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Category波の悪戯

東欧商事の社長の元へ向かいながら、数ヶ月前のあの日の出来事が頭を過る。
就職する意思のないつくしを呼び出し、俺の愚行を嘲笑った社長。
その社長につくしは毅然と立ち向かい、俺や花沢を守ってくれた。
そんなつくしの思いを、あいつらは卑劣なやり方で踏み躙ろうとしたんだ。

「…絶対に、許さない。」
「…ああ。」

父さんも同じことを考えていたのか、悔しそうに口元を歪める。
つくしを愚弄し、会社を嵌めようとしたあいつらにはそれ相応の罰が下って当然だろう。

「とりあえず、俺はあきらを解放しに行くわ。」
「ん。あきらに礼言っといて。」
「それは全部終わったら、だろ。
 ここまでお膳立てしたんだ、失敗は許さねぇからな。」
「…わかってるよ。」

総二郎の背を目の端で見送り、再び意識を目の前のヤツらへと向ける。
むこうはこちらに背を向けていて、俺たちの存在にはまだ気づいていない。
その会話に耳を澄ませば、相変わらずな口ぶりで自社や娘の自慢話を声高に語っていた。

「欧州市場、とりわけフランス経済の安定は我社なしにはあり得んだろう。」
「ということは花沢物産が目下最大のライバルですか。」
「まぁ、花沢さんのところもがんばっているようだがね。
 うちは先代からQuatremer社と懇意にしている。
 花沢さんには悪いが、Quatremer社と我々東欧商事の前では今以上の成長は成し得ない。
 それにジュニアがアレじゃあ、先は見えていると思わんかね?」
「ですが、その専務も最近は真面目に仕事に取り組んでいると評判ですよ。」
「いやいや、彼がどう変わったかは知らんが、今更な話。
 花沢社長が有能なだけに残念だよ。
 だから、戦友としてせめてもの手助けにうちの娘をくれてやると言ってやったんだ。
 なのにこちらの好意を無にするとは、花沢社長もまだまだだな。」
「ほぅ…」
「ご覧の通り、うちの娘は美人で気立てがいい。
 英国の有名大学に留学していたし、交友関係も広い。
 彼も見た目はそこそこ悪くはないが、うちの娘の前じゃ霞んでしまうんだろう。
 だからあんな平々凡々な娘を選んだに違いない。」

ガハハと耳障りな高笑いが辺りに響き、彼を取り囲んでいた男たちは思わず苦笑を浮かべる。
この社長に異を唱えても、それ以上の自慢話が返ってくるだけ。
その場にいる男たちの表情がそう物語っていた。

「…そろそろ黙らせないと、他の客に迷惑がかかるな。」

ポツリと呟いた父さんに、俺も同意の意味を込めて小さく頷く。
周りの客に対してもそうだけど、俺自身がこれ以上耐えられない。
俺だけじゃなく、父さんやつくしのことまで馬鹿にされたら、黙ってろって方が無理な話だ。

父さんはハァと呆れた溜息を零し、一歩踏み出す。

が、その時。

「…あ、Quatremer社といえば、近々NY市場に参入するらしいじゃないか。」

それはフランスでのWebミーティングの際に、司が冗談交じりに言っていた話だろう。
ダニエルも興味津々だったし、Quatremerとしても悪い話じゃない。
おそらくまだ本決まりにはなっていないだろうけど、あの二人の間で話が進んでいてもおかしくはない。
そして、この情報を流したのが誰なのかも、何となくわかった。

「え?マジで?」
「ああ。Quatremerの専務と親しい知人から聞いた話だから満更嘘じゃねぇと思う。」
「てことは、東欧商事も?」

どこかから聞こえてきた声に、東欧の社長が耳聡く反応を示す。
背中越しで表情はわからないけど、たぶん狼狽えてるはず。
ならば…

「羨ましい話だね。詳しく聞かせてよ。」

俺は迷うことなく足を踏み出し、その声の主の元へと歩み寄る。
…東欧の社長とすれ違う瞬間、チラッと一瞥をくれて。

「なっ…貴様!いつの間に…っ!」

憤るおっさんには目もくれず、俺はにこやかにその男へと声を掛けた。

「それ、ダニエルが言ってたの?」
「お、俺は知人から聞いだけだけど…」
「そうなんだ。
 けど、QuatremerがNYにって話は嘘じゃないよ。
 そのバックには道明寺が付いてるし。」
「え…それって…」
「この話が実現すれば、確実にQuatremerの業績は上がるよね。
 企業としてはより収益の高い方を選択するだろうし、拠点をNYに移すかも。
 花沢としては全然痛くも痒くもないけど、Quatremerに頼りっきりの東欧商事はどうなると思う?」

クスッと笑みを零した俺に、目の前の男は驚きを隠せない。
Quatremerがフランスから撤退するなんてあり得ない話。
NY市場はあくまでも道明寺との業務提携にすぎない。
こんな冗談めいたハッタリを鵜呑みにするなんて、どこまでおめでたいヤツらなんだろ。

「け、けど…もし本当にQuatremerがNYで成功したら、東欧商事のNY進出も…」
「それはどうかな?
 そもそもこの話は司とダニエルの間で進めている商談。
 司がQuatremerのどこに魅力を見出してるのかは知らないけどね。
 Quatremerとしてはまたとない商機を得たんだ、乗らない手はない。
 偶然とはいえ、二人を引き合わせたのは俺だけど、それ以前に俺たち花沢とQuatremerを縁付けたのは…」

一旦言葉を切って振り返り、少し離れたところに立つその姿に目を細める。
出会った頃は少し幼い印象だったのに、この数ヶ月で見違えるほど大人っぽくなった。
辛く哀しい経験もしたけど、その一つ一つがつくしを成長させたことは間違いない。
周りの空気に委縮することなく背筋をピンと伸ばし、凛とした佇まいは誇らしくも思える。
決して惚れた欲目なんかじゃない。
今あそこにいるのは『牧野つくし』ではなく『花沢つくし』…俺の妻、だ。

「ま、まさか…」

ざわつく周囲の声に、背後の男も動揺を隠せない。
すかさず狙いすましたように声を発したのは、誰でもない、父さんだった。

「あの日…彼女の辞退を受け入れていたら、こんなことにはならなかっただろう。
 すべては東郷社長、あなたのくだらない目論見が招いた結果だ。
 花沢を陥れようなど、百年早い…せいぜい己の傲慢さを恨むんだな。」


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