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空気を読む

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Category波の悪戯

激しい怒りの炎を内に秘め、淡々と告げる父さんの声に辺りの空気が凍る。
その迫力に、さすがの東郷社長もぐうの音も出ず、ギリギリと歯軋りが止まらない。
が、その隣に立つ社長夫人は心ここに在らずといった風で、その鋭い視線を別のところへ向けていた。

そんな中、ただ一人…東郷智花だけは場の空気を読むことなくその目を爛々と輝かせ、俺を見つめにこやかに微笑んだ。

「類さんっ!パパたちは放っておいて、私たちはむこうでお話しましょ!」

嬉々とした口振りで俺の腕に触れようとした、その時。

「…失礼します。」

智花の手を阻むようにスッと現れたのは、さっきから俺の様子をずっと見つめていた男の一人。
それが西門が配備していたSPであることは、誰の目から見ても明らかだった。

「な、何なのよっ!あなたたちっ!」
「家元より厳命されております…お控えください。」
「ちょっ…!どういうことよっ!
 私は類さんの妻になる人間よっ!何の権利があって…」

この期に及んで分を弁えない振舞いに、怒り以上に呆れて物が言えない。
父親である東郷社長も苦渋の表情で娘の愚行を諫めるが、当の智花はまったく耳を貸さず、好き勝手なことを喚き散らした。

「ママ!何とか言ってよっ!
 ママが言ったのよ!私と類さんは運命の赤い糸で結ばれてるって!
 パパも!類さんと結婚したら、花沢の財産は全部私の物になるんでしょ!
 パリのお城のようなお邸も、イタリアの別荘も…世界中にある花沢の別荘は使い放題だって言ってたじゃない!」
「お、おい…」
「類さんの妻になれば、道明寺家や美作家と懇意になれる!
 そうすれば、アメリカもアジアも…世界中が私の物になるんでしょう?」

図らずも露見した東郷家の目論見に、周囲の視線は冷やかだ。
まさか自慢の娘がそれをバラしてしまうなど、思ってもなかっただろうに。

「…憐れだね。」

俺の冷やかな声音に智花の表情が強張る。
生まれてこの方、羨望の声にしか耳を貸さなかった女に、俺のその一言がきつく突き刺さる。

「類さんっ!ひどいわっ!
 私はあなたの妻になることだけを信じて生きてきたっていうのに、」
「そんなの、そっちが勝手に思ってただけだろ。
 今のこの状況でまだそんなことが言えること自体信じられないんだけど。」
「でも、私は…っ!」
「…やめなさい、智ちゃん。」
「っ!…紗菜子ママ…」

紗菜子と呼ばれたのは、さっきあきらが連れていた女…東郷社長の愛人で、東郷の裏を仕切ってきた人物。
これまでのやり取りを静観していたが、耐えきれず声を発したといったところか。

「紗、菜子…お前、どうしてここに…」
「お久しぶりね、正嗣さん。…奥様も。」
「フンッ…ここはあなたのような女の来る場所ではないわ…さっさとお帰りになったら?」
「あら、失礼ね。私もご招待を受けたのよ?
 それに私も一応、東欧商事の理事なわけだし。」
「そんなの、私は認めた覚えはないわ。
 理事っていったって、所詮役員報酬という小遣い目当てってだけでしょう?
 ご自身の立場を弁えていただきたいわね。」
「や、やめないか、二人とも…」

突然の愛人の登場に狼狽える東郷社長を余所に、女二人の睨み合いは続く。
正直、そんなの興味ないし、どこか別のところでやってもらいたい。
が、ここでも智花のKYっぷりが炸裂する。

「紗菜子ママ!みんな、ひどいのよ!
 今日、私は類さんの婚約者としてお披露目してもらうつもりだったのに!
 そのために着物も新調したし、この帯留めだって急いで作らせたの!
 あんな地味な女と私、どっちが類さんの隣に立つのに相応しいか、紗菜子ママからみんなに…」
「智ちゃん…見苦しい真似はおやめなさい。
 それに、いくら海外生活が長いとはいえ、初釜の席での礼儀も知らないなんて恥ずかしい。
 ここはパーティーではないのよ?
 これじゃ、招待してくださった家元ご夫妻に顔向けできないわ。」
「何でよ!家元夫人も素敵な着物だって褒めてくれたわっ!
 指輪やピアスだって、着物に合わせて選んだの!
 私はここにいる誰よりも華やかで、この質素な庭に咲くバラみたいで…」
「智花っ!いい加減にしなさいっ!」

東郷社長の叱責も、智花の暴走を止めることはできない。
周囲からは失笑が漏れ、ヒソヒソと囁かれる言葉はどれも東郷家を嘲笑うものばかり。
それでも智花はギャーギャーと喚き散らし、しまいには両親や愛人までもディスる始末。

「パパもママも、紗菜子ママも、全っ然わかってない!
 私が今日をどれだけ楽しみにしてたと思ってるの!
 やっと類さんに会えたのよ!邪魔しないでっ!」

…いやいや。
状況を悪化させてる張本人が何を言う。
もはや溜息すら吐くのも面倒で、目の前に立つSPに『これ、何とかしてよ』とボヤくと微かな苦笑が返された。

「…貴方も大変ですね。」
「そう思うなら何とかしてよ。」
「こちらとしても、事態の収拾を図りたいのは山々です。
 ですが、この状況では何を言っても無駄かと。」
「…だよね。」

そんな話をしている間も、智花は『自分は一切悪くない』と自己主張を続けている。
その傍には狼狽えながらも何とか智花を宥めようと必死な父親の情けない姿。
そして娘の暴走を余所に、夫人と愛人は相も変わらず冷やかな攻防を繰り広げている。

と、その時、目の前のSPの表情に一瞬緊張が走った。

「…何?」
「…マイケル・ジョンソン氏が牧野様に接触するようです。」

その人物の名前までは聞いてなかったけど、それがさっき総二郎が言ってた男だと何となく気付く。

「本当に大丈夫?」
「心配には及びません。
 牧野様の傍に控えているSPは、通常家元付きの者ですので。」

つくしのいる方向を見ると、明らかに雰囲気の違う男が二人、その動向に目を光らせているのがわかる。
当のつくしは久々に会った友人との再会に笑顔を見せていた。
そして、その連れの男にも。

「…ズルい。俺もあっち行きたい。」

大丈夫だって言われても、やっぱり俺が守りたいと思うのは当然。
遠目に見ても、居並ぶあきらや総二郎に引けを取らないくらいだから、それ相応に華があるんだろう。
隣に立つ桜子とかいう女も、満更でもなさそうだし。

離れてるから何を話してるかまではわからない。
けど、つくしの顔を見れば何となくわかる…明らかにこっちを警戒してる。
彼のターゲットは智花。
その気を引くために、何をしてくるか…と、思ったら。

「っ!」

あろうことか、あいつ、つくしの手を取って…

「ちょっ…!!」

思わず叫んだ俺の声に反応した智花が、俺の視線を辿る。
と、たちまちその表情を変え、着物の裾が開けるのも気にせず走り出した。


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