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大切な絆

2
Category波の悪戯

茶事は粛々と進み、無事茶懐石を終えた。
あらかじめ作法の指導を受けていたつくしは終始落ち着いた様子で、母さんたちとの会話を楽しんでいた。
俺はといえば、もう何年も初釜なんて来てなかったし、作法もうろ覚え。
時々つくしにこっそり聞きながら何とかその場を凌いだ、って感じ。
…終わってから、両親と総二郎からダメ出しを食らったのは当然だけど。
東郷家とのことがなけりゃ断るつもりだったんだから、これくらいは許してほしいよね。

そんな東郷家の面々もさすがに場の空気を読んだのか、荒げた声を潜め周囲と穏やかに談笑している。
時折俺たちの方を睨んでるから、まだ気が済んではなさそうだけど。
次、どのタイミングでいちゃもんをつけてくるか警戒してたせいか、茶懐石の味なんて全然覚えてない。



中立ちのため外に出ると、何やらざわめきが起きていた。
周囲の視線に目を遣れば、その先にはよく見知った男とまったく知らない女の姿。
そして、その二人とは少し距離をおいて、また別のカップルが西門の門を潜るのが見えた。

「来るの、遅くない?」
「そうだね…何かあったのかな?」

それが総二郎の仕込みなのはその男、あきらの顔を見てすぐに気付いた。
慣れた手付きで女性をエスコートしながら、相変わらず涼し気な笑みを浮かべている。
けどそれは完全に作り物…てことは、隣の女はたぶん…

「東郷の愛人?」
「正解。」

あきらたちの到着を出迎えるべく現れた総二郎は俺の隣で立ち止まり、ニヤリと口角を上げた。

「相変わらずのマダムキラーだね。」
「本人は相当嫌がってたけどな。
 あの手のタイプは話もしたくないってよ。」
「そうなんだ。満更でもないのかと思った。」
「おいおい…さすがのあきらでも、そりゃねぇわ。
 さて、行くか…類、お前も来い。」
「え…何で?」
「これ以上はあきらが可哀想だろ。それに…」

総二郎の視線に促され、見遣った先には知らない外国人の男。
その腕を取っているのは、確かつくしと出会った海で見た女…な気がする。

「桜子が連れてる男…あれは智花の元恋人の一人。
 そこそこ大きい企業の後継ぎだったが、今は別会社の社長に就任してる。」
「…どいういうこと?」
「以前から花沢を吸収することを目論んでた東欧にしたら、ヤツの親の会社も使えると踏んだんだろ。
 智花を使い、ヤツを落とすことでその利権のすべてを手に入れようと画策した。
 その思惑に社長や役員も気付いたが、時すでに遅し。
 社長は責任をとって辞任した後、自殺。
 その妻は多額の負債を返済するカタに、東郷の愛人の組織に売られた。
 当然、智花は掌を返し、ヤツを捨てた。
 ただ、ヤツはそんな東欧を絶対に許さないと誓った。
 運よくQuatremerに拾われて再起、自らの手で会社を興したってわけ。」
「ふーん…」
「あきらが調べたら、そんな男はゴロゴロいてさ。
 正直、協力者には困らなかったぜ。
 そんな中でヤツを選んだのは、ヤツが智花の『一番』だからだ。」
「一番?」
「ああ。見た目も悪くねぇし、出自も文句ない。
 智花は父親の目論見を知っててヤツに近付いたんだけど、存外本気になっちまった。
 智花自身、ヤツとの結婚も考えてたらしいしな。
 会社が倒産して身ぐるみ剥がされた時点でその熱は冷めたけど、そんな相手を忘れるなんて早々できっこねぇ。
 それをヤツは逆手に取った。
 これはお前らだけじゃなくヤツにとっても、またとない絶好のチャンスだ。」

