ってもムダな気がする。
司って、そういうヤツだから。

「…わかったよ。」
『おう!じゃあ、待ってっからな!』

あまり気乗りはしないけど、ほんとあいつ五月蠅いから。
ハァ、と溜息を吐いて、眠るつくしの元へと戻る。
相変わらず可愛い寝顔で、時々ムニャムニャなんて声も出す。

ずっと見ていたいな。

暫くその顔を眺めてたら、ポケットに入れてたスマホがまた震えた。
行きたくはないけど、行かないと五月蠅いし。

「つくし?」

一応起こしてみたけど、やっぱり起きなくて。
しかたなくメモにペンを走らせる。

『起きたら、ここに連絡して。』

俺の電話番号を書き添え、ベッドサイドのテーブルに置く。
そして、眠るつくしの唇に小さくキスを落として、俺は部屋を出た。

…それが最後のキスになるなんて、思いもしないで。


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2 Comments

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2018/09/17 (Mon) 00:05 | EDIT | REPLY |   
聖

聖  

ま**ん様

こんばんは(*^-^*)

やはり、そうなりました(笑)
今回は御曹司設定を明確にはしていなかったのですが、やはりF4となればこの設定は外せませんでした。
そして、つくしの庶民設定も。

出会いはナンパでしたが、類にとっては純粋につくしに惹かれただけですからね。
何とかつくしを捕まえたいでしょうね。
さて、つくしはどこまで逃げられるでしょう?(笑)

もう少しお話は続きます。
この先も楽しく読み進めていただけたら嬉しいです。

コメントありがとうございました(´▽`*)♪

2018/09/17 (Mon) 22:55 | EDIT | REPLY |   

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