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友達

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Category波の悪戯

「ふふっ…あなたもいろいろ大変ね。」
「あ、はは…」

背中越しに聞こえる声は楽しそうで、邪気はない。
それに、久々に耳にした日本語はコロコロと鈴を転がすような、可愛い声。

「それにしても、つくしの肌はほんとに綺麗ね。」
「そ、そうかな…自分じゃよくわからないけど…」
「なのに類ったら、こんなに痕付けて…ひどい男ね!」
「え、っと…いや、それは…」

それは、まぁ、何というか…合意のもとの行為なんだけど。
まさか、類以外の誰かに見られるとは思ってもみなかったな…。

「ほんと、男って見境なくて困るわよね。
 つくしは病人なのよ?
 類はもっと理性的な人かと思ってたのに。」

フンフンと荒い鼻息とは裏腹に、背中を撫でる手は優しい。
あまりの気持ちよさに、一瞬寝てしまいそうになる。



そもそも、何でこんな状況になってるかというと。



『呼ぶまで誰も来ないで。』

類の人払いの伝言に、いち早く反応したのがパトリシアだった。

『ちょっと!類!何してんのよ!』

ドンドンとドアを叩く音に、驚いたのは類。
花沢の家なら、類が『来るな』と言えば、誰も近寄ってはこない。
けど、ここではそれが通じなかったみたいで。

「パトリシアだ…ごめん、つくし。」
「え…誰?」
「関の婚約者。」
「そ、そうなんだ…とりあえず、服着よっか…」

あたしもちょっとソノ気になりかけてたから、文句も言えない。
お互い苦笑いを浮かべながら身支度を整え、ドアを開けると。

「類っ!あなた、なんてひどい男なの!
 風邪で苦しんでる恋人を襲うなんて、信じられない!」
「襲うって…合意の上だけど?」
「合意しようが何だろうが、病気の恋人は労わるべきでしょう!」

すごい剣幕で類に食って掛かったのは、まるで絵本から飛び出してきたお人形のような女の子。
緩いウェーブのかかったブロンドが綺麗で、手足も長くて。
なのに、話す言葉がなぜか日本語で、その違和感が半端ない。

「ぷっ…」

思わず吹き出したあたしに、彼女は一瞬きょとんとした。

「つくし。彼女はパトリシア。
 さっきも言ったけど、関の婚約者だよ。」
「はじめまして、つくし。
 パトリシア・カトルメールよ。」
「牧野つくしです。
 すごい…美人さんですね。」
「ふふ、ありがとう。」
「俺にはもったいないって?」
「いや、そういうわけじゃないけど…何か意外だな、って。」
「何だよ、それ。」

少しムッとした関さんが可笑しくて、あたしとパトリシアさんはクスクスと笑った。
その笑顔も本当に綺麗で、関さんは果報者だな、なんて思った。

「パトリシアさんは日本語お上手なんですね。」
「パトリシアでいいわよ、つくし。
 うちの会社は日本の企業とも取引があるから、小さいうちから教え込まれててね。
 私の家族はみんな日本語が話せるのよ。」
「そうなんだ…何か、安心する。」
「そうそう!類から、あなたにフランス語の家庭教師を依頼されたの。」
「え?」

話の展開に戸惑って、類を見ると。

「いい案だと思わない?
 パトリシアなら日本語も話せるし、友達感覚で教えてもらえるだろ?」
「類もカズも仕事があるでしょう?
 その点、私は比較的時間に自由があるし、ゆっくり教えられるわ。」
「でも…ご迷惑なんじゃ…」
「ご迷惑だなんて、言わないで。
 友達が増えるのは嬉しいことよ。
 それに、日本人の友達はまだ少ないから大歓迎よ!」
「はぁ…」

グイっと身を乗り出し、あたしの手を掴んでニッコリと笑う。
けど、何ていうか…美人の迫力って、ちょっと怖い。
こういう感じは桜子っぽい、かな。

「どうする?
 無理にとは言わないけど。」
「え?あっ…ううん!
 パトリシアさえよければ…」
「きゃぁぁぁぁ!嬉しい!
 ありがとう、つくし!」

喜びのあまりギュッと抱きついてくる姿が、一瞬滋さんと被る。
けど、抱きつく力は滋さんより強かった。

「う、ぐっ…こ、こちらこそ、よろしく…」

やっとの思いで吐き出した声に、パトリシアはハッとなってその腕を解いた。

「ごめんなさい!つい嬉しくて!」
「いえ、大丈夫です。
 日本の友人に似た子がいて、ちょっと懐かしいな、って。」
「そうなの?」
「うん。類も会ったでしょ?海で。」
「あー…あの3人の。」
「うん。滋さんがこんな感じでね。」
「よく覚えてないけど…司といい感じだった子かな?」
「そうそう。道明寺さんと…」
「確かに、威勢のいい子だったね。」
「グイグイ来る感じは桜子っぽいなって思ったけど…」
「あぁ…それ、あきらの相手だよね。
 何となくわかる気がするな。」

類と二人、クスクスと笑いながら、あの夏の日に思いを馳せる。
たった数ヶ月前のことなのに、何だかとても懐かしい。
あの後、それぞれ忙しかったから全然会えてないんだよね。

