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Be together【続編】 ~幸せな結末~

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CategoryBe together

つくしを促して向かった先に、その足が止まる。
日常的に見慣れたその場所でも、この場に類と二人で立つのは些か羞恥が上回る。

「ちょ…類、ここ…」
「ん。まずはつくしに付いた匂い消さないと。」
「…へ?」
「抱きしめられたでしょ?あいつに。」
「あ…」

瞬間的に思い出した感触につくしの視線が足元へ落ちる。
不可抗力だったとはいえ、あの時感じたのは懐かしさ。
一瞬過った記憶がつくしの抵抗を遅らせたのも事実だった。

ホッとして、すっかり忘れてた。
…類が気付かないわけないのに。

他の男の匂いを纏って、抱きついてしまった。
責める口調ではないにしろ、面白いはずはない。
途端に襲った罪悪感に、浮き立った気持ちが奈落の底へと落とされる。

類を、傷付けた。

類の背に回っていた手から力が抜け、二人の間に僅かな距離が生まれる。
体を強張らせて黙り込んでしまったつくしに、類は小さく嘆息をもらした。

「こら、何て顔してんの。」
「類…あたし…」
「不可抗力でしょ?つくしが気にすることじゃない。
 それより行くよ、シャワー。」
「え…」

驚いて視線を上げると、離れかけた肩がしっかりと抱き込まれる。
それは力強いけれど、さっきのような恐怖は感じない。
むしろ、優しくて温かい、包み込むような力。

「ちょ、類…」
「別に、つくしを責める気なんて更々ない。
 けど、面白くないのは本当だから。」
「え…」
「だったら、俺がすることは一つ。
 さっさとそれを消して、俺と同じ匂いにするだけ。」

少々乱暴な力に引かれながら、付いていった先はバスルーム。
服も脱がせずにつくしをそこに連れ込むと、何も言わずにシャワーのコックを捻った。

「ひゃっ…!」

一瞬の冷水につくしが声を上げても、かまわず頭からシャワーをかける。
程無く適温に調節されたお湯がつくしの服を濡らし、足元を伝って流れていく。

「類っ!?ちょっ、服が…」
「…匂いが消えても、見たら思い出すでしょ。」

言うが早いか、類の手が濡れたブラウスの襟元へ。
そして。

ブチッ…

力任せに引っ張られたボタンが一つ、二つと床に飛ぶ。
唖然とするつくしを余所に、次々と剥ぎられていく服は無残な綻びを作って投げ捨てられた。
穏やかな表情とは裏腹な、その手に込められた力につくしは驚きを隠せない。

「る、類…」
「捨てるよ、全部。
 できることなら、記憶も全部消したいけどね。
 それは無理だから、上書き?
 思い出さなくなるまで抱くから、覚悟して。」

ゆるりと抱き寄せられた腕に、さっきまでの力は感じない。
それが何だか不思議な感じで、つくしはフッと笑う。

「あたしは今日のこと、忘れたくないな。」
「え…」
「だって、類のことがどれだけ好きなのか、わかったから。
 それに、類にすっごく愛されてるんだなぁって実感できたし。」
「つくし…」
「さっき、ちょっと不安になったのは類を傷付けたかな、って思ったからだよ。
 ごめんね、あたし全然気付かなくて…」
「…そっか。」

バスルームに立ち込めた不穏な空気が穏やかなものへと変わる。
類の胸に巣食っていたモヤモヤした気持ちも、つくしの笑顔一つで消えてしまった。

ほんと、つくしには敵わないな。

無自覚に周りを惹き付けるその魅力に、これからも気苦労は絶えないのだろうと思う。
でも、それが類の愛した女であり、そんなつくしの愛を享受できるのは類だけなのだ。
そのことを思い知ることができた今日という日を忘れる必要はないのかもしれない。

「そんなことより、類のスーツがダメになっちゃう!」
「いいよ、そんなの…」
「ダメっ!もったいないでしょ!」

慌ててジャケットのボタンに手をかけるつくしを止めることなく、その姿を見つめる。
いくらつくしが今日の出来事を肯定的に捉えていたとしても、司の存在を思い出させる物を置いておく気はない。
それはこのスーツも然り。
替えのスーツはいくらでもあるから、二度と着るつもりはない。
けれど、物を大事にするつくしが類のスーツを捨てるようなことはしないだろう。