総二郎がやろうとしていることは何となくわかる。
でもこの状況でつくしの傍を離れるのは得策じゃない気がする。

「…つくしに何かあったらヤなんだけど。」
「大丈夫だって!ヤツは牧野のことは眼中にないし、桜子と優紀ちゃん、それにうちのSPも張ってる。
 むしろ、お前と牧野を離さなきゃ、意味がねぇ。
 心配すんな…牧野に指一本触れさせやしねぇよ。」
「でも…」
「それより、お前はあのタヌキ退治だろ?
 あの愛人は裏で売春シンジケートを仕切ってた女だ。
 要は、東郷にとって絶対に手離せない存在…そんな女が寝返ったとなれば、全てが明るみにされちまう。
 …間近で見てみてぇだろ?あのタヌキ親父の真っ青な顔。」

ククッと笑う総二郎に、薄気味悪ささえ感じる。
あきらと総二郎は昔っからこういう悪巧みが大好きで、絶対敵に回したくないと思ってた。
それに、たぶん司も何らかの形で関わってるはず…それも、かなりのダメージを与える方法で。

「ほんっと、俺の幼馴染って恐ろしいヤツばっか。」
「でも、嬉しいな。」

これまで何も言わず、ずっと話を聞いていたつくしがポツリと呟く。
『嬉しい』なんて思いながら聞いてたなんて、少しびっくりだけど。

「類とお義父さんなら、みんなの手を借りなくても同じ結果を導き出せたと思う。
 でも、それにはもう少し時間がかかったはず。
 類だけじゃなくて、優紀や桜子、それに滋さんもずっと心配してくれてたんだよね。
 その気持ちを一日も早く払拭してあげたくて、みんな協力してくれたんだな、って。」
「つくし…」
「この絆は大切にしないといけないね、類。」

つくしの言葉に頷くのは少し気恥ずかしさもあるけど、確かにそう思う。
それは父さんたちも思ってたみたいで、視界の端に見える口元が穏やかな弧を描く。

「ま、その返事はこの一件がすべて片付いたら、だな。
 あんまのんびりしてると、あきらがぶち切れっぞ。」
「…わかってる。」
「優紀ちゃん、後のことはよろしくね。」
「はい。」

総二郎の声かけに彼女はフワリと微笑み、そっとつくしに寄り添う。
ていうか、この彼女、ほんとに総二郎のプロポーズ断ったの?
全然普通に恋人以上の関係に見えるんだけど。

内心で小首を傾げながら歩き出した総二郎の背中を追うと、少し歩を速めた父さんが総二郎と並んだ。

「総二郎君、ここまでの協力、感謝するよ。
 せっかくの初釜の席を台無しにしてしまってすまないね。」
「いえ、初釜の方が亭主である家元が粛々と進めておりますのでご心配には及びません。
 それに、この結果は花沢社長の人望があってこそ。
 その手伝いができたことは、俺たちにとっても財産になります。」
「人望、か…それを言うなら、一番はつくしさんだろう。
 彼女と類が出会わなければこの日はなかった。」
「そうですね。けど、それは類の手柄なんですよ。」
「ほう?」
「あの日、誰よりも先に、彼女を見つけたのは類でしたから。
 まぁ、その後、かなりドタバタしてましたけど。」
「…そんなの、今言わなくてもいいじゃん。」
「でも、そのおかげで私たちも懐かしい再会を果たすことができたと聞いている。
 この巡り合わせに心から感謝しているし、彼女の言う通り、大切にしないといけないと思っているよ。」
「ですね。
 さて、ここからは花沢の役目…しっかりやれよ、類。」

ポンと肩に置かれた手に力をもらい、俺と父さんは目の前のターゲットをしっかりと見据えた。

これからすべてが始まる。

昂る思いを胸に、その一歩を踏み出す足に力を込めた。


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2 Comments

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2019/11/14 (Thu) 20:49 | EDIT | REPLY |   
聖

聖  

ま*こ様

こんにちは(*^-^*)
お久しぶりです!

読み逃げだなんて思ってないですよ。
来ていただけるだけで嬉しいので。
類パパ、がんばってます!
ぜひ、応援してあげてください(笑)

寒くなってきましたので、体調にはくれぐれも気を付けてくださいね。
コメントありがとうございました!

2019/11/15 (Fri) 10:00 | EDIT | REPLY |   

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