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手の甲

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Category波の悪戯

類とお義父さん、そして西門さんを見送ると、その場に残ったのは優紀とあたし。
お義母さんはお義父さんの名代で、茶室へと行っている。
優紀とは積もる話があるけど、どこで誰が聞いているかもわからない状況で深い話はできない。
それに、いつ、あの女がこっちに向かってくるかと思うと、気を抜くこともできない。

「去年のお正月とは、全然違うね。」
「うん。去年は一緒に初詣行ったよね。」
「そっか。あれからもう1年経ったんだね…早いなぁ。」
「だね。そういえばもうすぐ大学卒業だよね?」
「あー、うん…でも卒論提出がまだなんだよね。
 ここ最近は今日のための準備が忙しかったから、終わったら真面目にやらないとだよ。」
「つくしなら大丈夫でしょ。
 これからもっと寒くなるし、風邪引かないようにね。」
「うん。優紀も仕事忙しいだろうけど、体調には気を付けてね。」

他愛ない会話をしながらも、目は類の姿を追う。
そのすぐそばには東郷社長と夫人、そしてあの女の姿も見えた。
聞こえてくるのは東郷社長の声ばかりで、そのほとんどが自分の会社や家族の自慢ばかり。
凛とした雰囲気の庭園に東郷社長の豪快な笑い声は何とも不釣り合いで、気分が重くなる。

「お待たせ。」

西門さんと美作さんが二人連れ立ってあたしたちの元へと戻ってきた。
美作さんは少し疲れた様子で、首をコキコキ鳴らして、ふぅと息を吐く。
いくら親友のためとはいえ、好きでもない女性をエスコートするのは苦痛に違いない。

「美作さん、お疲れさまです。」
「ん?あぁ、全然平気。このくらい慣れてるしね。
 心配なのは類の方。それでなくてもこういう場は嫌いだしな。」

背中を向けている類の表情は見えないけど、かなり不機嫌なのはその雰囲気からわかる。
東郷社長の雰囲気ぶち壊しな高笑いと類の不機嫌オーラのせいで、周りの人たちの笑顔もどこかぎこちなく見えた。

「しかたねぇよ、アレじゃ…類じゃなくても不機嫌になるって。
 まぁでも、笑ってられんのも今のうちだけだろ。」
「だな。それより桜子の方は…」

美作さんの視線を辿るようにその先へと目を向けると、数人の男性の中に少し小柄な女性の姿が見える。
その隣にはスラリと背の高いブロンズヘアのイケメン。
二人はまるで本物の恋人同士のように親し気に身を寄せ、時折顔を寄せて何かを囁き合っている。

「桜子ってば…」
「ま、あいつもあきらと同じ…あの手の男の扱いには慣れてるしな。
 そういう意味でも、この役は桜子が適任だろ。」
「そうだけど…」

そういえば、桜子は確か美作さんといい感じだったはず。
あれから何か進展はあったのかな…後で聞いてみなくちゃ。

そんなことを考えながら桜子たちの様子を窺っていると、こちらの視線に気付いた桜子が隣の男性に何やら耳打ちをして微笑む。
そして、二人は身を寄せ合ったままその場を後にして、あたしたちの元へと足を向けた。

「お待たせしてすみません。」
「桜子、久しぶり。
 相変わらずな感じで安心したよ。」
「お久しぶりですわね、先輩。
 素敵なお着物で見違えましたわ。」
「桜子の着物も素敵だね。」
「まぁ、私の美しさを引き立たせるには丁度いいかと。
 おかげで殿方がなかなか離してくださらなくて困りましたわ。」

相変わらずの、少し高飛車な物言いが何だか懐かしい。
少々辛辣な皮肉も、それが桜子なりの褒め言葉だってことくらい、ちゃんとわかってる。

「花沢さんともうまくいってるみたいですわね。」
「うん…いろいろと心配かけてごめんね。」
「いえ。先輩のことです、また怖気づいて逃げ出すんじゃないかと、そちらの方が心配でしたわ。
 ですが…そのお着物を見て、少し安心いたしました。」
「うん。花沢の両親も、本当の娘みたいに思ってくれてて。
 あたしなんて何も持ってないのに、烏滸がましいっていうか…」
「それは先輩が気にすることじゃないと思いますけど。
 そもそも花沢の人間として認めてなければ、そのような家紋入りの着物を着ることを許すはずがありませんわ。」
「そっか…」
「先輩の自己評価が低いのは今に始まったことではありませんし、今すぐ直せるものでもないでしょう。
 ですが、時にその姿勢が失礼に当たることもあることは理解しておいた方がいいと思います。」
「…わかった。」

桜子が言うことは正しいんだろう。
自分の出自を気にしすぎて変に遜るのは、類や類の両親に対して失礼になるのはわかる。
家紋入りの着物を着せてくれたお義母さんの気持ちを無にすることだけはしたくない。
周りが認めてくれるかどうかはあたし次第。
だったら、認めてもらえるようにがんばるしかない。


もう一度気を引き締め直して、背筋を伸ばす。
そして、桜子の隣に立つ男性へと視線を向けた。

『はじめまして。牧野つくしです。』

教えられた通り、背筋を伸ばしてゆっくりと頭を下げる。
外国人ならばお辞儀じゃなく握手の方がよかったのかな?
でもここは日本だし…なんてことを考えながら顔を上げると。

「へぇ…パトリシアの言ってた通り、君の笑顔は本当に美しいね。」

見上げた先の青く澄んだ瞳が僅かに丸くなり、薄い唇からは嘆息が漏れる。
彼から発せられた綺麗な日本語、それにパトリシアの名前まで飛び出し、あたしもびっくりして思わず『えっ?』と声を漏らした。

「あぁ、すまない…僕はマイケルだ。」
「…日本語、お上手なんですね。」
「Quatremer社との契約の時に、日本語をマスターするように言われてね。
 ダニエルとパトリシアに教えてもらったんだ。
 元々ダニエルとは大学時代からの付き合いでね。」
「そうだったんですか。」

さっき西門さんが言ってた話では、彼の父親の会社も東欧商事に潰された一つ。
ダニエルと親しかったのであればQuatremerが助けたってのもあり得ない話じゃない。

「今回、日本に行くと言ったら、ダニエルが君たちのことを教えてくれてね。
 パトリシアは君のフランス語の家庭教師なんだろう?
 また近いうちに会いたいと話していたよ。」
「ええ、あたしも。
 ただ、しばらくは少し忙しくて、すぐにとはいきませんが。
 今回のお礼もありますし、できるだけ早く伺いたいと伝えていただけますか?」
「OK。伝えておくよ。」
「ありがとうございます。」
「…それじゃ、少しだけ我慢だよ…つくし。」

澄んだ青い瞳から笑みを消し、少し表情を強張らせながらマイケルはあたしの前へと跪く。
そして、そっとあたしの手を取ると。

「ごめんね…」

そう呟いて、あたしの手の甲にそっと唇を寄せた。


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2019/11/24 (Sun) 20:26 | EDIT | REPLY |   

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