ま、いっか。
明日、クリーニングに出すって言って持ち帰って、そのまま捨てればいいし。

ジャケットの前を開け、つくしの手がネクタイへと伸びる。
水気を含んだ生地に苦戦する姿に、知らずと頬が緩む、が。

「つくし、それ…」
「え?」

類の目に映ったのはつくしの手首に残る、赤黒い痕。
所々に濃淡があり、その少し上には小さな引っ掻き傷も見える。
つくしもその存在に気付いて咄嗟に手を引っ込めようとするが、それを類の手が制した。

「あのバカ力…思いっきり握りやがって…」

辛そうに顔を歪めながら、類の指が斑に変色した皮膚をそっと撫でる。
その刺激で手首に鈍い痛みが走り、つくしの顔が一瞬苦痛で歪む。

「痛む?」
「少しね。でも、あいつも無傷ってわけじゃないと思う。」

フッと小さく笑ったつくしは再び類へと手を伸ばす。
そして、ネクタイを外し、シャツのボタンを一つずつ丁寧に外していく。

「あの時…ほんと、怖かった。
 力もそうだけど、それよりもう類に会えないんじゃないかって方がずっと。
 だから、どうにかしてあの手を振り解きたくて…」
「つくし…」
「いっぱい叩いたし、引っ掻いたと思う。
 思いっきり背中殴ったし…あー、でも一発飛び蹴りしとけばよかったかな…」

フフっと笑うつくしの手が微かに震える。
抗えない力を感じてもなお、類に会いたい一心で諦めずに立ち向かった。
その強い気持ちを、この内出血が物語る。

「ごめん、遅くなって…」
「何で謝るのよ…類はちゃんと助けに来てくれたじゃない。
 それに、今こうして一緒にいられる。
 あたしはそれだけで十分幸せだよ。」

シャツの前を開け、露わになった胸元に添えた手を肩へと滑らせ、シャツを脱がせる。
水気を含んだジャケットはその重みで、バシャっと水音を立てて足元へと落ちた。

「あっ…早く乾かさないと!」

床に落ちた服へと伸ばした腕を阻んだのは、類の大きな手。
屈みかけたつくしの体を引き起こしてその腕の中へと囲い、しっかりと抱きしめる。

「…類?」
「……」

抱きしめたまま、類は何も言わない。
そんな類の様子につくしは内心で首を傾げる。

どうしたんだろう?
まだ何か不安に思うことがあるのかな。
もう匂いは残ってないと思うんだけど…

そんなことを考えながら、類の背中に腕を回し、そっと抱きしめ返す。

大丈夫…あたしはここにいるよ。

そう語りかけるように背中を撫でていると。

「…よかった。」

小さな呟きがつくしの耳元に落ち、消えていく。
普段、滅多なことでは弱みを見せない類の、弱々しい声。
が、急にトーンダウンした理由が思い当たらない。

「どうしたの?」
「…ごめん。」
「何で?そんなに謝らないといけないこと、してないじゃん。
 さっきのことだって、類は何も謝る必要ないでしょ。」
「…もう、つくしの中に司はいないってわかってるのに、それでも俺は…」

吐き出しかけた言葉を詰まらせ、腕に力を込める。
抱きしめられているのに、縋られているような、不思議な感覚。
でも、類がそう思ってしまうのも無理はない。
司に恋をしていたあの頃、二人の関係をずっと見守ってきたのは類だから。
いくら『もう終わった』と言っても、心の片隅の小さな不安を簡単に消すことなんてできはしない。

まぁ、そう思っちゃうのはしかたないけど。
でも何か類らしくないなぁ…

終わった恋に残っているのは思い出だけで、再会しても懐かしさしか感じなかった。
それは今ある恋が何よりも大切で、愛おしいから。
想うしかできなかったあの頃と違い、想いを返してもらえる喜びを知ってしまった。
それを今更手離すなんて、できるわけがない。

