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背中を押す言葉

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Category波の悪戯

優紀からの着信に、思わず『あっ!』と声が漏れた。
いくら冷静さを欠いていたとはいえ、何も言わずに帰ってきてしまったのだ。
あたしの不在に気付いた類が優紀に連絡を取るように頼んでも不思議じゃない。
一瞬、居留守を使ってしまおうかと頭を過るが、それじゃダメだと思い直し、恐る恐る通話ボタンを押した。

『あっ!出た!
 つくし、今どこ?』

…やっぱり、そうだよね。
わかってたことだけど、いざとなると何と言い訳をしていいのか思いつかない。

「あー、ごめん…」
『よかった、無事で。
 急にいなくなったら心配するじゃん!』
「うん…あの…」

類が怒ってるんじゃないかと不安になって、口籠る、と。

『何があったのか知らないけど、黙って帰るのはよくないよ。
 花沢さん、何か嫌がることをしたんじゃないかって、すごく心配してるよ?』
「…え?」
『ねぇ、つくし…何かあった?
 嫌なことされたとか…』
「ち、違うよっ!類は何も…」
『だったら、どうして?
 花沢さん、すっごくつくしのこと、大事にしてくれてたじゃん。
 寝てるつくしを心配して、食事もそこそこで部屋に戻ったんだよ?
 なのに、部屋につくしがいなくて、すっごい慌ててて…』

…そうだったんだ。
あの時、あたしは自分のことしか考えてなくて。
類の気持ちなんて、これっぽっちも考えてなかった。

「…あたし、何か…怖くなっちゃって。」
『…何を?』
「類が泊まってた部屋、すっごい豪華でさ。
 あたしなんかには贅沢すぎるくらい。
 そんな類に、あたしは釣り合わないんじゃないかって思ったら、怖くなった。
 類のことは好きだけど…どんなに好きでも、ずっと一緒にはいられない。
 でも、顔見たら離れられない気がして…だから、あたし…」
『そっか。その気持ちはわからないでもないよ。
 実際、私もびっくりしたし。
 私、ロイヤルスイートなんて、初めて入ったよ。』
「…ロイヤルスイート、だったんだ…」
『そんな部屋に泊まれるなんて、たぶんすっごいお金持ちの家なんだろうね。
 だから、つくしがビビっちゃったのはわかるよ。
 でもさ、恋愛って、そういうの、関係なくない?』
「でも…」
『そりゃ、結婚ってなれば、話は別だけどさ。
 今はまだ出会ったばっかだよ?
 相手のことをよく知りもしないで、勝手に自己完結しちゃうのは相手に対して失礼だよ。
 それに、つくしの気持ちは?
 そんな簡単に諦められる程度のもんだったの?』

その言葉に、ハッとする。
好きになっちゃいけないって思ってるのに、類のことばっかり考えてた。
忘れなきゃって思えば思うほど、類の存在が大きくなってる。
けど、それは一時の感情で、時間が経てばいつか忘れられると思ってた。
今はまだ無理でも、いつかは…。

「そんなこと、ない…でも、忘れなきゃ…」
『たぶん、それは無理だと思う。
 それだけすごい出会いだったんだから。
 つくしは花沢さん以上に好きな人はできないと思うよ?』
「そんなの…」
『…いい加減諦めて、素直になりなよ。
 好きなんでしょ?花沢さんのこと。
 だったら、それでいいじゃん。
 うちら、まだ若いんだしさ、これもいい経験だと思って、楽しめばいいんだよ。
 先のことは、その時また考えればいいじゃん!』

あたしが類から逃げたのは、この先に待つ『別れ』を恐れたから。
ずっと一緒にいられないのなら、未来に期待する前に忘れるべきだと思った。
傷付きたくなかった。
類の傷付いた顔を見たくなかった。
けど、それは全部あたしの保身だ。


『最初から諦めて二の足を踏むくらいなら、ダメ元で行ってみろ!』

豪快に笑う、おじさんの顔。

『新しいことへの挑戦や多くの出会いに躊躇するなんてもったいないんだからね。』

優しく微笑む、おばさんの瞳。

そして…

『つくし…好きだよ。』

類の優しい囁きと、抱きしめる腕の強さ。


優紀が言うように、類はあたしをとても大事にしてくれてた。
マジになっちゃダメだと何度も言い聞かせたのに、どんどん類を好きになってた。
止まらない想いに、類と歩む未来を期待してしまった。

でも、垣間見えた現実があたしの心に急ブレーキをかけた。
類とは住む世界が違うんだから、これ以上好きになっちゃダメだと。
…忘れなきゃダメだ、と。


「優紀…あたし、どうしたらいいのか、わかんないよ…」

本当に、どうしていいのか、わからない。
好きな気持ちに嘘はないけど、想い続けるのが正解なのか、わからない。

『つくし…恋愛に正解とか、ないから。
 相手を想って身を引くのも間違いじゃない。
 でも、それはつくしにとっても、花沢さんにとっても、辛いことだよね。
 だったらさ、好きな気持ちも、今ある不安も、全部ぶつけちゃいなよ。
 もしそれを受け止められないようなら、それまでの男だったってことでしょ。
 そんな男、つくしには合わない。
 こっちから願い下げだ!って、フっちゃいな!』
「優紀…」
『つくしの良いところは、バカみたいに素直なとこでしょ?
 ごちゃごちゃ考えてても結論出ないし、真正面からぶつかってみなよ。
 玉砕覚悟で、さ。』
「バカみたいに、って、ひどくない?
 あたしだって、そんなお気楽に生きてるわけじゃ…」

俯き加減だった視線をフッと上げたのは、ごくごく自然なことだった。
足元を見つめるのは、今ある自分を見つめるためだと、おじさんは言った。
自分の立ち位置を理解して、どうしたいのか心が決まれば、自ずと前を向く。
その時に見えた景色は、きっと…。

「あ…」
『行っておいで。
 …待ってるからね。』

優紀の声が、あたしの背中を押す。
走り出した心は、もう止めることなんてできない。

「つくしっ!」
「…る、い…っ!」

その胸に飛び込むことに、何の躊躇いもなかった。
苦しいくらいにきつく抱きしめられても、やっぱりここは居心地がいい。


類の腕の中が、今、あたしが居たい場所。
そこに戻れたことが、何より嬉しかった。


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2 Comments

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2018/09/21 (Fri) 20:57 | EDIT | REPLY |   
聖

聖  

て*る様

こんにちは(*^-^*)

ですね。
とりあえず、一安心、かな?

その歌、特段思い入れがあるわけじゃないのに、なぜか泣ける。
不思議だな…。

コメントありがとうございました(´▽`*)♪

2018/09/23 (Sun) 16:09 | EDIT | REPLY |   

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