「思い出したら会いたくなっちゃった。
 日本に帰ったら、連絡してみようかな。」
「いいんじゃない?
 みんな、きっと喜ぶよ。」
「うん。楽しみだな。」



その後、パトリシアのお兄さんのダニエルがやってきて、類に何か耳打ちをした。
一瞬、類の表情が鋭くなったのがわかって、何かあったのかな?と思ったら。

「少し仕事の話をしてくる。
 パトリシア、つくしのこと頼むね。」
「ええ。任せて。」
「すぐ戻るから、少しの間、パトリシアと一緒にいて。」
「うん…」

そう言い残して、類は関さんと3人で部屋を出て行った。
その時の顔を思い出すと、妙に胸がざわつく。

「仕事の話だって言ってたけど…」
「大丈夫よ。パパとダニエルが付いてるわ。
 それに、これは類がやらなきゃいけない仕事なの。」
「え…それって…」

用意してもらった着替えに袖を通し、ようやく人心地がつく。
けど、心の中のモヤモヤは深くなるばかりだ。

「つくし、体調が悪くないならむこうのソファでお茶にしましょ。
 何か食べられそうなら少し食べた方がいいわ。」
「うん…でも、今はお茶だけでいい、かな…」
「そう?何か好き嫌いはある?」
「ない、かな…」
「なら、ハーブティーなんてどう?
 特別にブレンドした、とっておきがあるの!」

フフッと笑った顔はやっぱり綺麗で、なのに何だかホッとして。

「パトリシアの笑顔はとても素敵ね。」
「そう?類はつくしの笑顔が一番素敵だって言ってたわよ?」
「そんなこと…」
「心配なのはわかるけど、類を信じて待ちましょ。
 つくしの笑顔が類のパワーの源なんだから、そんな顔はダメ。」
「あ…」
「それに、つくしにはやらないといけないことがあるでしょう?
 ぼんやりしてる時間なんてないのよ?」

パトリシアの言葉にハッとする。
…そうだった。
類が二人の未来のために戦っているのに、あたしだけぼんやりしてたらダメだ。
今一緒にいられないことを不安に思うより、共に歩む未来のためにやらなきゃいけないことは山のようにあるんだから。

「パトリシア!あたし…っ」
「ふふ…やっと目が覚めたみたいね。
 でも、今はお茶の時間よ。
 しっかり身も心も休めてから始めましょ。」

パトリシアの笑顔にドキンと胸が鳴る。
その笑みは綺麗だけど、それ以上に感じたのは強さ。
カトルメールの名に恥じない、芯の強さを彼女の中に感じる。

「…すごいね。」
「ん?何が?」
「いや…何ていうか、あたしより若いのにしっかりしてるなぁ、って。」
「え?そうなの?
 つくしって何歳?」
「あたしは、明後日で22歳になるよ。」
「なら、私の方が年上よ。
 今年25歳になったもの。」
「…え?」

嘘、でしょ?
フランス人って、もしかして童顔が多いの?
いや、でも、街中で見かけた人たちはそんな感じじゃなかったけど…。

「ぷっ…ふふふっ…つくしったら、その顔…」
「え?あ…ごめん!ちょっとびっくりして…」
「まぁ、そうね…確かに、年相応には見られないから。
 カズなんて、最初会った時、私のことを高校生だと思ってたくらいだし。」
「そうなの?」
「ええ。カズと初めて会った時、私は22歳だったんだけどね。
 あの時も、つくしと同じ反応だったわ。」
「そっかぁ…でも、ほんと、びっくりした。
 絶対年下だと思ってたから。」
「でも、フランス人から見たら、つくしの方こそ幼い感じよ?
 下手したら、中学生に間違われるかもね。」
「え…それは言い過ぎじゃない?」

あからさまに怪訝そうな顔をしたあたしに、パトリシアは尚もクスクスと笑う。
けど、その屈託のない笑みに嫌味なんてなくて、終いにはあたしもつられて笑ってしまった。

「ふふ…類の言った通り、つくしの笑顔は素敵ね。」
「んー、自分じゃよくわかんないけど。」
「いいのよ、それで。
 私たちが笑っていれば、きっといい結果をもたらすはずよ。」
「…そっか。」

何だかよくわからないけど、パトリシアの笑顔は確かにあたしに前を向く力をくれる。
だったら、信じてみよう。
あたしたちの笑顔が、類や関さんのパワーになるって。

「さぁ!そろそろ飲み頃よ。
 パトリシア特製ブレンドティーを召し上がれ!」
「ふふ…じゃ、遠慮なく。」

鼻孔を擽るハーブの香りに、フッと肩の力が抜ける。
教授の部屋で飲むお茶は日本茶か紅茶がほとんどで、ハーブティーはあまり飲み慣れていない。
けど、思ったほど苦味や渋さがなくて、ほんのり甘い感じが心地よく感じる。

「…美味しい。」
「でしょう?
 日本のお抹茶や紅茶もいいけど、私はハーブティーが一番好きなの。」
「そっか…今まであんまりハーブティーは飲んだことなかったなぁ。
 でも、美味しいお茶を飲むと、本当に幸せな気分になるね。」
「そうね、確かに。」

それからあたしとパトリシアは、時間の許す限りいろんな話をした。
パトリシアとは初対面のはずなのに、妙に意気投合してしまって。
あたしは自分が風邪を引いていることも忘れて、おしゃべりに夢中になった。

「つくし、これからも仲良くしてくれる?」
「もちろんっ!もっと、いろんな話しよう!」
「ふふっ、嬉しい。」

こうして、あたしとパトリシアは気心の知れた、仲のいい友達になった。


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2 Comments

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2019/01/24 (Thu) 21:51 | EDIT | REPLY |   
聖

聖  

mi***様

こんばんは(*^-^*)
お返事が遅くなり、申し訳ありません。

つくしとパトリシアはいい友達になれそうです。
類の不在を寂しいと思うより、今やるべきことに目を向けなきゃね。
そういう意味でも、パトリシアの存在は大きいと思います。

類もつくしもがんばれ!
でも、一番頑張らないといけないのは私ですね(笑)

コメントありがとうございました(´▽`*)♪

2019/01/29 (Tue) 02:03 | EDIT | REPLY |   

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