「…過去は、どうしたって変えられない。
 あの頃のあたしは、確かに道明寺のことが好きだった。
 今じゃ考えられないくらい必死だったし、無茶もいろいろした。
 辛いこともあったけど、楽しかった思い出もいっぱいある。」
「……」
「でもね、今はあの頃と比べものにならないくらい楽しいし、幸せだよ。
 今日あいつに会って、よくわかったんだ。
 どんなに強く抱きしめられても…何度好きだって言われても、全然嬉しくなかった。
 そうされればされるほど類に会いたくなった。
 早く、類に抱きしめてほしいって、そればっかり考えてた。」

ゆったりと胸の内を語る声が、類の心へとスッと染み込んでくる。

これがつくしの本当の気持ち。

そう、簡単に信じてしまえるほど、言葉の一つ一つが迷いなく、ただ真っ直ぐ類にだけ向けられている。
疑ったところで離せるわけもないのに。
司との過去は消せないし、それがあったから今のつくしがある。

わかってたつもりだったんだけどな…

微かに残る不安も、つくしを想うからこその感情。
だったら、警戒を緩めることなく、それ以上の想いをもって守っていくしかない。

触れ合う肌を更に密着させるように、ギュッと腕に力を込める。
濡れた布の感触すらも邪魔だと言わんばかりに、類はつくしの下着、そして自分のズボンへと手を掛けた。

「る、類っ?」
「濡れたままじゃ気持ち悪いでしょ。」
「そ、そうだけど…」

遮る物をすべて取り去り、再びギュッと抱きしめる。

「これで何にも邪魔されず、つくしを感じられる。」
「…ん。」

吸い寄せられるように重ねた唇から、類の中にあった小さな蟠りが消えていくのを感じる。

手離せないなら、離れられない関係にすればいい。

「ねぇ、つくし。」
「ん?」
「結婚しよ。」
「ん…んんっ?」

驚いて目を真ん丸にするつくしに、類はフッと優しい笑みを浮かべる。
それこそ、つくしの大好きな笑顔で。

「今すぐ…って言いたいとこだけど、いろいろ準備もあるしね。
 とりあえず、恋人から婚約者にしたいんだ。」
「だからって…今言う?」
「ずっと考えてはいたよ。両親とも話してたし。
 けど、今日のことがあって、あんまりのんびりしてられないなって思って。
 またいつ司が来るかわかんないじゃん…あいつ、諦め悪いし。
 だったら、俺は俺のやり方で、つくしを守るしかないから。」
「類…」

真っ直ぐにつくしを見つめる瞳は真剣で、本当に愛されているのだと感じる。
長い友人としての関係から恋人、そして夫婦へ。
これからどんな苦難が待っていても、この瞳だけは信じていきたい。

それがあたしの幸せなんだ。

「返事は?」
「…不束者ですが、よろしくお願いします。」
「よかった…」

安堵の息を耳元で感じながら、つくしも小さく微笑む。
数年前の司からの求婚は哀しい結末に終わった。
けれど、それがあったから今の幸せがあるのも確かな事実。
ならば、これからはこの幸せを類と一緒に形にしていきたい。

「あたしが類を幸せにしてあげるね。」
「ん。俺も、つくしを幸せにするよ。」
「ありがと…類。」

いろんな意味を込めて、ありがとう。
でも一番はやっぱり…。

「「愛してる…」」

これまでの全ての想いを込めて交わしたキスは、今までで一番幸せな温もりだった。


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2 Comments

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2019/11/04 (Mon) 15:28 | EDIT | REPLY |   
聖

聖  

ru***ki様

こんにちは(*^-^*)
お越しいただき、ありがとうございます!

ちょっと弱気な類はらしくないかな?
でも、つくしには弱いところも見せられるんだろうな、と。
それだけ好きで、信じてるってことでしょう。

『夜話』については…何ともお恥ずかしい限りで。
最近、表にこの手の話を出さないのがちょっと楽しくなってたり。
その分更新ペースは落ちますが、好みの分かれる内容なので、これもアリかな。
拍手の数がいつもより多くてびっくりしてますが、それだけ興味をもって読んでいただけてるのかなぁ、とも思います。

いやぁ、喜んでいただけてよかった!
これからもご満足いただけるよう、精進してまいります!(笑)

コメントありがとうございました!

2019/11/05 (Tue) 10:06 | EDIT | REPLY |   

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